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解呪の進捗具合
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長くて仕事や食事の邪魔になっていたウィル様の爪が、人間らしいそれに戻りました。
「ウィル様。他の部分も変化が見えて来たでしょうか?」
ウィル様は常にフードを被っているので、見た目の変化はさっぱりわからないのです。それはウィル様の周囲への気遣いからなのですが、解呪する側としては進み具合がわかりません。声も変わっていないので、解呪が効いているのか全くわからないのですよね。
ただ、ウィル様も呪われた姿を見られたくないと思われているのだろうと思うと、見せて欲しいとも言い辛いですし……でも、今なら聞いてもよさそうな気がします。
「ああ、見せてはいないが、かなりの変化が出ている」
「そうなのですか?」
「ええ、左様でございますよ、奥方様。以前に比べると格段によくなっていらっしゃいます。旦那様、一度見て頂いては?」
「いや、だが……」
ライナーに促されるもウィル様が躊躇されました。私を気遣って下さっているのでしょう。でも、解呪の成果を見るためにも是非見せて頂きたいです。
「ウィル様、私でしたら構いません。どうか見せて頂けませんか?」
「しかし……」
「旦那様、奥方様は解呪する前のお姿を見ても気になさいませんでした。大丈夫でございますよ」
ライナーの説得に旦那様が少し躊躇われた後、ゆっくりとフードを外されました。
(こ、これは……!)
そこにいたのは、以前とは全く違うお姿のウィル様でした。髪も肌の色も暗いままですが、赤や緑の変な模様はありませんし、顔の火傷のような引き攣れ痕も消えています。瞳は赤と黒のままですが、赤かった白目の部分は本来の色に戻っていますし、元のお顔が露わになっています。
瞳の色が異色ですが、それを除けば一般の方と遜色ないお姿です。褐色の肌を持つ南方の国の出身だと言われたらそうかもしれない、と思うくらいには肌が元に戻っています。
「ウィル様……凄く変わっています!」
思わず大きな声が出てしまいました。だってこれを喜ばずにいられましょうか。
「そうか?」
「ええ、思っていた以上です。やっぱり小さな呪いでも数が多いとこんなにも変わってくるのですね」
「私もそう思います。そうですね、六、七割は元の姿に戻られたかと。ここまで元のお姿を取り戻したのは、爵位をお継ぎになってから初めてかもしれません」
「そうなのですか?」
「はい。王都の解呪師は滞在期間が短いのもあって中々進まなかったので……エンゲルス様がいらっしゃっていた頃は、特に問題なかったのですが……」
王宮の解呪師は来ても二、三日くらいしか滞在出来ないので、中々解呪が進まなかったそうです。ここに来るまでに十日以上かかりますから、そこは仕方がないのでしょう。エンゲルス先生は筆頭解呪師ですし、あの方は王宮魔術師になれるほどの力をお持ちなので例外なのですよね。
私が解呪を始めてから二十日ほどは経っていますし、日数がある分だけ数はこなせているのは大きいでしょう。まさにちりも積もれば何とやら、です。
「この状態で王宮の解呪師に見て頂ければ、今度こそ完全に解呪出来るかもしれませんね」
「そうだな」
「完全に解呪……」
そうなったらどんなにいいでしょう。ウィル様の負担もかなり少なくなるのではないでしょうか。
「ありがとう、エル―シア。ペンを持てるようになったのは非常に有難い。これまでは全てライナーらに頼まざるを得なかったからな」
「そうでしたか! よかったです」
本当によかったと、心から思えました。確かにあの獣のような長い爪でペンを持つのは難しかったでしょう。切ることも出来ないのではサイン一つ出来ないでしょうから。
