魔法仕掛けのルーナ

好永アカネ

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アレク編

魔法使いの街 4

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 声がした方を見ると、先ほどから何度も出くわしている男性客達が、ニヤニヤと無遠慮な視線をこちらに向けていた。
「迷子かぁ? 田舎モン」
 一人が大声で言うと、残った二人があたりを憚らずに笑い声をあげる。
 アレクは内心ムッとしたが、努めて表情には出さなかった。
(どっちも事実だ、落ち着け。意地を張ってもどうにもならないぞ)
 彼は何食わぬ風を装って男達に近付いていった。距離が狭まるにつれて男達の顔から笑みが消え、代わりに、警戒心もあらわに眉根を寄せ始める。
 歓迎されていない気配を感じ取ったのだろう。その頃にはアレクは歩みを止めていた。両者の間にあるものは、男達が陣取っているものとは別の、空っぽのテーブル一つだけだった。
 男性客達は、見たところ三十代半ばから四十代前半と思われた。服装はさすがに都人みやこびとだけあって洗練されていたが、酔っ払ってあたりに絡むような手合いは地元にもいたので、アレクはさほど気後れしなかった。ひとりでに動く透明な壁と比べたら断然こちらの方が気安い。
「ちょっと道を聞きたいんですけど、いいですか?」
「あぁ?」
 いかにも荒っぽい返事をしたのは、先ほど仲間を煽っていた男だった。どうやらこの三人の中では中心人物に当たるようだ。アレクは彼に照準を合わせた。
「北の森というのは、この先の森で合っていますか?」
「それがどうした?」
「森の中に用があるんです。……他に入り口はありますか?」
 男達は皆憮然とした表情になり、ちらちらと視線を交わし合った。しかし、よくよく見ると三人が三人とも肩を震わせている。
 一人がぷっと吹き出すと残る二人も笑い出し、再び品のない歓声があたりに響き渡った。
 これにはさすがのアレクも顔をしかめた。
「なんですか、一体?」
「ここは無能者が来るとこじゃねぇんだよ。田舎に帰りな!」
 男はそう言い捨てて、また笑っている。
(なんだ、ムノウシャって?)
 耳に覚えのない単語だった。気にはなったが、もはや会話する気が失せたアレクは、これ見よがしにため息をついて身を翻した。
「まともな人を探そう」
 声に出すつもりはなかったのかもしれない。しかしそのぼやきは不運にも、そばにいた人間に拾われてしまった。
「口の聞き方に気を付けろ、能無しが!」
 背後からの怒声が耳を刺し、アレクは反射的に振り返った。すると、リーダー格の男が立ち上がりざまにテーブルを蹴り上げたところだった。飛んできたそれを、身をよじって躱す。
 木製のテーブルが石畳に叩きつけられ、乾いた音を立てて転がった。
「危ないじゃないか!」
「てめぇのツラを見てたらイライラしてきたぜ。身の程を教えてやる」
 まだ座ったままの二人が指笛を鳴らし、「いけ! ダラン」「やっちまえ!」と仲間を煽った。
 アレクは両の拳を握りしめ、ダランと呼ばれた男を睨みつけた。
 これまで荒事にはあまり縁のない生活をしてきたが、なんだかんだ家業で鍛えた腕力には自信がある。酩酊している相手に負けるはずがないという矜持があった。彼はまだ若く、世間を知らなかったのだ。
 対するダランは、アレクに退く気がないと見て意地悪く笑うと、ゆっくりと右の手のひらをアレクに向け、腕を伸ばした。
 アレクが眉をひそめるのと、ダランが叫んだのはほとんど同時だった。
「踊れ!」
 ダランの手が突如燃え上がり、そこからちぎれた炎が丸く渦を巻いて、アレクに向かって飛んで行った。
(魔法使い!?)
 驚いたアレクが後方に飛び退ると、足元で炎が炸裂し、あたりに火の粉を散らした。アレクは両腕で顔をかばったが、バランスを崩して尻餅をついてしまう。
 火の玉はその後もいくつも飛んできた。転がって避けるのが精一杯だ。男達の笑い声が聞こえてきて、アレクは唇を噛んだ。
(くそ、どうにかして逃げないと)
 なんとか立ち上がろうとしても、火の玉が執拗に追いかけてきてどうにもうまくいかない。遊ばれていることはわかっていたが、転がりまわっているうちに徐々に体力が奪われていった。
 ついに息が上がり、思考がまとまらなくなってきたその時、どこか遠くから場違いな明るい声が近付いてきた。
「ダラン? そこにいるのはダランじゃないか? 久しぶりだなぁ、元気そうじゃないか」
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