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第6章
4 優子の部屋③
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「優子さんは自分の顔をどう思ってるの?」
「え、不細工だなーって思ってるけど……」
「ダメ。全然ダメ」
俺はため息をつきながら首を振った。
「優子さんが不細工だったら、世の中みんな不細工だよ、わかってる?」
「そう? 私は皆それぞれ魅力的だなーって思うけど……」
これが博愛か、と俺は思った。
「じゃなんでその中に自分が入らないの?」
「え、だって、私の顔ってなんか……変じゃない?」
「変なのは優子さんの感性」
「あはは、ヒドい。でも……なんだろうな、そもそも私ずっと、可愛いとか美人とか言われずに育ったんだよねぇ。実際ぱっとしなかったし、いつも友達とかの引き立て役って感じで。稀に私の顔がすごく好きって人もいたけど、そりゃ人類がこれだけいたら、そういう変わり者も中にはいるか、くらいにしか考えてなかったし。本格的に外見を褒められることが増えたのって、東京に来てからだから、東京の人ってそういう社交辞令が好きなんだな~としか……」
なるほど。
そういう仕組みで社交辞令と思い込んでいるのか。
高校でちょっと注目されて調子に乗った俺とは違うな……。
「そういえば若い頃、顔がよくないから中身で勝負するしかない! って思って内面を磨き始めたんだったっけ」
「マジで」
この顔でそういう思考になれるところが常人じゃないんだよな。
俺なんか顔をコンプレックスに思いながらも結局は顔頼みなとこあって、他で努力しようなんて思わずに生きてきてしまった。
「でも、自分では納得いかなくても、亮弥くんから見ておかしくないなら、私この顔で良かった」
「俺の好みイコール優子さんなんだから、おかしいわけないじゃん。一目惚れしてからずっと好きなままだし」
「ふふ、ありがとう。私も亮弥くんみたいな綺麗な人を好きなだけ見てられて、幸せだなぁと思う。自分がこんなに圧倒的な美形だったら、私すぐ調子に乗っちゃったかも。亮弥くんは謙虚でエラいよ」
「そ、そう……?」
急に褒められて、なんだか照れてしまった。
優子さんがそう思ってくれてるなら、よしとしよう。
「そういえばこの前、晃輝とも顔がどうって話したな……」
何の話だったっけ、と思い返す。
たしか、優子さんが俺の良いところわかってくれそうって晃輝が言って、良いところって何か聞いたら、顔、で、そうじゃなくて、
「あ、そうだ、俺の顔以外の良いところは、毒を吐かないところ、って言ってたな……」
「晃輝くんが? ほんと!」
「うん、でも俺はあんまりピンと来なくて」
そう言うと、優子さんは嬉しそうに言った。
「亮弥くんってさ、これまで一緒にいて、一度も他人を貶したり、文句を言ったりしてないんだよね。だからすごく安心して隣にいられるの。でも、もう少し慣れて気が緩んできたら言うようになるのかもなーって、ごめんね、様子見してたんだけど。親友くんから見てもそうなら、間違いないね、良かった!」
俺はビックリしてしまった。
晃輝の言ったとおり、俺の"良いところ"に優子さんは気づいてくれてた。
本当にちゃんと見てくれてるんだ。
俺が意識しないところまで、ちゃんと見て評価してくれてる。
「けっこう、話題のひとつくらいの感覚でそういうの挟んでこられること多くて、辛かったんだよね……」
「そうなの? 例えばどんな?」
「例えば……、出掛けた時に、店員さんがどうだとか小馬鹿にしたり……すれ違った人を見て"今の人見た?"みたいな……」
「え、すれ違っただけで?」
「そうなの。私、すれ違う人までそんなに意識して見ないから、"え、何が?"って言ったら、なんか、嫌な言葉が出てきて……、"人の容姿を悪く言っちゃダメだよ"って言ったら、白けられるっていうか……。思い出して悲しくなってきた……」
「そういうことは、たしかに俺は言わないかな……」
晃輝が言ってたのもそういうことだったのかな。
というか、そんなこと言って何になるの?
何のためにわざわざ言うの?
