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おまけ
リョウ『かっこよく』
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あんあん喘ぐのはカッコ悪いだろ? だから喉の奥で音を止めて、肺のすべての空気を吐き出す。
今までは発散するためのセックスで、気持ちいいって少しの可愛げを喘ぎに乗せて、お前もだろうってその首を掴んでやればそれでよかった。それで十分だったし、目的は果たせていた。
セックスなんてものは適当に勢いで突っ込んで、腰振って、好きなようにやってくれればそれで済むのに、瑠偉はゆっくりたっぷり時間をかける。やるほどに慣れていって、すっかりそうなってしまった。奥まで入れて、引き抜いて、止めて、また奥まで。こんなものただそれだけの動作なのに、少しずつ確かめるように体の奥まで探られる。
初めのうち、こいつはずいぶんと俺に怪我させないかを心配していた。それが未だに続いているのかもしれない。毎度ご丁寧にぐじゅぐじゅに濡らされて、穴はこいつに合うようになっているっていうのに、未だに。
瑠偉が入ってくると、そのまま口から空気が押し出されていくようだ。それを堪えても鼻から甘ったれた音が漏れ出て舌打ちしたくなる。こいつは俺のことをカッコいいと褒めるのに、こんなさまは少しもかっこよくない。気持ちよくてもっとしろって頼みたくなって、縋り付きたくなる。突っ込まれてりゃそれで済むはずなのに、関係ない所に触れたくなる。
「瑠偉」
喘ぎの代わりに名前を呼ぶ。
音はどうしても漏れてしまうから、名前に変換することにした。
「瑠偉」
だらしなく涎を垂らしそうな顔が情けなくて見苦しいから、後ろからが良いと言う。ぎゅっと握りしめたシーツに熱を逃して、体を満たす幸福感に耐えている。
「振り付けした……あの、なんだっけ。スター……アイドルさんの動画公開、明日ですよね。楽しみだなー」
「名前分かってねぇのかよ」
「フォローはしてますけど名前はちょっと。5.6人だってことは分かってますよ!」
「5人だよ。誰だよもう一人」
きっとなりふり構わず瑠偉のことを抱きしめて、いつものように愛を囁かれるのに笑い返したらいいんだろうとはわかっている。
でもただ――恥ずかしくて、かっこ悪くて、情けなくて、そんな姿を見せたら俺のファンである瑠偉は嫌になるんじゃないかと怯えている。お前とのセックスが大好きだってハート散らして喘げたら、それはもう俺ではない気もする。
「……大丈夫ですよ。リョウさんが踊ってたの可愛いし、歌詞に合ってた。ちょっと切ない仕草とか女の子がしたら絶対グッとくるから」
「そーだといいけど」
振りつけの仕事を受けるようになった。消えてなくなった緒形タカヒロの振り付けが功を奏したらしい。
アイドルなんかは複数人だし、当然それぞれ身体能力も違う。歌割も見せ場の移動も絡んでくるから面倒くさくて、面白い。有難いことに何回か声をかけてもらえれば、それぞれの個性だって使える。自分じゃない人間をどううまく操るのか、肝心なところをどう伝えるのか。面白くて、不安がある。
いつも動画が公開されるとき、少し怖い。ライブで披露するとなれば、更に怖い。立ち位置の忙しない移動でぶつかってしまわないか、ちゃんと見せ場で客にアピールできるのか、そもそも振りつけが受け入れられるのか――。
「おれはリョウさんっていう正解をいつも見てるから、あれ? って思うときはありますけどね。でも一生懸命踊ってるなって分かるのは応援できるし」
声を聞きたい。安心したい。大丈夫だよとこいつは簡単に言ってくれるから、無駄にでかいその体に抱かれたい。
「ライブこなして踊り慣れてきたりすると、あー可愛いなって思います。ぎこちない所が抜けて、振りに合わせて愛嬌振りまいてるのとか」
