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第22話 二つ名の片鱗
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「コネクト!!『ロイヤルサーチ』!!」
ハインツとグロリアが森の中にシャルロットを探しに行った直後、ツィッギーとイオも屋敷から出て師匠アルタイルから授かった魔道書を開き呪文を唱える。
この『ロイヤルサーチ』という探知魔法はエターニア王国の王族だけを察知して唱えた者にその居場所を教えるという物だ。
暫くするとイオの手の上で開いた魔導書の上にこの森の全体像を縮小した立体映像が現れる…まるでジオラマ模型を見ている様だ。
「凄いですね…こんな魔法、私は初めて見たわ…」
立体映像を見つめ感嘆の声を上げるツィッギー、しかし今はゆっくりしている場合ではない。
立体映像の中心からやや手前に赤い光点が表示されている。
「この赤い点がボク達が居る現在地ですね…え~と姫様の居場所はっと…あれ?」
「どうしたんですかイオ様?」
「いえ…姫様の反応はあったんですが…何故か同一の光が二つと別の光が二つ…合計四つの王族の反応があるのですよ…」
「えっ!?それは一体どう言う事なんですか!?」
立体映像には奥の方にピンクの光が一つ、その近くに金色の光が二つ隣接している…そして東の方にもう一つピンクの光があった。
「ボクもこの魔法を初めて使うので何とも言えないのですが…魔法の誤作動で無ければ姫様以外の別の王族の方がこの森に来ていますね…ただ腑に落ちないのはこの二つのピンクの光…別々の場所に居ますけど、これ完全に同一人物の反応なんですよ…」
首を傾げるイオ…しかし情報が少なすぎて全く結論が出ないでいた。
「では実際に確かめに行きましょうか…こういう時は頭では無く足で探るのが一番ですよ」
ツィッギーが優しく微笑む…こういう時彼女の様な気持ちの切り替えが出来る人物が居るのはとても助かる。
きっとイオ一人ではやや暫く考え込んでいた事だろう。
「分かったです、ではこの東の光から調べましょう…これが一番ボクたちの居る位置から近いです」
「はい、まだ薄暗くて足元が危ないですからイオ様は私に付いて来て下さいね」
彼女たち耳長族は元々視力が良いのだが夜目も利くのだ。
二人は連れ立って森の東側を目指した。
雨の様に降り注ぐ『無色の疫病神』も触手の猛攻…それを凌いでいたハインツとグロリアに疲労の色が見え始めた。
「…くそっ!!またなのかよっ!!昨日と同じ…また追い詰められて…!!」
ハインツは憤っていた…それは敵にではなく自分に対してだ。
武芸の鍛錬なら人一倍積んで来たつもりだ…同年代の少年には誰にも負けない自信もある…遅れて剣技を始めメキメキと上達していく妹のグロリアに兄として負けじと更に努力もした…しかしこの様だ。
昨日の日中に角兎に囲まれた時も自分達では状況を脱する事が出来ず、結局大人であるツィッギーに助けられた…今の状況はその時によく似ている。
「ああああああっ!!!」
ハインツが突然怒声を上げながら槍を振り回し始めた。
それは既に槍術と呼べるものでは無く、半狂乱と言った方がよい暴れ具合で次々と触手を殲滅していく。
「!?どうしたんだ兄上!!そんなペース配分では身が持たないぞ!!」
兄のその鬼気迫る表情に危機感を覚えるグロリア。
捨て身と言うかヤケを起こしているというか…完全に冷静さを失っているのだ。
そのせいで背後から急速に迫る触手に気付いていない。
「危ない!!」
咄嗟にグロリアがカバーに入いりそれを切り落とす。。
「兄上!!動きが雑になっているぞ!!」
「うるさい…!!」
グロリアの言う事も聞かず尚も暴れ回るハインツ。
このままでは遅かれ早かれ最悪の事態に陥る事は目に見えている。
「…そろそろ加勢した方が宜しいのでは?」
やや離れた樹木の上に三人の人影があった。
