80 / 158
第6章
4 優子の部屋③
しおりを挟む
「優子さんは自分の顔をどう思ってるの?」
「え、不細工だなーって思ってるけど……」
「ダメ。全然ダメ」
俺はため息をつきながら首を振った。
「優子さんが不細工だったら、世の中みんな不細工だよ、わかってる?」
「そう? 私は皆それぞれ魅力的だなーって思うけど……」
これが博愛か、と俺は思った。
「じゃなんでその中に自分が入らないの?」
「え、だって、私の顔ってなんか……変じゃない?」
「変なのは優子さんの感性」
「あはは、ヒドい。でも……なんだろうな、そもそも私ずっと、可愛いとか美人とか言われずに育ったんだよねぇ。実際ぱっとしなかったし、いつも友達とかの引き立て役って感じで。稀に私の顔がすごく好きって人もいたけど、そりゃ人類がこれだけいたら、そういう変わり者も中にはいるか、くらいにしか考えてなかったし。本格的に外見を褒められることが増えたのって、東京に来てからだから、東京の人ってそういう社交辞令が好きなんだな~としか……」
なるほど。
そういう仕組みで社交辞令と思い込んでいるのか。
高校でちょっと注目されて調子に乗った俺とは違うな……。
「そういえば若い頃、顔がよくないから中身で勝負するしかない! って思って内面を磨き始めたんだったっけ」
「マジで」
この顔でそういう思考になれるところが常人じゃないんだよな。
俺なんか顔をコンプレックスに思いながらも結局は顔頼みなとこあって、他で努力しようなんて思わずに生きてきてしまった。
「でも、自分では納得いかなくても、亮弥くんから見ておかしくないなら、私この顔で良かった」
「俺の好みイコール優子さんなんだから、おかしいわけないじゃん。一目惚れしてからずっと好きなままだし」
「ふふ、ありがとう。私も亮弥くんみたいな綺麗な人を好きなだけ見てられて、幸せだなぁと思う。自分がこんなに圧倒的な美形だったら、私すぐ調子に乗っちゃったかも。亮弥くんは謙虚でエラいよ」
「そ、そう……?」
急に褒められて、なんだか照れてしまった。
優子さんがそう思ってくれてるなら、よしとしよう。
「そういえばこの前、晃輝とも顔がどうって話したな……」
何の話だったっけ、と思い返す。
たしか、優子さんが俺の良いところわかってくれそうって晃輝が言って、良いところって何か聞いたら、顔、で、そうじゃなくて、
「あ、そうだ、俺の顔以外の良いところは、毒を吐かないところ、って言ってたな……」
「晃輝くんが? ほんと!」
「うん、でも俺はあんまりピンと来なくて」
そう言うと、優子さんは嬉しそうに言った。
「亮弥くんってさ、これまで一緒にいて、一度も他人を貶したり、文句を言ったりしてないんだよね。だからすごく安心して隣にいられるの。でも、もう少し慣れて気が緩んできたら言うようになるのかもなーって、ごめんね、様子見してたんだけど。親友くんから見てもそうなら、間違いないね、良かった!」
俺はビックリしてしまった。
晃輝の言ったとおり、俺の"良いところ"に優子さんは気づいてくれてた。
本当にちゃんと見てくれてるんだ。
俺が意識しないところまで、ちゃんと見て評価してくれてる。
「けっこう、話題のひとつくらいの感覚でそういうの挟んでこられること多くて、辛かったんだよね……」
「そうなの? 例えばどんな?」
「例えば……、出掛けた時に、店員さんがどうだとか小馬鹿にしたり……すれ違った人を見て"今の人見た?"みたいな……」
「え、すれ違っただけで?」
「そうなの。私、すれ違う人までそんなに意識して見ないから、"え、何が?"って言ったら、なんか、嫌な言葉が出てきて……、"人の容姿を悪く言っちゃダメだよ"って言ったら、白けられるっていうか……。思い出して悲しくなってきた……」
「そういうことは、たしかに俺は言わないかな……」
晃輝が言ってたのもそういうことだったのかな。
というか、そんなこと言って何になるの?
何のためにわざわざ言うの?
