魔法仕掛けのルーナ

好永アカネ

文字の大きさ
上 下
15 / 25
アレク編

魔法使いの街 3

しおりを挟む
 走りに走って、ようやく目指していた場所に辿り着いた時、アレクは疲労困憊といった様子だった。もう余計なものには関わるまいと気を張っていた結果だろう。
 彼の目の前には森があった。
 人工物にあふれた街中とは打って変わって、自然のままの姿を保っているように見える。ほんの入り口に立っているだけでも静謐な香りが鼻腔に届き、アレクの心は落ち着きを取り戻していった。
(兄さんの家は、この先だな)
 ちらと背後をうかがうと、まるで、隙間なく並んだ建物に森が囲まれているかのようだった。実際は逆である。建物と森の間には石畳が敷かれていて、ちょうどアレクが立っているあたりで途切れている。
 このように、みやこの北側は森に面しているのだった。みやこの住民の間では単に『北の森』と呼ばれており、取り立てて広くはないのだが、魔法に関わる資源に満ちているため『学園』で管理されている。森で採集したものを持ち出すなり活用するには『学園』の許可が必要で、一定の資格なきものは立ち入ることもできない。
 アレクはもちろん、そんな事情は知らなかった。兄であるフリードは家族が自分を訪ねてくることを想定していなかったので、森の中で暮らしていること以外、みやこのことはほとんど話して聞かせたことがなかったのである。そのため、アレクはかけらも躊躇わずに森に足を踏み入れた。
 馬車で会った都人みやこびとは、さすがに森の中の地理までは把握していなかった。ここから先は手探りである。
 きちんと舗装された道はないようだし地図も持っていないが、例え獣道と大差なくとも道に沿っていればどこかには辿りつくはずだ。アレクはそう楽観していた。
 踏み固められた土の上をしばらく歩いて行くと、ほどなくして木々の向こうに街並みが見えてきた。
(森の中にも街が?)
 さしものアレクも奇妙に思った。足の運びが慎重になる。
 森を抜けると足元が石畳に替わり、それは前方の街の方に続いていた。
 正面は飲食店だ。そろそろ昼時だが客はほとんどいない。オープンテラスのテーブルで埋まっているのは一つだけで、三人の中年男性が席についている。
 アレクはその客たちに見覚えがあった。彼らは酒でも入っているのか、だらしなく背もたれやテーブルにもたれかかっている。
(戻ってきちゃったのか?)
 森の中には道は一本しかなかったはずだが、知らず知らずのうちにぐるりと一回りしてきてしまったのだろうか?
 疑問が頭をもたげたが、とにかく気を取り直すと、アレクは踵を返して再び森の中へ入っていった。
 まっすぐ、まっすぐと意識しながら歩いていたが、しばらくするとまた森を抜けて、先ほども見た三人の呑んだくれと対面することになった。
 男達はニヤついた顔を付き合わせてヒソヒソと何か話し合っているようだった。アレクはなんだか嫌な気分になってきた。
 再び森に入る。
 今度こそ不覚は取るまいと、何度も後ろを振り返り、街並みが遠ざかるのを確認しながら歩いた。飲食店の屋根のてっぺんまで木々の向こうに消えるとようやく安心して、アレクは正面を見据えた。するとどうだ、ついさっきまで背後に見えていたものが正面から近付いてくるではないか。
 アレクは思わず駆け出して、木陰から飛び出した。彼はまたしても森の入り口に立っていた。
「どうなってんだ!?」
 戸惑いが口を衝いて出る。
 その時、下品な笑い声が起こった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...