全員仮面を付けていて正体が分からない。
その内の一人が口を開いた、均整の取れた逞しい身体つきの男だ。
「いえ、まだよ…あの子たちにはもう一つ壁を越えてもらわなくては…この先の戦いを生き残る事は出来ません…」
隣にいる女性がそれに答える。
どこか言動と物腰に気品が漂っている。
「う~~~…しかし見ておれん…シャルロットだけでも助ける訳にはいかないか?」
こちらは岩の様に筋骨隆々の大男が居ても立っても居られないと言った感じで身体を揺すっている。
「気持ちは分かりますがそれでは何の意味も無いでしょう?主《あるじ》が真っ先に逃げ出すなどあってはなりません…これはあの子の試練でもあるのですから…」
女性が落ち着きのない大男の胸に手を当て諭す様に語り掛ける。
三人はもうしばらく戦況を見守る事にした。
「うわっ!!」
横薙ぎに振り回された触手をまともに喰らいハインツが吹き飛ばされた。
背中から着地し、地面を滑る。
無謀な突撃を続けたため周りが見えていなかったのだ。
「ハインツ…!!大丈夫…!?」
シャルロットの悲痛な叫び声が響く。
急いでグロリアが駆けつけハインツの上体を抱き起す。
「何やってるの!!焦り過ぎだよ!!」
兄のがむしゃらで出鱈目な戦い方にとうとうグロリアが怒り出した。
しかしハインツは黙っている…いつもならすぐに言い返して来るはずなのに…。
「うっ…くそっ…何で…何で俺はこんなに弱いんだ…こんなので騎士団に入りたいだ?笑わせるぜ…ううっ…」
「兄上…?」
喉から絞り出す様に嗚咽を洩らすハインツ…彼は泣いていた…一緒に育ち、今まで兄の泣いている所を見た事が無かったグロリアは動揺を隠せない。
しかし彼の気持ちは痛い程理解できる…グロリアもこの最悪の状況をただ凌いでいるに過ぎない…このままでは遅かれ早かれ三人とも倒されてしまうだろう。
弱音を吐きこそしたがハインツは再び立ち上がった。
彼には守るべき存在があるのだから。
「うわああああっ…!!」
突如、シャルロットが咆哮を上げた…そしておもむろによろよろと立ち上がる。
見るからにふらふらしており、先程の力を取り戻したわけではない様だ。
それでもおぼつかない足取りで歩き出しやがて剣が地面に突き刺さっている所まで辿り着き必死に剣を引き抜こうと試みる…が剣はびくともせずその場に刺さったままだ。
「何をしているんだ!?お前はじっとしていろ!!」
ハインツがシャルロットを怒鳴り付ける。
しかし彼女は剣を抜く動作を辞めようとしない。
「ゴメンね二人共…僕が不甲斐ないばっかりに…あの怪物は王族の末裔である僕とこの装備でしかとどめを刺せないんだ…あとは僕が何とかするから二人は下がっていて…」
剣が少しづつ引き抜かれていく…そして抜けたは良いが勢い余り剣の重さでシャルロットはそのまま倒れてしまった。
「くっ…!!」
だが彼女は諦めない…今度は剣を握りしめ再び立ち上がろうとする。
「もういい!!お前はそのまま座っていろ!!」
そう声を掛けたところでハインツには何も出来ないのだ…何とかできるとすればシャルロットしかいないのである。
しかしこんな隙だらけな状態の相手見逃すほど『無色の疫病神』は甘くなかった。
シャルロット目がけて体ごと突っ込んで来たのだ。
一番警戒すべきは女勇者…『無色の疫病神』は経験則からそれを理解していた。
今の状態でこの体当たりを受ければ例え伝説の女勇者の装備を身に纏っていたとしてもシャルロットは一たまりもないだろう。
「ああっ…」
恐怖に顔が歪む…身体が竦んで動かない…もはや回避は不可能だった。
「「やめろおおおぉ!!!」」
ハインツとグロリア…二人は同時に声を上げていた。
ハインツは片手で持った槍を後ろに引き、グロリアはレイピアを突き出したまま突進する。
「受けろおおおっ…!!」
槍を後ろに引いて貯めた力を一気に前方に押し出す…先端から眩い光が放たれ『無色の疫病神』の身体を貫く。
