上 下
53 / 158
第4章

2 情報交換①

しおりを挟む
 たしか世間で言うところの「山の日」だったと思うけど、その八月の祝日に姉ちゃんと彼氏の両家の食事会が執り行われた。
 と言っても参加したのは両親だけで、俺は行かなかったんだけど、母親から電話があり、その日は愛美が泊まってくから貴方も帰ってきなさい、とのことだったので、俺は昼間のうちに実家に帰った。

 途中にコンビニで買ってきたアイスは溶け始めていた。
 それを急いで口に入れながら、エアコンを入れて、リビングのカーテンを開け、扇風機をソファの前にセットして、そこに座った。
「はー、暑い」
 ゴールデンウイーク以来の実家だった。
 近いのについ後回しになって、こんな機会でもないとなかなか帰ってこない。
 親友である晃輝ともほとんど会わないし、他にこれといってわざわざ会うほどの友達もいない。
 なんだかんだ、仕事のメンバー以外で一番交流があるのが月イチ程度会う優子さんだったりする。

 姉ちゃんは三十過ぎまで頑なに実家暮らしをしていたけど、今の彼氏とつき合い始めた頃に、自立を決めて一人暮らしを始めた。
 料理も掃除も洗濯も親任せだったから、家事が何もできなかったけど、がんばってひととおりできるようになったらしい。
 逆に彼氏は一人暮らしが長く、家事は普通にできる人だ。
 休日は自炊もしているそうで、パスタなんかは割と本格的な感じで作るらしい。
 あのチャラそうな彼氏でも料理ができるとは意外だった。
 俺もコンビニ食ばかりじゃなく、優子さんに恥ずかしくないように料理の練習もしたほうがいいかもしれない。

 アイスを食べ終わって時計を見たら三時過ぎだった。
 ヒマだったので二階の自分の部屋から漫画を取ってきて、ソファで読み始めた。
 しばらくすると、玄関で慌ただしく音がして、続いてピンポーンとインターホンが鳴った。
 モニターを見ると姉ちゃんがいて、まだ応答してないのに「亮弥開けてー」という声が、玄関の方から小さく聞こえた。
 鍵を開けるとドアが開き、
「はぁー、疲れた疲れた」
 と、何やら手土産を下げた姉ちゃんが入ってきた。
「お帰りなさい。お父さんとお母さんは?」
「買い物してくるってー。家に入ったらもう出たくなくなるからって。私はもう疲れたから、先に降ろしてもらった」
「おつかれさま」
「これお土産。隆也たかやの両親から。銀座の有名な最中もなからしいよ。はぁー、涼しい!」
 リビングに入って満足そうに声を上げると、姉ちゃんはソファにへたり込んだ。

「向こうの親とも何度も会ってるし、自分の親に気を遣うこともないのに、両家が揃うと神経使うのなんでだろうね。はぁー、食事楽しみにしてたのに味とか全然わからなかった」
「大変だね」
 俺はソファを取られてしまったので椅子に座った。
「他人事みたいに聞いてるけど、いずれアンタもそういう時が来るんだからね」
「そ、そうかなぁ~」
 つい口元が緩んでしまったのを、姉ちゃんは見逃さなかった。
 こちらにからかうような視線を向け、
「お、何だその反応。彼女いるのか」
「いや、そうじゃないんだけど……」

 一応、姉ちゃんに優子さんのことを話そうと考えてはいたけど、さすがに会って二分で彼女がどうって話になるとは思っていなかったから、ちょっとうろたえた。

「アンタ女の子とつき合ったことあるの? 何も聞いたことないんだけど」
「そりゃあるよ一応。何人かは……」
「あ、そう。ならいいけど」
 姉ちゃんはあっという間に興味を無くして、ソファの上で怠そうに目を閉じた。
 こういう話題は自分からは切り出しにくい。
 姉ちゃんがもっと踏み込んで聞いてくれればサラッと話せるのに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

処理中です...