サッパリ理解できない。
「でも俺はあんまり自覚なくて、もしかしたら、何か嫌なこと言っちゃうかもしれないから、その時は叱ってください……」
「無意識で出ないなら、きっと出ないよ。そっか、亮弥くんみたいな人も、ちゃんといるんだね。嬉しい。諦めてしまわなくて良かった……」
優子さんは俺の腕にピタリと体を寄せて、肩に頭を預けてきた。
そして俺の手を取って、指を絡めながら言う。
「亮弥くんが私の人生に入ってきてくれて、私、本当に幸せ」
そんなことを言われて、俺の理性なんか保てるわけもなく……。
優子さんの言葉に、死んでもいいと思えるくらい、体じゅうが喜びと切なさで溢れてしまって、俺のほうがどんなに幸せか、どんなに優子さんを好きか、どんなに満たされているか、どんなにどんなに生きる力を与えてもらっているか――、言葉でまくし立てる代わりに、全身で、丁寧に、懸命に、想いを伝えた。
「え、不細工だなーって思ってるけど……」
「ダメ。全然ダメ」
俺はため息をつきながら首を振った。
「優子さんが不細工だったら、世の中みんな不細工だよ、わかってる?」
「そう? 私は皆それぞれ魅力的だなーって思うけど……」
これが博愛か、と俺は思った。
「じゃなんでその中に自分が入らないの?」
「え、だって、私の顔ってなんか……変じゃない?」
「変なのは優子さんの感性」
「あはは、ヒドい。でも……なんだろうな、そもそも私ずっと、可愛いとか美人とか言われずに育ったんだよねぇ。実際ぱっとしなかったし、いつも友達とかの引き立て役って感じで。稀に私の顔がすごく好きって人もいたけど、そりゃ人類がこれだけいたら、そういう変わり者も中にはいるか、くらいにしか考えてなかったし。本格的に外見を褒められることが増えたのって、東京に来てからだから、東京の人ってそういう社交辞令が好きなんだな~としか……」
なるほど。
そういう仕組みで社交辞令と思い込んでいるのか。
高校でちょっと注目されて調子に乗った俺とは違うな……。
「そういえば若い頃、顔がよくないから中身で勝負するしかない! って思って内面を磨き始めたんだったっけ」
「マジで」
この顔でそういう思考になれるところが常人じゃないんだよな。
俺なんか顔をコンプレックスに思いながらも結局は顔頼みなとこあって、他で努力しようなんて思わずに生きてきてしまった。
「でも、自分では納得いかなくても、亮弥くんから見ておかしくないなら、私この顔で良かった」
「俺の好みイコール優子さんなんだから、おかしいわけないじゃん。一目惚れしてからずっと好きなままだし」
「ふふ、ありがとう。私も亮弥くんみたいな綺麗な人を好きなだけ見てられて、幸せだなぁと思う。自分がこんなに圧倒的な美形だったら、私すぐ調子に乗っちゃったかも。亮弥くんは謙虚でエラいよ」
「そ、そう……?」
急に褒められて、なんだか照れてしまった。
優子さんがそう思ってくれてるなら、よしとしよう。
「そういえばこの前、晃輝とも顔がどうって話したな……」
何の話だったっけ、と思い返す。
たしか、優子さんが俺の良いところわかってくれそうって晃輝が言って、良いところって何か聞いたら、顔、で、そうじゃなくて、
「あ、そうだ、俺の顔以外の良いところは、毒を吐かないところ、って言ってたな……」
「晃輝くんが? ほんと!」
「うん、でも俺はあんまりピンと来なくて」
そう言うと、優子さんは嬉しそうに言った。
「亮弥くんってさ、これまで一緒にいて、一度も他人を貶したり、文句を言ったりしてないんだよね。だからすごく安心して隣にいられるの。でも、もう少し慣れて気が緩んできたら言うようになるのかもなーって、ごめんね、様子見してたんだけど。親友くんから見てもそうなら、間違いないね、良かった!」
俺はビックリしてしまった。
晃輝の言ったとおり、俺の"良いところ"に優子さんは気づいてくれてた。
本当にちゃんと見てくれてるんだ。
俺が意識しないところまで、ちゃんと見て評価してくれてる。
「けっこう、話題のひとつくらいの感覚でそういうの挟んでこられること多くて、辛かったんだよね……」
「そうなの? 例えばどんな?」
「例えば……、出掛けた時に、店員さんがどうだとか小馬鹿にしたり……すれ違った人を見て"今の人見た?"みたいな……」
「え、すれ違っただけで?」
「そうなの。私、すれ違う人までそんなに意識して見ないから、"え、何が?"って言ったら、なんか、嫌な言葉が出てきて……、"人の容姿を悪く言っちゃダメだよ"って言ったら、白けられるっていうか……。思い出して悲しくなってきた……」
「そういうことは、たしかに俺は言わないかな……」
晃輝が言ってたのもそういうことだったのかな。
というか、そんなこと言って何になるの?
何のためにわざわざ言うの?
サッパリ理解できない。
「でも俺はあんまり自覚なくて、もしかしたら、何か嫌なこと言っちゃうかもしれないから、その時は叱ってください……」
「無意識で出ないなら、きっと出ないよ。そっか、亮弥くんみたいな人も、ちゃんといるんだね。嬉しい。諦めてしまわなくて良かった……」
優子さんは俺の腕にピタリと体を寄せて、肩に頭を預けてきた。
そして俺の手を取って、指を絡めながら言う。
「亮弥くんが私の人生に入ってきてくれて、私、本当に幸せ」
そんなことを言われて、俺の理性なんか保てるわけもなく……。
優子さんの言葉に、死んでもいいと思えるくらい、体じゅうが喜びと切なさで溢れてしまって、俺のほうがどんなに幸せか、どんなに優子さんを好きか、どんなに満たされているか、どんなにどんなに生きる力を与えてもらっているか――、言葉でまくし立てる代わりに、全身で、丁寧に、懸命に、想いを伝えた。
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