この攻撃を受け失速し地面に落下する『無色の疫病神』…土を抉りながら尚も進が突進の威力は大幅に削がれてしまった。
「やああああっ…!!」
地滑りして向かってくる『無色の疫病神』に対しグロリアが目にも留まらぬ速さで何度もレイピアの突きを繰り返す。
すると空気との摩擦で段々と刀身が熱を持ちまるで打ち立ての刀の様に真っ赤に燃え上がった。
燃え盛る刀身を突きさされた『無色の疫病神』の身体からは焼け焦げた様な臭いと共に水蒸気が立ち込める…奴の体液が蒸発しているのだ。
『グエエエエ…!!』
悲鳴を上げる『無色の疫病神』…以前アルタイルが睨んだ通りどうやら炎が弱点だった様だ。
強力な炎系魔法を使用したのなら森への延焼が危惧されたが、グロリアが放ったこの技ならその心配は無用だ。
この攻撃で完全に動きが停まった『無色の疫病神』。
「今だシャルロット!!最後に一発決めて見せろっ…!!」
「シャル様お願いっ…!!」
「わあああああっ…!!」
二人のエールを受けシャルロットが吠える。
渾身の力を振り絞り『未来の剣』を頭上高く振り上げる。
先端から天の雲を穿ち光の柱が立ち昇った…そのせいでまだ夜が明けきっていない森の中がまるで昼間の様に煌々と照らされたのだ。
「冥府に落ちなさい!!」
そして体ごと倒れる様に前方に剣を振り下ろした。
『ギヤアアアアアアアア…!!!』
『無色の疫病神』の長い胴体を縦に一刀両断…醜い断末魔を上げ身体が蒸発していく。
地面には激闘で抉れた大きな跡だけが残った。
「…や…やった…?」
地面に突っ伏していたシャルロットはそう言い残し目を閉じる…極度の疲労で気を失ってしまった様だ。
それに続きハインツとグロリアも脱力し倒れ込む。
「…凄いですね…まさか倒してしまうなんて…我々の出る幕が無かった…」
樹上から降り立った仮面の男が驚嘆の声を上げる。
「ほら御覧なさい…彼らなら出来ると私は信じていました…時には命がけの挑戦も必要なのですよ」
仮面の女性の方は中々のS…いやスパルタの様だ。
「うおおおおん!!シャルロット~~~~!!無事か~~~!!お~いおいおい!!」
仮面の大男はシャルロットを抱え上げ大泣きをする。
その辺が水浸しになる程の豪快な涙が噴水の様に吹きあがる。
「モイライ…あなた方の目的はこれだったのですね?」
「あっ…バレた?相変わらずカンがイイネ王妃様…」
仮面を取りながらエリザベート王妃がそう言うと背後には三人の白い衣を纏った女性たちが並んでいた。
最初に口を開いたのはその中で一番子供っぽい姿をした少女…『未来の女神』スクードだった。
「うむ…まあこれはまだ序の口ではあるがな…しかしこれは予想外に深刻な状況であるぞ…この体たらくでは先が思いやられる…」
ナイスバディで妖艶な女性…『過去の女神』ウルトが眉を寄せる。
「…お言葉ですが女神よ…そちらの都合で我が子が命がけでなしえた事にケチをつけるなど相手が女神でも黙っていませんわよ?」
エリザベートとウルトの視線の間に火花が散る。
「まあまあ…二人共落ち着いて下さいな…ウルトお姉様は言い過ぎです…これはこれで上出来ではないですか~」
「フン…」
『現在の女神』…母性を感じさせるふくよかで優し気な雰囲気のベルダンデが仲裁に入った。
しかしエリザベートは納得がいかない様子で鋭い視線を外そうとしない。
それを見かねたベルダンデがある提案をする。
「我々の目的…シャルちゃんが生まれた時の事…今からすべて説明しますから場所を移しませんか?」
「ベルダンデ…お前!!」
「仕方が無いじゃありませんか…ここまで来たなら教えておいた方が良いと思うの…」
「………」
秘密の暴露に反対だったウルトであったが、こうなってしまった以上この場を収めるにはそれしかないと思い押し黙る。
「分かりましたわ…」
エリザベートも了承する。
時の女神モイライ…彼女たちが語る真の目的とシャルロット出生に関わる秘密とは一体…?