「旦那様、せっかくここまで回復されたのです。これからは食事をご一緒しては?」
「だが……この見た目では食事も不味くなろう」
「そ、そんなことはありません。もしウィル様がお嫌でなければ是非……」
一人で食べる食事は気楽ではありますが、味気なく寂しくもあります。かと言ってマーゴやデリカは立場が違うから一緒に食べるのは無理ですし、そんなことをすればまた私が侮られて、それはウィル様にも及ぶので無理強いも出来ませんし……
「そうか。あなたが嫌でなければ、手が空いている時なら……」
ウィル様がそう言っている後ろで、デリカとライナーが静かに親指を立てて頷いています。
「旦那様、それでしたら早速今日の晩餐はご一緒に」
「デリカ? いや、だがまだ仕事が……」
「旦那様、急ぎの物はありません。奥方様を労わる意味でも是非」
「そ、そうか?」
デリカやライナーに畳みかけられると、ウィル様は控えめに了承されました。どうやらこのお二人には勝てないみたいですね。二人とも祖父と母親のような感じだとウィル様に聞いたのはその日の晩餐の席でのことでした。
その日、私は初めてウィル様と食事をご一緒しました。広々としたダイニングルームでは会話がしにくいからと、ウィル様のお部屋になりました。
(旦那様のお部屋に入るのは、解呪した時以来だわ)
あの時は仕事でしたし、呪いに気を取られていて何も思いませんでしたが、改めて晩餐という個人的な情況になるとドキドキしてきました。
マーゴが「せっかくですからそれらしい装いを!」なんて言い出して、先日仕立て屋が届けてくれたドレスに着替えさせられ、更にはお化粧と宝飾品まで付いてきました。
「マーゴ、ここまでしなくても……」
「いいえ、ご夫婦として初めての晩餐ですからこれくらい当然です。それに、こういう時はきちんとしないとまた奥方様を侮る馬鹿が出てくるとも限りませんので!」
「そ、そう」
そう言われてしまえばこれ以上何も言えませんでした。確かに「そこまでしなくても……」という考えがイデリーナの増長に繋がってしまったのです。あれからは何も言ってきませんし、侍女たちがやっていたと思われる嫌がらせもなくなりましたが、スキを見せてはいけませんね。
「ああ、エル―シア、よく似合っている」
出迎えたウィル様も今日はフード姿ではなく騎士服のようなカチッとしたお召し物でした。こうして見ると背も高く、身体も騎士のように逞しくて、動きも洗礼されています。その姿にドキドキしてしまった上、ウィル様に褒められてしまった私は、一層緊張していつもの半分も食べられず、余計な心配をおかけしてしまったのでした。
「ウィル様。他の部分も変化が見えて来たでしょうか?」
ウィル様は常にフードを被っているので、見た目の変化はさっぱりわからないのです。それはウィル様の周囲への気遣いからなのですが、解呪する側としては進み具合がわかりません。声も変わっていないので、解呪が効いているのか全くわからないのですよね。
ただ、ウィル様も呪われた姿を見られたくないと思われているのだろうと思うと、見せて欲しいとも言い辛いですし……でも、今なら聞いてもよさそうな気がします。
「ああ、見せてはいないが、かなりの変化が出ている」
「そうなのですか?」
「ええ、左様でございますよ、奥方様。以前に比べると格段によくなっていらっしゃいます。旦那様、一度見て頂いては?」
「いや、だが……」
ライナーに促されるもウィル様が躊躇されました。私を気遣って下さっているのでしょう。でも、解呪の成果を見るためにも是非見せて頂きたいです。
「ウィル様、私でしたら構いません。どうか見せて頂けませんか?」
「しかし……」
「旦那様、奥方様は解呪する前のお姿を見ても気になさいませんでした。大丈夫でございますよ」
ライナーの説得に旦那様が少し躊躇われた後、ゆっくりとフードを外されました。
(こ、これは……!)
