【完結】呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私

灰銀猫

文字の大きさ
23 / 64

解呪の進捗具合

しおりを挟む
 長くて仕事や食事の邪魔になっていたウィル様の爪が、人間らしいそれに戻りました。

「ウィル様。他の部分も変化が見えて来たでしょうか?」

 ウィル様は常にフードを被っているので、見た目の変化はさっぱりわからないのです。それはウィル様の周囲への気遣いからなのですが、解呪する側としては進み具合がわかりません。声も変わっていないので、解呪が効いているのか全くわからないのですよね。
 ただ、ウィル様も呪われた姿を見られたくないと思われているのだろうと思うと、見せて欲しいとも言い辛いですし……でも、今なら聞いてもよさそうな気がします。

「ああ、見せてはいないが、かなりの変化が出ている」
「そうなのですか?」
「ええ、左様でございますよ、奥方様。以前に比べると格段によくなっていらっしゃいます。旦那様、一度見て頂いては?」
「いや、だが……」

 ライナーに促されるもウィル様が躊躇されました。私を気遣って下さっているのでしょう。でも、解呪の成果を見るためにも是非見せて頂きたいです。

「ウィル様、私でしたら構いません。どうか見せて頂けませんか?」
「しかし……」
「旦那様、奥方様は解呪する前のお姿を見ても気になさいませんでした。大丈夫でございますよ」

 ライナーの説得に旦那様が少し躊躇われた後、ゆっくりとフードを外されました。

(こ、これは……!)

 そこにいたのは、以前とは全く違うお姿のウィル様でした。髪も肌の色も暗いままですが、赤や緑の変な模様はありませんし、顔の火傷のような引き攣れ痕も消えています。瞳は赤と黒のままですが、赤かった白目の部分は本来の色に戻っていますし、元のお顔が露わになっています。
 瞳の色が異色ですが、それを除けば一般の方と遜色ないお姿です。褐色の肌を持つ南方の国の出身だと言われたらそうかもしれない、と思うくらいには肌が元に戻っています。

「ウィル様……凄く変わっています!」

 思わず大きな声が出てしまいました。だってこれを喜ばずにいられましょうか。

「そうか?」
「ええ、思っていた以上です。やっぱり小さな呪いでも数が多いとこんなにも変わってくるのですね」
「私もそう思います。そうですね、六、七割は元の姿に戻られたかと。ここまで元のお姿を取り戻したのは、爵位をお継ぎになってから初めてかもしれません」
「そうなのですか?」
「はい。王都の解呪師は滞在期間が短いのもあって中々進まなかったので……エンゲルス様がいらっしゃっていた頃は、特に問題なかったのですが……」

 王宮の解呪師は来ても二、三日くらいしか滞在出来ないので、中々解呪が進まなかったそうです。ここに来るまでに十日以上かかりますから、そこは仕方がないのでしょう。エンゲルス先生は筆頭解呪師ですし、あの方は王宮魔術師になれるほどの力をお持ちなので例外なのですよね。
私が解呪を始めてから二十日ほどは経っていますし、日数がある分だけ数はこなせているのは大きいでしょう。まさにちりも積もれば何とやら、です。

「この状態で王宮の解呪師に見て頂ければ、今度こそ完全に解呪出来るかもしれませんね」
「そうだな」
「完全に解呪……」

 そうなったらどんなにいいでしょう。ウィル様の負担もかなり少なくなるのではないでしょうか。

「ありがとう、エル―シア。ペンを持てるようになったのは非常に有難い。これまでは全てライナーらに頼まざるを得なかったからな」
「そうでしたか! よかったです」

 本当によかったと、心から思えました。確かにあの獣のような長い爪でペンを持つのは難しかったでしょう。切ることも出来ないのではサイン一つ出来ないでしょうから。

「旦那様、せっかくここまで回復されたのです。これからは食事をご一緒しては?」
「だが……この見た目では食事も不味くなろう」
「そ、そんなことはありません。もしウィル様がお嫌でなければ是非……」

 一人で食べる食事は気楽ではありますが、味気なく寂しくもあります。かと言ってマーゴやデリカは立場が違うから一緒に食べるのは無理ですし、そんなことをすればまた私が侮られて、それはウィル様にも及ぶので無理強いも出来ませんし……

「そうか。あなたが嫌でなければ、手が空いている時なら……」

 ウィル様がそう言っている後ろで、デリカとライナーが静かに親指を立てて頷いています。

「旦那様、それでしたら早速今日の晩餐はご一緒に」
「デリカ? いや、だがまだ仕事が……」
「旦那様、急ぎの物はありません。奥方様を労わる意味でも是非」
「そ、そうか?」

 デリカやライナーに畳みかけられると、ウィル様は控えめに了承されました。どうやらこのお二人には勝てないみたいですね。二人とも祖父と母親のような感じだとウィル様に聞いたのはその日の晩餐の席でのことでした。