ハインツとグロリアが森の中にシャルロットを探しに行った直後、ツィッギーとイオも屋敷から出て師匠アルタイルから授かった魔道書を開き呪文を唱える。
この『ロイヤルサーチ』という探知魔法はエターニア王国の王族だけを察知して唱えた者にその居場所を教えるという物だ。
暫くするとイオの手の上で開いた魔導書の上にこの森の全体像を縮小した立体映像が現れる…まるでジオラマ模型を見ている様だ。
「凄いですね…こんな魔法、私は初めて見たわ…」
立体映像を見つめ感嘆の声を上げるツィッギー、しかし今はゆっくりしている場合ではない。
立体映像の中心からやや手前に赤い光点が表示されている。
「この赤い点がボク達が居る現在地ですね…え~と姫様の居場所はっと…あれ?」
「どうしたんですかイオ様?」
「いえ…姫様の反応はあったんですが…何故か同一の光が二つと別の光が二つ…合計四つの王族の反応があるのですよ…」
「えっ!?それは一体どう言う事なんですか!?」
立体映像には奥の方にピンクの光が一つ、その近くに金色の光が二つ隣接している…そして東の方にもう一つピンクの光があった。
「ボクもこの魔法を初めて使うので何とも言えないのですが…魔法の誤作動で無ければ姫様以外の別の王族の方がこの森に来ていますね…ただ腑に落ちないのはこの二つのピンクの光…別々の場所に居ますけど、これ完全に同一人物の反応なんですよ…」
首を傾げるイオ…しかし情報が少なすぎて全く結論が出ないでいた。
「では実際に確かめに行きましょうか…こういう時は頭では無く足で探るのが一番ですよ」
ツィッギーが優しく微笑む…こういう時彼女の様な気持ちの切り替えが出来る人物が居るのはとても助かる。
きっとイオ一人ではやや暫く考え込んでいた事だろう。
「分かったです、ではこの東の光から調べましょう…これが一番ボクたちの居る位置から近いです」
「はい、まだ薄暗くて足元が危ないですからイオ様は私に付いて来て下さいね」
彼女たち耳長族は元々視力が良いのだが夜目も利くのだ。
二人は連れ立って森の東側を目指した。
雨の様に降り注ぐ『無色の疫病神』も触手の猛攻…それを凌いでいたハインツとグロリアに疲労の色が見え始めた。
「…くそっ!!またなのかよっ!!昨日と同じ…また追い詰められて…!!」
ハインツは憤っていた…それは敵にではなく自分に対してだ。
武芸の鍛錬なら人一倍積んで来たつもりだ…同年代の少年には誰にも負けない自信もある…遅れて剣技を始めメキメキと上達していく妹のグロリアに兄として負けじと更に努力もした…しかしこの様だ。
昨日の日中に角兎に囲まれた時も自分達では状況を脱する事が出来ず、結局大人であるツィッギーに助けられた…今の状況はその時によく似ている。
「ああああああっ!!!」
ハインツが突然怒声を上げながら槍を振り回し始めた。
それは既に槍術と呼べるものでは無く、半狂乱と言った方がよい暴れ具合で次々と触手を殲滅していく。
「!?どうしたんだ兄上!!そんなペース配分では身が持たないぞ!!」
兄のその鬼気迫る表情に危機感を覚えるグロリア。
捨て身と言うかヤケを起こしているというか…完全に冷静さを失っているのだ。
そのせいで背後から急速に迫る触手に気付いていない。
「危ない!!」
咄嗟にグロリアがカバーに入いりそれを切り落とす。。
「兄上!!動きが雑になっているぞ!!」
「うるさい…!!」
グロリアの言う事も聞かず尚も暴れ回るハインツ。
このままでは遅かれ早かれ最悪の事態に陥る事は目に見えている。
「…そろそろ加勢した方が宜しいのでは?」
やや離れた樹木の上に三人の人影があった。
全員仮面を付けていて正体が分からない。
その内の一人が口を開いた、均整の取れた逞しい身体つきの男だ。
「いえ、まだよ…あの子たちにはもう一つ壁を越えてもらわなくては…この先の戦いを生き残る事は出来ません…」
