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竜人の性質

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「ええ?マリーア王女が来たの?」

 その後、ベルタさん達が来てくださったため、私は先ほどエーギル様とマリーア様が訪ねてきてお茶をした事を話すと、とても驚かれてしまいました。気安くお茶に誘ったのはまずかったでしょうか?でも、ルーベルト様も何も仰らなかったので、特に問題はないと思うのですが…

「特に問題はないけど…その…マリーア様は陛下にずっと片思いしていたんだよ。だからどういう意図で来たのかが気になってね」
「ええ?そうだったんですか?」

 それは初耳でした。だってセーデン王家は虎人だと聞いていたので、ジーク様が番だったら随分前にわかっていたと思うからです。それに獣人は初恋=番なので、番でもない相手を思い続ける事はないと思っていました。それに、マリーア様からはジーク様に特別な感情を抱いているような雰囲気は感じられませんでしたが…

「マリーア様は、虎人じゃないんだよ」
「ええ?でも、エーギル様はそうですよね。それにあの国の王族は虎人だと…」
「うん、王族は虎人が継ぐんだけど、今の王は女王でね。女王は未だに番に出会っていないから、王配が三人いるんだよ」
「王配って…夫が三人も?」
「そう。一人目と二人目の王配は虎人なんだけど、番じゃないせいか、中々子どもが生まれなくてね。三人目の夫も番じゃないけど、女王陛下の幼馴染の兎人で、こっちとは子供が二人いるんだ。ちなみに虎人の夫の子はエーギル様一人だよ」
「そうだったのですか…」
「セーデンの王は虎人と決まっているから、王位継承者はエーギル様だけなんだ」

 夫が三人とは、ちょっと想像が尽きませんが…でも、王族では子がいないと側妃や妾妃を持つ事もあるので、そのような感じでしょうか?しかし、夫を三人もとは…ちょっと想像が尽きません。
 番と出会わなかった獣人の中には、番以外の方を伴侶にする事もあると聞いた事はあります。王族は跡継ぎを残すのが義務なので、番に出会わなければ跡継ぎのために番以外を伴侶にする事もあるのだとか。

「マリーア様は兎人の夫との子だから兎人で、番の概念が希薄なんだ。そのせいか、子どもの頃に陛下に一目惚れしてからはずっと陛下一筋でね。そのせいで婚期を逃したとも言えるんだ」

 なるほど、そうなると私はマリーア様の恋敵…と言う事になるのでしょうか。それは…何となく面倒な予感がします。

「でもマリーア様は、近々ルーズベールのユリウス王子に嫁ぐと聞いたわ」

 ルーズベールのユリウス王子ですか。確かルーズベールは肥沃な土地を持つ農業大国だと聞いています。セーデンは常に食糧問題を抱えていたはずなので、ルーズベールとの関係強化をお望み…という事でしょうか。

「お二人の仲も良好だと聞くよ。ユリウス王子は聡明だと評判はいいし、お似合いだと思うわ。さすがにもう陛下の事は諦められたでしょう」
「そうだといいんだけど…」
「それに、エリサ様が番だって事はご存じなのでしょう?だったら吹っ切れるわよ。竜人の番に勝てる筈がないんだから」
「ま、それもそっか」

 とても意外な話で驚きましたが、やはり思い返しても、マリーア様からジーク様への特別な感情があるようには見えませんでした。と言う事は、既に吹っ切れたと思ってもいいのでしょうか?この事は何となく気にはなりましたが、カミラと言う悩みの種の影響でしょうか、私の記憶にはあまり残りませんでした。





「やぁ、エリサじゃないか」
「エーギル様…」

 翌日、ユリア先生が所用でいらっしゃらず、三人で庭に出てお茶をしているとエーギル様が声をかけてきました。聞けばジーク様のところに顔を出した帰りだそうです。この方はジーク様や宰相様とは古い付き合いなのもあって、王宮内も顔パスなのだとか。まぁ、それでも護衛や侍女は付いていますが、エーギル様の奔放さに苦労していらっしゃるみたいで、護衛の方が渋い顔をしていらっしゃいます。お勤め、大変そうですわね…