寝るのだというふりをして、後ろから回ってくる腕を捕まえる。居場所を整えるように動いて、下着しか身につけていない素肌に背中をつけた。
運動していたもんだから体温は上がっていて暑苦しさはあるけれど、こもる熱が自分のものか相手のものかもわからない。
「大丈夫ですよ。――楽しみ。いつも、リョウさんがやることほんとに楽しみなんですよ」
瑠偉は本当によく喋る。聞かなくても喋ってくれる。勝手に魅力を探して話して教えてくれる。
最近こいつは動画を投稿するようになった。一曲通して踊ったのを撮影して前後の要らないところを切り落とし、曲名だとか俺の名前だとかを入れている。
9割は自分のために撮っておきたいんだと言い、残りの1割は俺のことを色んな人に知ってもらうためだと言いながら、再生数が上がると頭を抱えている。広く知られてほしいけどおれだけのリョウさんでいてほしいと瑠偉は言う。何回も何回もこいつが見てんだから、再生数の99%は瑠偉だろうに。
自分が表に出るのではなく、振り付け師としてやっていくこと。できればそれが良いんだろうと思う。ずっと踊っていたいなら、ダンスに関わっていたいなら一番いいんじゃないかと思う。まだ俺は熱に狂う舞台に立って自分の体で表現したいと思う気持ちもあるけれど、振りつけの経歴があるほうがいい。動画だって、自己紹介のようなものだ。
瑠偉は言う。何のきっかけでリョウさんのことを知ってもらえるかわからないって。
自分のことを諦めるわけじゃない。諦めないために、自分以外の人間を使うことで新しいダンスにチャレンジできたらいいと思う。この世界でやっていくためにも自分の成長のためにも、それが良いことだろう。
満足している。でも不安がある。そんな時にこいつを誘う。ただ抱きしめてほしいなんて可愛いことは言えやしない。だから「すっきりしたいだけだ」って誘うのに、瑠偉は――。
ばれてんのかな。年下のくせに。毎度毎度何かある度に甘えてるって、ばれてんのかも。
もっとかっこよくいなきゃなぁ。
今までは発散するためのセックスで、気持ちいいって少しの可愛げを喘ぎに乗せて、お前もだろうってその首を掴んでやればそれでよかった。それで十分だったし、目的は果たせていた。
セックスなんてものは適当に勢いで突っ込んで、腰振って、好きなようにやってくれればそれで済むのに、瑠偉はゆっくりたっぷり時間をかける。やるほどに慣れていって、すっかりそうなってしまった。奥まで入れて、引き抜いて、止めて、また奥まで。こんなものただそれだけの動作なのに、少しずつ確かめるように体の奥まで探られる。
初めのうち、こいつはずいぶんと俺に怪我させないかを心配していた。それが未だに続いているのかもしれない。毎度ご丁寧にぐじゅぐじゅに濡らされて、穴はこいつに合うようになっているっていうのに、未だに。
瑠偉が入ってくると、そのまま口から空気が押し出されていくようだ。それを堪えても鼻から甘ったれた音が漏れ出て舌打ちしたくなる。こいつは俺のことをカッコいいと褒めるのに、こんなさまは少しもかっこよくない。気持ちよくてもっとしろって頼みたくなって、縋り付きたくなる。突っ込まれてりゃそれで済むはずなのに、関係ない所に触れたくなる。
「瑠偉」
喘ぎの代わりに名前を呼ぶ。
音はどうしても漏れてしまうから、名前に変換することにした。
「瑠偉」
だらしなく涎を垂らしそうな顔が情けなくて見苦しいから、後ろからが良いと言う。ぎゅっと握りしめたシーツに熱を逃して、体を満たす幸福感に耐えている。
「振り付けした……あの、なんだっけ。スター……アイドルさんの動画公開、明日ですよね。楽しみだなー」
「名前分かってねぇのかよ」
「フォローはしてますけど名前はちょっと。5.6人だってことは分かってますよ!」
「5人だよ。誰だよもう一人」
きっとなりふり構わず瑠偉のことを抱きしめて、いつものように愛を囁かれるのに笑い返したらいいんだろうとはわかっている。