隣にいる女性がそれに答える。
どこか言動と物腰に気品が漂っている。
「う~~~…しかし見ておれん…シャルロットだけでも助ける訳にはいかないか?」
こちらは岩の様に筋骨隆々の大男が居ても立っても居られないと言った感じで身体を揺すっている。
「気持ちは分かりますがそれでは何の意味も無いでしょう?主《あるじ》が真っ先に逃げ出すなどあってはなりません…これはあの子の試練でもあるのですから…」
女性が落ち着きのない大男の胸に手を当て諭す様に語り掛ける。
三人はもうしばらく戦況を見守る事にした。
「うわっ!!」
横薙ぎに振り回された触手をまともに喰らいハインツが吹き飛ばされた。
背中から着地し、地面を滑る。
無謀な突撃を続けたため周りが見えていなかったのだ。
「ハインツ…!!大丈夫…!?」
シャルロットの悲痛な叫び声が響く。
急いでグロリアが駆けつけハインツの上体を抱き起す。
「何やってるの!!焦り過ぎだよ!!」
兄のがむしゃらで出鱈目な戦い方にとうとうグロリアが怒り出した。
しかしハインツは黙っている…いつもならすぐに言い返して来るはずなのに…。
「うっ…くそっ…何で…何で俺はこんなに弱いんだ…こんなので騎士団に入りたいだ?笑わせるぜ…ううっ…」
「兄上…?」
喉から絞り出す様に嗚咽を洩らすハインツ…彼は泣いていた…一緒に育ち、今まで兄の泣いている所を見た事が無かったグロリアは動揺を隠せない。
しかし彼の気持ちは痛い程理解できる…グロリアもこの最悪の状況をただ凌いでいるに過ぎない…このままでは遅かれ早かれ三人とも倒されてしまうだろう。
弱音を吐きこそしたがハインツは再び立ち上がった。
彼には守るべき存在があるのだから。
「うわああああっ…!!」
突如、シャルロットが咆哮を上げた…そしておもむろによろよろと立ち上がる。
見るからにふらふらしており、先程の力を取り戻したわけではない様だ。
それでもおぼつかない足取りで歩き出しやがて剣が地面に突き刺さっている所まで辿り着き必死に剣を引き抜こうと試みる…が剣はびくともせずその場に刺さったままだ。
「何をしているんだ!?お前はじっとしていろ!!」
ハインツがシャルロットを怒鳴り付ける。
しかし彼女は剣を抜く動作を辞めようとしない。
「ゴメンね二人共…僕が不甲斐ないばっかりに…あの怪物は王族の末裔である僕とこの装備でしかとどめを刺せないんだ…あとは僕が何とかするから二人は下がっていて…」
剣が少しづつ引き抜かれていく…そして抜けたは良いが勢い余り剣の重さでシャルロットはそのまま倒れてしまった。
「くっ…!!」
だが彼女は諦めない…今度は剣を握りしめ再び立ち上がろうとする。
「もういい!!お前はそのまま座っていろ!!」
そう声を掛けたところでハインツには何も出来ないのだ…何とかできるとすればシャルロットしかいないのである。
しかしこんな隙だらけな状態の相手見逃すほど『無色の疫病神』は甘くなかった。
シャルロット目がけて体ごと突っ込んで来たのだ。
一番警戒すべきは女勇者…『無色の疫病神』は経験則からそれを理解していた。
今の状態でこの体当たりを受ければ例え伝説の女勇者の装備を身に纏っていたとしてもシャルロットは一たまりもないだろう。
「ああっ…」
恐怖に顔が歪む…身体が竦んで動かない…もはや回避は不可能だった。
「「やめろおおおぉ!!!」」
ハインツとグロリア…二人は同時に声を上げていた。
ハインツは片手で持った槍を後ろに引き、グロリアはレイピアを突き出したまま突進する。
「受けろおおおっ…!!」
槍を後ろに引いて貯めた力を一気に前方に押し出す…先端から眩い光が放たれ『無色の疫病神』の身体を貫く。
この攻撃を受け失速し地面に落下する『無色の疫病神』…土を抉りながら尚も進が突進の威力は大幅に削がれてしまった。
