魔法仕掛けのルーナ

好永アカネ

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フリード編

フリード・シアン1

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「あれ?」
 いつもの引き出しを開け、差し入れた右手が空を掴む。覗き込んで見ると、中は空っぽだった。
 その下の段も開けてみたが、やはり何も入っていない。
 僕はきょろきょろと部屋の中を見回した。しかし、探し物はすぐ目に入るところにはないようだ。
「ハンカチはどこに行った?」
 僕の囁きは、窓を叩く雨音にかき消された。
 仕事を始める前に身支度を整えようと思ったのだが、上着のポケットに入れておくハンカチがいつもの場所にない。昨日まではたくさん入っていたはず。一体どこに行ってしまったのだろう。
 記憶を辿ってみても、自分がこの引き出しの中身を空にした覚えはない。そもそも、昨日一枚取り出した後、引き出しには一度も触れていないはずだ。よって誰かがハンカチを移動させたとするならば、僕ではないことは確かだ。
 この家で僕以外に引き出しを開けられる存在は、一人しか考えられない。
 僕は、半開きの扉から頭だけを廊下に出して彼女を呼んだ。
「ルーナ、どこだい?」

 ルーナは僕が常時供給している魔力で動いているゴーレムで、人間の若い女性の姿をしている。
 彼女を作ったのは、誰かに家事をやってもらって自分は仕事に集中したかったからだ。
 しかし生まれたばかりの彼女はまさに赤ん坊のようで、自分の世話すらままならなかった。彼女に家事をやってもらうためには、まず僕が家事技能をしっかり身につけてから、彼女に教え込む必要があった。
 幸いにも、最初から知能は人並みにあり、会話による意思疎通もできたので、なんとか半月ほどで一通りの家事はこなせるようになってくれた。
 そうだ、家事といえば、印象的な出来事がある。

 あの日も雨が降っていた。
 昼過ぎ。いつもならば彼女が食事の用意をし、出来上がったら呼びに来てくれるのだが、なかなか来ないので、僕は適当に仕事を切り上げて彼女を探しに行くことにした。
 彼女は、前日に僕が身につけていた衣類が入った籠の前でじっと佇んでいた。どうやら、『洗濯はしなければならないが、干すと濡れてしまうので干せない。しかし洗濯はしなければならない。しかし濡れてしまう』と、延々と考えていたようなのだ。
 普通ならば『濡れるとまずい』とわかっているなら『濡れないところに干せばいい』のだと思いついてもいいところだが、そうはならず、彼女は自力で答えを出せずに半日そこで立ち尽くしていたのだった。
 人工知能というものは案外と不自由なのだなと僕は思った。

 その後の学習は書物に頼っている。
 彼女と同居し始めて二ヶ月ほどが経ち、彼女のコミュニケーション能力が、ようやく人前に出しても問題ないレベルになったと判断した僕は、彼女を図書館に連れて行った。
 僕は彼女に図書館のシステムや利用方法を説明し、料理などの生活に必要はことはここで学び、より効率よく作業ができるよう努力するようにと伝えた。
 そうして彼女は、家事の合間に足繁く図書館に通うようになった(ゴーレムには戸籍がないので、貸出カードは僕の名義で作った)
 ちょっとした問題が起きたのは、それからしばらく経ってからのことだ。
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