そこにいたのは、以前とは全く違うお姿のウィル様でした。髪も肌の色も暗いままですが、赤や緑の変な模様はありませんし、顔の火傷のような引き攣れ痕も消えています。瞳は赤と黒のままですが、赤かった白目の部分は本来の色に戻っていますし、元のお顔が露わになっています。
瞳の色が異色ですが、それを除けば一般の方と遜色ないお姿です。褐色の肌を持つ南方の国の出身だと言われたらそうかもしれない、と思うくらいには肌が元に戻っています。
「ウィル様……凄く変わっています!」
思わず大きな声が出てしまいました。だってこれを喜ばずにいられましょうか。
「そうか?」
「ええ、思っていた以上です。やっぱり小さな呪いでも数が多いとこんなにも変わってくるのですね」
「私もそう思います。そうですね、六、七割は元の姿に戻られたかと。ここまで元のお姿を取り戻したのは、爵位をお継ぎになってから初めてかもしれません」
「そうなのですか?」
「はい。王都の解呪師は滞在期間が短いのもあって中々進まなかったので……エンゲルス様がいらっしゃっていた頃は、特に問題なかったのですが……」
王宮の解呪師は来ても二、三日くらいしか滞在出来ないので、中々解呪が進まなかったそうです。ここに来るまでに十日以上かかりますから、そこは仕方がないのでしょう。エンゲルス先生は筆頭解呪師ですし、あの方は王宮魔術師になれるほどの力をお持ちなので例外なのですよね。
私が解呪を始めてから二十日ほどは経っていますし、日数がある分だけ数はこなせているのは大きいでしょう。まさにちりも積もれば何とやら、です。
「この状態で王宮の解呪師に見て頂ければ、今度こそ完全に解呪出来るかもしれませんね」
「そうだな」
「完全に解呪……」
そうなったらどんなにいいでしょう。ウィル様の負担もかなり少なくなるのではないでしょうか。
「ありがとう、エル―シア。ペンを持てるようになったのは非常に有難い。これまでは全てライナーらに頼まざるを得なかったからな」
「そうでしたか! よかったです」
本当によかったと、心から思えました。確かにあの獣のような長い爪でペンを持つのは難しかったでしょう。切ることも出来ないのではサイン一つ出来ないでしょうから。
「旦那様、せっかくここまで回復されたのです。これからは食事をご一緒しては?」
「だが……この見た目では食事も不味くなろう」
「そ、そんなことはありません。もしウィル様がお嫌でなければ是非……」
一人で食べる食事は気楽ではありますが、味気なく寂しくもあります。かと言ってマーゴやデリカは立場が違うから一緒に食べるのは無理ですし、そんなことをすればまた私が侮られて、それはウィル様にも及ぶので無理強いも出来ませんし……
「そうか。あなたが嫌でなければ、手が空いている時なら……」
ウィル様がそう言っている後ろで、デリカとライナーが静かに親指を立てて頷いています。
「旦那様、それでしたら早速今日の晩餐はご一緒に」
「デリカ? いや、だがまだ仕事が……」
「旦那様、急ぎの物はありません。奥方様を労わる意味でも是非」
「そ、そうか?」
デリカやライナーに畳みかけられると、ウィル様は控えめに了承されました。どうやらこのお二人には勝てないみたいですね。二人とも祖父と母親のような感じだとウィル様に聞いたのはその日の晩餐の席でのことでした。
その日、私は初めてウィル様と食事をご一緒しました。広々としたダイニングルームでは会話がしにくいからと、ウィル様のお部屋になりました。
(旦那様のお部屋に入るのは、解呪した時以来だわ)
あの時は仕事でしたし、呪いに気を取られていて何も思いませんでしたが、改めて晩餐という個人的な情況になるとドキドキしてきました。
マーゴが「せっかくですからそれらしい装いを!」なんて言い出して、先日仕立て屋が届けてくれたドレスに着替えさせられ、更にはお化粧と宝飾品まで付いてきました。
「マーゴ、ここまでしなくても……」
「いいえ、ご夫婦として初めての晩餐ですからこれくらい当然です。それに、こういう時はきちんとしないとまた奥方様を侮る馬鹿が出てくるとも限りませんので!」
「そ、そう」
そう言われてしまえばこれ以上何も言えませんでした。確かに「そこまでしなくても……」という考えがイデリーナの増長に繋がってしまったのです。あれからは何も言ってきませんし、侍女たちがやっていたと思われる嫌がらせもなくなりましたが、スキを見せてはいけませんね。
「ああ、エル―シア、よく似合っている」
出迎えたウィル様も今日はフード姿ではなく騎士服のようなカチッとしたお召し物でした。こうして見ると背も高く、身体も騎士のように逞しくて、動きも洗礼されています。その姿にドキドキしてしまった上、ウィル様に褒められてしまった私は、一層緊張していつもの半分も食べられず、余計な心配をおかけしてしまったのでした。
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