「やああああっ…!!」
地滑りして向かってくる『無色の疫病神』に対しグロリアが目にも留まらぬ速さで何度もレイピアの突きを繰り返す。
すると空気との摩擦で段々と刀身が熱を持ちまるで打ち立ての刀の様に真っ赤に燃え上がった。
燃え盛る刀身を突きさされた『無色の疫病神』の身体からは焼け焦げた様な臭いと共に水蒸気が立ち込める…奴の体液が蒸発しているのだ。
『グエエエエ…!!』
悲鳴を上げる『無色の疫病神』…以前アルタイルが睨んだ通りどうやら炎が弱点だった様だ。
強力な炎系魔法を使用したのなら森への延焼が危惧されたが、グロリアが放ったこの技ならその心配は無用だ。
この攻撃で完全に動きが停まった『無色の疫病神』。
「今だシャルロット!!最後に一発決めて見せろっ…!!」
「シャル様お願いっ…!!」
「わあああああっ…!!」
二人のエールを受けシャルロットが吠える。
渾身の力を振り絞り『未来の剣』を頭上高く振り上げる。
先端から天の雲を穿ち光の柱が立ち昇った…そのせいでまだ夜が明けきっていない森の中がまるで昼間の様に煌々と照らされたのだ。
「冥府に落ちなさい!!」
そして体ごと倒れる様に前方に剣を振り下ろした。
『ギヤアアアアアアアア…!!!』
『無色の疫病神』の長い胴体を縦に一刀両断…醜い断末魔を上げ身体が蒸発していく。
地面には激闘で抉れた大きな跡だけが残った。
「…や…やった…?」
地面に突っ伏していたシャルロットはそう言い残し目を閉じる…極度の疲労で気を失ってしまった様だ。
それに続きハインツとグロリアも脱力し倒れ込む。
「…凄いですね…まさか倒してしまうなんて…我々の出る幕が無かった…」
樹上から降り立った仮面の男が驚嘆の声を上げる。
「ほら御覧なさい…彼らなら出来ると私は信じていました…時には命がけの挑戦も必要なのですよ」
仮面の女性の方は中々のS…いやスパルタの様だ。
「うおおおおん!!シャルロット~~~~!!無事か~~~!!お~いおいおい!!」
仮面の大男はシャルロットを抱え上げ大泣きをする。
その辺が水浸しになる程の豪快な涙が噴水の様に吹きあがる。
「モイライ…あなた方の目的はこれだったのですね?」
「あっ…バレた?相変わらずカンがイイネ王妃様…」
仮面を取りながらエリザベート王妃がそう言うと背後には三人の白い衣を纏った女性たちが並んでいた。
最初に口を開いたのはその中で一番子供っぽい姿をした少女…『未来の女神』スクードだった。
「うむ…まあこれはまだ序の口ではあるがな…しかしこれは予想外に深刻な状況であるぞ…この体たらくでは先が思いやられる…」
ナイスバディで妖艶な女性…『過去の女神』ウルトが眉を寄せる。
「…お言葉ですが女神よ…そちらの都合で我が子が命がけでなしえた事にケチをつけるなど相手が女神でも黙っていませんわよ?」
エリザベートとウルトの視線の間に火花が散る。
「まあまあ…二人共落ち着いて下さいな…ウルトお姉様は言い過ぎです…これはこれで上出来ではないですか~」
「フン…」
『現在の女神』…母性を感じさせるふくよかで優し気な雰囲気のベルダンデが仲裁に入った。
しかしエリザベートは納得がいかない様子で鋭い視線を外そうとしない。
それを見かねたベルダンデがある提案をする。
「我々の目的…シャルちゃんが生まれた時の事…今からすべて説明しますから場所を移しませんか?」
「ベルダンデ…お前!!」
「仕方が無いじゃありませんか…ここまで来たなら教えておいた方が良いと思うの…」
「………」
秘密の暴露に反対だったウルトであったが、こうなってしまった以上この場を収めるにはそれしかないと思い押し黙る。
「分かりましたわ…」
エリザベートも了承する。
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