 その日、私は初めてウィル様と食事をご一緒しました。広々としたダイニングルームでは会話がしにくいからと、ウィル様のお部屋になりました。

(旦那様のお部屋に入るのは、解呪した時以来だわ)

 あの時は仕事でしたし、呪いに気を取られていて何も思いませんでしたが、改めて晩餐という個人的な情況になるとドキドキしてきました。
 マーゴが「せっかくですからそれらしい装いを!」なんて言い出して、先日仕立て屋が届けてくれたドレスに着替えさせられ、更にはお化粧と宝飾品まで付いてきました。

「マーゴ、ここまでしなくても……」
「いいえ、ご夫婦として初めての晩餐ですからこれくらい当然です。それに、こういう時はきちんとしないとまた奥方様を侮る馬鹿が出てくるとも限りませんので!」
「そ、そう」

 そう言われてしまえばこれ以上何も言えませんでした。確かに「そこまでしなくても……」という考えがイデリーナの増長に繋がってしまったのです。あれからは何も言ってきませんし、侍女たちがやっていたと思われる嫌がらせもなくなりましたが、スキを見せてはいけませんね。

「ああ、エル―シア、よく似合っている」

 出迎えたウィル様も今日はフード姿ではなく騎士服のようなカチッとしたお召し物でした。こうして見ると背も高く、身体も騎士のように逞しくて、動きも洗礼されています。その姿にドキドキしてしまった上、ウィル様に褒められてしまった私は、一層緊張していつもの半分も食べられず、余計な心配をおかけしてしまったのでした。



しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令嬢、放浪先で最強公爵に溺愛される

鍛高譚
恋愛
「スカーレット・ヨーク、お前との婚約は破棄する!」 王太子アルバートの突然の宣言により、伯爵令嬢スカーレットの人生は一変した。 すべては“聖女”を名乗る平民アメリアの企み。でっち上げられた罪で糾弾され、名誉を失い、実家からも追放されてしまう。 頼る宛もなく王都をさまよった彼女は、行き倒れ寸前のところを隣国ルーヴェル王国の公爵、ゼイン・ファーガスに救われる。 「……しばらく俺のもとで休め。安全は保証する」 冷徹な印象とは裏腹に、ゼインはスカーレットを庇護し、“形だけの婚約者”として身を守ってくれることに。 公爵家で静かな日々を過ごすうちに、スカーレットの聡明さや誇り高さは次第に評価され、彼女自身もゼインに心惹かれていく。 だがその裏で、王太子とアメリアの暴走は止まらず、スカーレットの両親までもが処刑の危機に――!

働かない令嬢は、すでに幸せです  ――婚約破棄? それより紅茶の時間をください

鷹 綾
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢、レイラ・フォン・アーデルハイド。 ――しかし彼女は、泣かない。怒らない。復讐もしない。 なぜなら、前世でブラック企業に心身を削られた元OLにとって、 婚約破棄とは「面倒な縁が切れただけ」の出来事だったから。 「復讐? 見返し? そんな暇があったら紅茶を飲みますわ」 貴族の婚姻は家同士の取引。 壊れたなら、それまで。 彼女が選んだのは、何もしない自由だった。 領地運営も、政治も、評価争いも―― 無理に手を出さず、必要なときだけ責任を取る。 働かない。頑張らない。目立たない。 ……はずだったのに。 なぜか領地は安定し、 周囲は勝手に動き、 気づけば「模範的な公爵令嬢」として評価が独り歩きしていく。 後悔する元婚約者、 空回りする王太子、 復讐を期待していた周囲―― けれど当の本人は、今日も優雅にティータイム。 無関心こそ最大のざまぁ。 働かないからこそ、幸せになった。 これは、 「何もしない」を貫いた令嬢が、 気づけばすべてを手に入れていた物語。

厄介払いされてしまいました

たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。 十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。 しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。

ふまさ
恋愛
 ──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。  彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。  ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。  だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。 ※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。

私を陥れる様な婚約者はいりません!彼と幸せになりますから邪魔しないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のアントアーネは、根も葉もない噂に苦しんでいた。完全に孤立し、毎日暴言や陰口を吐かれ、無視され睨まれ、まさに地獄の日々を送っていた。 どうして私が、こんなに苦しまなければいけないのだろう…あの男のせいで… そう、彼女に関する悪い噂を流していたのは、最愛の婚約者、ラドルだったのだ。そんなラドルは、周りの噂を気にせず、いつもアントアーネに優しく接していた。だが事実を知っているアントアーネは、彼に優しくされればされるほど、嫌悪感が増していく。 全ての証拠をそろえ、婚約を解消する事を夢見て、日々歯を食いしばり必死に生きてきたのだ。やっと証拠がそろい、両親と一緒にラドルの家へと向かった。 予想に反し、婚約解消をしないと突っぱねるラドルだったが、アントアーネは悪い噂を流しているのがラドルだという証拠を突き付け、婚約解消を迫った。その結果、無事婚約解消までこぎつけたアントアーネだったが、彼女を待っていたのは、残酷な現実だったのだ。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも同時投稿しています

処理中です...