「ああ、ベルタも久しいな。暫く見ない間にまた綺麗になったんじゃないか」
「エーギル殿下、お久しぶりです。相変わらずですね」

 どうやらベルタさんとは顔見知りのようで、エーギル様の調子のいい台詞にベルタさんが苦笑しながらも対応していました。どうやら普段からこんな感じのようですわね。そして何事もなかったかのように、お茶に加わっています。
 今日のエーギル様は深緑を基調とした衣装を身に着けていらっしゃいます。どうやらセーデンの民族衣装のようですわね。火山と砂漠の国は暑いのでしょう、衣装は薄衣で露出も多めですが、そんなところもエーギル様のワイルドな風貌によくお似合いです。

「やっと結婚式か。ジークもようやく念願叶ったりだな」
「え?」
「いや、だってエリサは番だろうが」
「え、ええ、そうですけど…」
「番が見つかったのに番わないのは、結婚式まで待つって約束でもしているんだろう?でなきゃ、竜人が手を出さないなんてあり得ないからな」
「は?」
「エーギル殿下、その話は…」

 いきなりの発言に、私は目が点になってしまいました。隣でベルタさんがやんわりとこの話題を避けようとしてくれていますが…えっと、それって…

「なんだ、何でそこで驚くんだ?」

 どうやら私の反応が意外だったようで、エーギル様が紅の目を見開いて何を言っているんだ?と言う表情で私を見ています。

「え、いえ…あの、竜人ってそうなのですか?」
「そうなのかって…そりゃあ竜人だからな。あんな独占欲と執着心の塊、他にいないだろう?トールなんか番を絶対に人前に出さないし。あいつとは付き合いが長いが、番に会った事は一度もないぞ」
「そ、そうなのですね…」
「なんだ?知らなかったのか?」
「ええ、その、母国では獣人と接する機会もなかったもので」

 そうです、マルダーンには獣人がいなかったため、獣人の習性は殆ど知る機会がありませんでした。こちらに来てから色々と教えて貰ってはいますが…

「俺たち虎人も人の事は言えないが、竜人程じゃないからなぁ。あいつら、何させても極端だぞ。番を見つけたら一月コースなんてざらだしな」
「一月コース…って、何が?」
「ああ、番を抱き潰す期間」
「エーギル殿下!」

 何だかとんでもない事を聞いた気がします。だ、抱き…って…

「殿下、お戯れはお控えください、といっつも言われていますよね?」
「あ~悪い悪い、お嬢ちゃん達には刺激が強かったな。でも、狼人だって似たようなもんだろうが、ベルタ?」
「そ、それは…」

 ベルタさんの抗議もどこへやら、エーギル様はカラカラと笑って聞き流しています。まぁ、女性関係が派手だと伺っていますし、ベルタさん曰くエロおやじだそうですから、この手のお話がお好きなのでしょうね。そしてベルタさんが困惑した空気を漂わせているところをみると、仰っている事はどうやら嘘じゃないのですね…

「まぁ、身体を作り変えるためでもあるから仕方ないけどな。そうしなきゃ子も出来ないし、寿命も延びないから」
「そ、そうなんですか…」
「なんだ、それも知らないのか?そうやって獣人は番を自分に合せていくんだよ。ま、竜人は竜玉も必要だけどな」
「……」
「おいおい、そんなんで大丈夫か?これくらいは獣人の常識の範囲で、子供でも知ってる事だぞ」

 エーギル様が心底呆れたといった表情を浮かべましたが…竜人と言うか獣人ってそうなのですね、知りませんでした…どうやって寿命を延ばすのかと思っていましたが、そういう事だったのですか…何と言いますか、コメントのしようがありませんわ…

(ジーク様とって…考えていなかったわけじゃないけど…)

 いずれは…とは思っていましたが、こうも具体的に聞かされると、何と言うか、まだ聞きたくなかった…が正直な気持ちかもしれません。ジーク様はいつまでも待つと言って下さったから、まだまだ先の事だと思っていましたし…

 それからの私は、どんな顔をしてジーク様に会えばいいのか…と新たな悩みが出来てしまいました。幸いなのはジーク様が忙しくて、今は殆ど顔を合わせずに済んでいる事でしょうか…でも、それも結婚式までの事です。いえ、そもそも結婚式の後、どうするおつもりなのでしょうか…聞きたいけれど聞くのも怖くて、私は一人でモヤモヤを抱える羽目になったのです。

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