大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

二つ名激突と二人の勇者 終

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ウィルの長剣の長さは俺の白剣よりも長い。
加えてあっちは走ってきた勢いもある。向こうがこっちよりも早く攻撃が届くのは当然。
だが──
それを補う技術があるのは俺だ。
極限下において研ぎ澄まされた俺の集中力は恐ろしい勢いで迫るウィルの刃でさえ止まって見えるほど集中していた。
──速度、という一点においてなら。
──ニケよりも遅いな。
なんて事が脳裏をよぎった。
氷刃をピタリ、と水平に構える。
ウィルの剣閃は──俺の左肩から右腰へ抜ける一閃か。
しかし身体からは赤いオーラが立ち上っている。戦技アーツを併用しているなら連撃の可能性もあるが──まぁ問題ない。
一撃で叩き落とす。
下から全く逆の剣筋を描いて俺の氷刃が迎え撃つ。それが見えたのだろう、僅かにウィルの頬が笑みを作ったように見えた。
悪いがウィル──
お前に真正面から戦いを挑む気はない。
剣が交わる瞬間、俺はほんの少しだけ剣をズラした。
それはせいぜい数ミリにも満たない程度の差。
しかし、交わり合う剣同士において数ミリ変われば──結果は劇的に変わる。
「ッッラァ!!」
「!」
真正面から刃を交えるはずだったウィルの剣は、俺の氷刃の腹を削りながら滑る。
キン!と涼しい音がふたりぼっちの訓練所に響く。
ウィルの剣筋を強引に変更し、戦技アーツを強制的に停止。
「くっ!」
「オオッ!!」
切り込むが、戦技アーツ直後の硬直を強引に振り切ったウィルの盾が阻む。
「クソが!!」
音もなく刃が消滅し、代わりにウィルの盾が一瞬で冷気に包まれ、盾どころか左肩までが氷に覆われる。
「くっ、おおっ!!」
しかしウィルは凍った左腕ごと盾強打シールドバッシュを繰り出し、咄嗟に柄尻で弾こうとするが──逆に弾かれる。
「ぐぅぅ、!」
あまりに不格好な着地。しかし距離が取れたのはありがたい。
最後の炎を装填、燃え上がる炎を朝圧縮して形成された刃を構え、最後の力を振り絞って一歩だけ踏み込む。
上段よりもさらに上、大上段から振り下ろした炎刃が空気を焼き殺しながらウィルに迫る。
「喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
直撃の瞬間、炎刃が大爆発を起こした。
あまりにも近くにいた俺も吹き飛ばされ、床をゴロゴロとみっともなく転がる。
「っ!」
顔を上げると、爆炎に呑まれのたうつウィル。
「不味い!やりすぎた!!」
どうしてか分からないが、いるはずの救護班もいない。焦った俺はマキナを呼んで救護班を探させようともしたが、マキナはまだ回復中。動かせる状態じゃない。
不味い、このままじゃウィルが死──
「Ooooooooo────!!」
たとえるなら、狼の遠吠えのような声。
しかし実際に聞こえたのはそれの何倍も恐ろしく、ずっと化物らしい声。
遠吠えを発したのは誰か考えるまでもない。ウィルだ。
そしてその遠吠えにどんな効果があったかは知らないが、不思議なことに俺が叩き込んだ炎は綺麗に消えていた。
「なっ──」
「………さすがに、今のは効いたな」
肩で息をするウィル。その身体はそれなりに離れた俺から見ても酷い火傷を負っているのが良くわかった。
「僕のスキルを教えてあげよう。僕のスキルは《狂化バーサーク》。精神を化物に近づければ近づけるほど強靭な肉体を手に入れるスキルさ。それこそ、その気になれば魔法を弾けるぐらいにね」
さっきの遠吠えはそういう──
「そうか。何にせよ俺は今ので万策尽きたってやつだ。もう剣も無ぇし身体もボロボロ。立ち上がる気力も無ぇ。死ぬほど認めたくねぇが、お前の勝ちだ」
あぁ──強かった。
ウィルクライン・アウクラングという男は確かに強かった。
俺が今の実力じゃあ、何がどうしても勝てない。
だから。
「次があるかは知らねぇが、万が一にもあるのなら、次は絶対に俺が勝つ」
「あぁ、僕もその時は負けないようにしよう」
救護班を呼んでくるよ。そう言って訓練所を出るウィルの足取りはしっかりとしていた。
大きな音を立てて閉じる扉、それを無言でしばらく眺め、一言だけ洩らす。
「《勇者》にも届かなかったか…」
そう言って目を閉じた。
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