でもただ――恥ずかしくて、かっこ悪くて、情けなくて、そんな姿を見せたら俺のファンである瑠偉は嫌になるんじゃないかと怯えている。お前とのセックスが大好きだってハート散らして喘げたら、それはもう俺ではない気もする。
「……大丈夫ですよ。リョウさんが踊ってたの可愛いし、歌詞に合ってた。ちょっと切ない仕草とか女の子がしたら絶対グッとくるから」
「そーだといいけど」
振りつけの仕事を受けるようになった。消えてなくなった緒形タカヒロの振り付けが功を奏したらしい。
アイドルなんかは複数人だし、当然それぞれ身体能力も違う。歌割も見せ場の移動も絡んでくるから面倒くさくて、面白い。有難いことに何回か声をかけてもらえれば、それぞれの個性だって使える。自分じゃない人間をどううまく操るのか、肝心なところをどう伝えるのか。面白くて、不安がある。
いつも動画が公開されるとき、少し怖い。ライブで披露するとなれば、更に怖い。立ち位置の忙しない移動でぶつかってしまわないか、ちゃんと見せ場で客にアピールできるのか、そもそも振りつけが受け入れられるのか――。
「おれはリョウさんっていう正解をいつも見てるから、あれ? って思うときはありますけどね。でも一生懸命踊ってるなって分かるのは応援できるし」
声を聞きたい。安心したい。大丈夫だよとこいつは簡単に言ってくれるから、無駄にでかいその体に抱かれたい。
「ライブこなして踊り慣れてきたりすると、あー可愛いなって思います。ぎこちない所が抜けて、振りに合わせて愛嬌振りまいてるのとか」
寝るのだというふりをして、後ろから回ってくる腕を捕まえる。居場所を整えるように動いて、下着しか身につけていない素肌に背中をつけた。
運動していたもんだから体温は上がっていて暑苦しさはあるけれど、こもる熱が自分のものか相手のものかもわからない。
「大丈夫ですよ。――楽しみ。いつも、リョウさんがやることほんとに楽しみなんですよ」
瑠偉は本当によく喋る。聞かなくても喋ってくれる。勝手に魅力を探して話して教えてくれる。
最近こいつは動画を投稿するようになった。一曲通して踊ったのを撮影して前後の要らないところを切り落とし、曲名だとか俺の名前だとかを入れている。
9割は自分のために撮っておきたいんだと言い、残りの1割は俺のことを色んな人に知ってもらうためだと言いながら、再生数が上がると頭を抱えている。広く知られてほしいけどおれだけのリョウさんでいてほしいと瑠偉は言う。何回も何回もこいつが見てんだから、再生数の99%は瑠偉だろうに。
自分が表に出るのではなく、振り付け師としてやっていくこと。できればそれが良いんだろうと思う。ずっと踊っていたいなら、ダンスに関わっていたいなら一番いいんじゃないかと思う。まだ俺は熱に狂う舞台に立って自分の体で表現したいと思う気持ちもあるけれど、振りつけの経歴があるほうがいい。動画だって、自己紹介のようなものだ。
瑠偉は言う。何のきっかけでリョウさんのことを知ってもらえるかわからないって。
自分のことを諦めるわけじゃない。諦めないために、自分以外の人間を使うことで新しいダンスにチャレンジできたらいいと思う。この世界でやっていくためにも自分の成長のためにも、それが良いことだろう。
満足している。でも不安がある。そんな時にこいつを誘う。ただ抱きしめてほしいなんて可愛いことは言えやしない。だから「すっきりしたいだけだ」って誘うのに、瑠偉は――。
ばれてんのかな。年下のくせに。毎度毎度何かある度に甘えてるって、ばれてんのかも。
もっとかっこよくいなきゃなぁ。
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長文な上に読みづらくてすみません🙇♀️
あれ? 結構オタクあるあるだと思ってたんだけどな!?
一線引かないオタクはやばいってのは確かです。
そして瑠偉はオタクなので軽率に好きも叫びます。
この話既に一つおまけがあるので、読んだらあれー?ってなるかもしれません。どうでしょう。