大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

行方と帰宅

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さて、なんとかアーネの家に着いたが、どうも家には誰もいないらしい。
「アーネお嬢様、シエルお嬢様、後はわたくしとメイド長のカーネリアンとコック長のデデッド。そしてたった今来られたレィア様のみでございます」
「んー?前ん時に沢山いたメイドさんやら執事さんは?」
「お父様が変な気を利かせたせいですわ…」
アーネが額に手をやり、微かなため息を漏らす。
「?」
「前にあった事件のことを旦那様は大層気になさっておりまして。レィア様がいらっしゃるとお嬢様から聞いて、信用できる者のみ残し、他の屋敷の者たち全員に休みを取らせたのです」
「前にあった事件って……あぁ」
メイドが俺に銃向けてしばらく意識がなかった時の話か。忘れてた。
『死にかけた事をコロッと忘れるのか。こりゃ随分と《勇者》らしくなったもんだ』
別に。死にかけるのは慣れてたからな。
というより、いくら油断していたからと言っても、ほとんど戦闘訓練を積んでないであろうメイドに、毎日死闘を繰り広げていた自分があそこまで簡単にやられたというのが悪い。個人的にはアーネん家の事件ではなく、俺個人の過失みたいなものだと思っている。
「俺は気にしてないんだが…今から人を呼びなおすのは逆に迷惑だろうからもういいけど、今度からそんなことはしないでくれると有難いかな」
「今度からということは、また来ますの!?」
アーネが目を見開き、驚いた顔をしてこちらを見る。
「………どうも邪魔らしいな。次から紅の森に大人しく帰るよ。なんなら今からシエルを連れて行くが…」
「いえそんなことしなくて構いませんのよむしろここに住んでもらっても構いませんわ私は全く全然これっぽちも邪魔とは思ってませんものねぇモーリス大丈夫ですわね?」
滅茶苦茶な早口でそうまくしたてると、アーネの言葉に賛同するようにモーリスさんが笑顔のままゆっくりと答えた。
「はい。ケイナズ家はレィア様とシエルお嬢様を歓迎しておりますよ」
「そうか?邪魔になったらすぐに言ってくれよ?なんなら宿代も出すぞ?」
「おやめくださいレィア様。そんなことをする必要はありません」
そうか…なんか悪いなぁ、なんて思いながら「今度からは気にしなくていいから」とあらためて言っておく。
「かしこまりました。旦那様に伝えておきます」
モーリスさんはそう言った。
「…ん?そういやアーネの父親はどこ行ったんだ?」
伝えておきます、という事は今この場にいないのか、あるいは近くにいても手が離せないのか。いずれにしろ、何かあったのだろう。
「お父様は仕事で北の方へ行っていますわ。お母様もその付き添いで何日か前から家に居ませんの。兄様も普通に仕事で家にいませんけれど、夜になれば帰ってきますわ。…多分、もうそろそろですの」
ふーん。北の方ねぇ…
そう言やユーリアが向かったのも北の方で…ふぅん…
『今代の。注意力散漫』
「へっ?」
「?、どうかしたんです──」
唐突に変な声を上げた俺にアーネがそう声をかけた瞬間、シエルが俺の方に突っ込んできた。
「おかあさんっ!!」
「ぬぉっ!?」
とんでもない勢いで俺の胸部に着弾したシエルを抱きかかえ、その勢いのまま後方へと転がる俺。すぐに玄関の扉に強かに後頭部を打ち付けた。
胸にへばりついたままのシエルをくっつけながら、頭を擦りながら立ち上がる。
「いってぇ…」
「………おかあさん、おかえ、り」
「あぁ、ただいま」
俺の家じゃなくてアーネの家なのに、そんな言葉がなんの抵抗もなく俺の口からするりと出てきた。なんだろう、すごく落ち着く。
「…おかえりなさい、ですわ」
アーネが小さくそう呟いたのが、俺の耳に辛うじて聞こえた。
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