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第4章
2 情報交換①
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たしか世間で言うところの「山の日」だったと思うけど、その八月の祝日に姉ちゃんと彼氏の両家の食事会が執り行われた。
と言っても参加したのは両親だけで、俺は行かなかったんだけど、母親から電話があり、その日は愛美が泊まってくから貴方も帰ってきなさい、とのことだったので、俺は昼間のうちに実家に帰った。
途中にコンビニで買ってきたアイスは溶け始めていた。
それを急いで口に入れながら、エアコンを入れて、リビングのカーテンを開け、扇風機をソファの前にセットして、そこに座った。
「はー、暑い」
ゴールデンウイーク以来の実家だった。
近いのについ後回しになって、こんな機会でもないとなかなか帰ってこない。
親友である晃輝ともほとんど会わないし、他にこれといってわざわざ会うほどの友達もいない。
なんだかんだ、仕事のメンバー以外で一番交流があるのが月イチ程度会う優子さんだったりする。
姉ちゃんは三十過ぎまで頑なに実家暮らしをしていたけど、今の彼氏とつき合い始めた頃に、自立を決めて一人暮らしを始めた。
料理も掃除も洗濯も親任せだったから、家事が何もできなかったけど、がんばってひととおりできるようになったらしい。
逆に彼氏は一人暮らしが長く、家事は普通にできる人だ。
休日は自炊もしているそうで、パスタなんかは割と本格的な感じで作るらしい。
あのチャラそうな彼氏でも料理ができるとは意外だった。
俺もコンビニ食ばかりじゃなく、優子さんに恥ずかしくないように料理の練習もしたほうがいいかもしれない。
アイスを食べ終わって時計を見たら三時過ぎだった。
ヒマだったので二階の自分の部屋から漫画を取ってきて、ソファで読み始めた。
しばらくすると、玄関で慌ただしく音がして、続いてピンポーンとインターホンが鳴った。
モニターを見ると姉ちゃんがいて、まだ応答してないのに「亮弥開けてー」という声が、玄関の方から小さく聞こえた。
鍵を開けるとドアが開き、
「はぁー、疲れた疲れた」
と、何やら手土産を下げた姉ちゃんが入ってきた。
「お帰りなさい。お父さんとお母さんは?」
「買い物してくるってー。家に入ったらもう出たくなくなるからって。私はもう疲れたから、先に降ろしてもらった」
「おつかれさま」
「これお土産。隆也の両親から。銀座の有名な最中らしいよ。はぁー、涼しい!」
リビングに入って満足そうに声を上げると、姉ちゃんはソファにへたり込んだ。
「向こうの親とも何度も会ってるし、自分の親に気を遣うこともないのに、両家が揃うと神経使うのなんでだろうね。はぁー、食事楽しみにしてたのに味とか全然わからなかった」
「大変だね」
俺はソファを取られてしまったので椅子に座った。
「他人事みたいに聞いてるけど、いずれアンタもそういう時が来るんだからね」
「そ、そうかなぁ~」
つい口元が緩んでしまったのを、姉ちゃんは見逃さなかった。
こちらにからかうような視線を向け、
「お、何だその反応。彼女いるのか」
「いや、そうじゃないんだけど……」
一応、姉ちゃんに優子さんのことを話そうと考えてはいたけど、さすがに会って二分で彼女がどうって話になるとは思っていなかったから、ちょっとうろたえた。
「アンタ女の子とつき合ったことあるの? 何も聞いたことないんだけど」
「そりゃあるよ一応。何人かは……」
「あ、そう。ならいいけど」
姉ちゃんはあっという間に興味を無くして、ソファの上で怠そうに目を閉じた。
こういう話題は自分からは切り出しにくい。
姉ちゃんがもっと踏み込んで聞いてくれればサラッと話せるのに。
と言っても参加したのは両親だけで、俺は行かなかったんだけど、母親から電話があり、その日は愛美が泊まってくから貴方も帰ってきなさい、とのことだったので、俺は昼間のうちに実家に帰った。
途中にコンビニで買ってきたアイスは溶け始めていた。
それを急いで口に入れながら、エアコンを入れて、リビングのカーテンを開け、扇風機をソファの前にセットして、そこに座った。
「はー、暑い」
ゴールデンウイーク以来の実家だった。
近いのについ後回しになって、こんな機会でもないとなかなか帰ってこない。
親友である晃輝ともほとんど会わないし、他にこれといってわざわざ会うほどの友達もいない。
なんだかんだ、仕事のメンバー以外で一番交流があるのが月イチ程度会う優子さんだったりする。
姉ちゃんは三十過ぎまで頑なに実家暮らしをしていたけど、今の彼氏とつき合い始めた頃に、自立を決めて一人暮らしを始めた。
料理も掃除も洗濯も親任せだったから、家事が何もできなかったけど、がんばってひととおりできるようになったらしい。
逆に彼氏は一人暮らしが長く、家事は普通にできる人だ。
休日は自炊もしているそうで、パスタなんかは割と本格的な感じで作るらしい。
あのチャラそうな彼氏でも料理ができるとは意外だった。
俺もコンビニ食ばかりじゃなく、優子さんに恥ずかしくないように料理の練習もしたほうがいいかもしれない。
アイスを食べ終わって時計を見たら三時過ぎだった。
ヒマだったので二階の自分の部屋から漫画を取ってきて、ソファで読み始めた。
しばらくすると、玄関で慌ただしく音がして、続いてピンポーンとインターホンが鳴った。
モニターを見ると姉ちゃんがいて、まだ応答してないのに「亮弥開けてー」という声が、玄関の方から小さく聞こえた。
鍵を開けるとドアが開き、
「はぁー、疲れた疲れた」
と、何やら手土産を下げた姉ちゃんが入ってきた。
「お帰りなさい。お父さんとお母さんは?」
「買い物してくるってー。家に入ったらもう出たくなくなるからって。私はもう疲れたから、先に降ろしてもらった」
「おつかれさま」
「これお土産。隆也の両親から。銀座の有名な最中らしいよ。はぁー、涼しい!」
リビングに入って満足そうに声を上げると、姉ちゃんはソファにへたり込んだ。
「向こうの親とも何度も会ってるし、自分の親に気を遣うこともないのに、両家が揃うと神経使うのなんでだろうね。はぁー、食事楽しみにしてたのに味とか全然わからなかった」
「大変だね」
俺はソファを取られてしまったので椅子に座った。
「他人事みたいに聞いてるけど、いずれアンタもそういう時が来るんだからね」
「そ、そうかなぁ~」
つい口元が緩んでしまったのを、姉ちゃんは見逃さなかった。
こちらにからかうような視線を向け、
「お、何だその反応。彼女いるのか」
「いや、そうじゃないんだけど……」
一応、姉ちゃんに優子さんのことを話そうと考えてはいたけど、さすがに会って二分で彼女がどうって話になるとは思っていなかったから、ちょっとうろたえた。
「アンタ女の子とつき合ったことあるの? 何も聞いたことないんだけど」
「そりゃあるよ一応。何人かは……」
「あ、そう。ならいいけど」
姉ちゃんはあっという間に興味を無くして、ソファの上で怠そうに目を閉じた。
こういう話題は自分からは切り出しにくい。
姉ちゃんがもっと踏み込んで聞いてくれればサラッと話せるのに。
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