サッパリ理解できない。
「でも俺はあんまり自覚なくて、もしかしたら、何か嫌なこと言っちゃうかもしれないから、その時は叱ってください……」
「無意識で出ないなら、きっと出ないよ。そっか、亮弥くんみたいな人も、ちゃんといるんだね。嬉しい。諦めてしまわなくて良かった……」
優子さんは俺の腕にピタリと体を寄せて、肩に頭を預けてきた。
そして俺の手を取って、指を絡めながら言う。
「亮弥くんが私の人生に入ってきてくれて、私、本当に幸せ」
そんなことを言われて、俺の理性なんか保てるわけもなく……。
優子さんの言葉に、死んでもいいと思えるくらい、体じゅうが喜びと切なさで溢れてしまって、俺のほうがどんなに幸せか、どんなに優子さんを好きか、どんなに満たされているか、どんなにどんなに生きる力を与えてもらっているか――、言葉でまくし立てる代わりに、全身で、丁寧に、懸命に、想いを伝えた。
「え、不細工だなーって思ってるけど……」
「ダメ。全然ダメ」
俺はため息をつきながら首を振った。
「優子さんが不細工だったら、世の中みんな不細工だよ、わかってる?」
「そう? 私は皆それぞれ魅力的だなーって思うけど……」
これが博愛か、と俺は思った。
「じゃなんでその中に自分が入らないの?」
「え、だって、私の顔ってなんか……変じゃない?」
「変なのは優子さんの感性」
「あはは、ヒドい。でも……なんだろうな、そもそも私ずっと、可愛いとか美人とか言われずに育ったんだよねぇ。実際ぱっとしなかったし、いつも友達とかの引き立て役って感じで。稀に私の顔がすごく好きって人もいたけど、そりゃ人類がこれだけいたら、そういう変わり者も中にはいるか、くらいにしか考えてなかったし。本格的に外見を褒められることが増えたのって、東京に来てからだから、東京の人ってそういう社交辞令が好きなんだな~としか……」
なるほど。
そういう仕組みで社交辞令と思い込んでいるのか。
高校でちょっと注目されて調子に乗った俺とは違うな……。
「そういえば若い頃、顔がよくないから中身で勝負するしかない! って思って内面を磨き始めたんだったっけ」
「マジで」
この顔でそういう思考になれるところが常人じゃないんだよな。
俺なんか顔をコンプレックスに思いながらも結局は顔頼みなとこあって、他で努力しようなんて思わずに生きてきてしまった。
「でも、自分では納得いかなくても、亮弥くんから見ておかしくないなら、私この顔で良かった」
「俺の好みイコール優子さんなんだから、おかしいわけないじゃん。一目惚れしてからずっと好きなままだし」
「ふふ、ありがとう。私も亮弥くんみたいな綺麗な人を好きなだけ見てられて、幸せだなぁと思う。自分がこんなに圧倒的な美形だったら、私すぐ調子に乗っちゃったかも。亮弥くんは謙虚でエラいよ」
「そ、そう……?」
急に褒められて、なんだか照れてしまった。
優子さんがそう思ってくれてるなら、よしとしよう。
「そういえばこの前、晃輝とも顔がどうって話したな……」
何の話だったっけ、と思い返す。
たしか、優子さんが俺の良いところわかってくれそうって晃輝が言って、良いところって何か聞いたら、顔、で、そうじゃなくて、
「あ、そうだ、俺の顔以外の良いところは、毒を吐かないところ、って言ってたな……」
「晃輝くんが? ほんと!」
「うん、でも俺はあんまりピンと来なくて」
そう言うと、優子さんは嬉しそうに言った。
「亮弥くんってさ、これまで一緒にいて、一度も他人を貶したり、文句を言ったりしてないんだよね。だからすごく安心して隣にいられるの。でも、もう少し慣れて気が緩んできたら言うようになるのかもなーって、ごめんね、様子見してたんだけど。親友くんから見てもそうなら、間違いないね、良かった!」
俺はビックリしてしまった。
晃輝の言ったとおり、俺の"良いところ"に優子さんは気づいてくれてた。
本当にちゃんと見てくれてるんだ。
俺が意識しないところまで、ちゃんと見て評価してくれてる。
「けっこう、話題のひとつくらいの感覚でそういうの挟んでこられること多くて、辛かったんだよね……」
「そうなの? 例えばどんな?」
「例えば……、出掛けた時に、店員さんがどうだとか小馬鹿にしたり……すれ違った人を見て"今の人見た?"みたいな……」
「え、すれ違っただけで?」
「そうなの。私、すれ違う人までそんなに意識して見ないから、"え、何が?"って言ったら、なんか、嫌な言葉が出てきて……、"人の容姿を悪く言っちゃダメだよ"って言ったら、白けられるっていうか……。思い出して悲しくなってきた……」
「そういうことは、たしかに俺は言わないかな……」
晃輝が言ってたのもそういうことだったのかな。
というか、そんなこと言って何になるの?
何のためにわざわざ言うの?
サッパリ理解できない。
「でも俺はあんまり自覚なくて、もしかしたら、何か嫌なこと言っちゃうかもしれないから、その時は叱ってください……」
「無意識で出ないなら、きっと出ないよ。そっか、亮弥くんみたいな人も、ちゃんといるんだね。嬉しい。諦めてしまわなくて良かった……」
優子さんは俺の腕にピタリと体を寄せて、肩に頭を預けてきた。
そして俺の手を取って、指を絡めながら言う。
「亮弥くんが私の人生に入ってきてくれて、私、本当に幸せ」
そんなことを言われて、俺の理性なんか保てるわけもなく……。
優子さんの言葉に、死んでもいいと思えるくらい、体じゅうが喜びと切なさで溢れてしまって、俺のほうがどんなに幸せか、どんなに優子さんを好きか、どんなに満たされているか、どんなにどんなに生きる力を与えてもらっているか――、言葉でまくし立てる代わりに、全身で、丁寧に、懸命に、想いを伝えた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
離縁の脅威、恐怖の日々
月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。
※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。
※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる