大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,003 / 2,022
本編

逆探知と魔法

しおりを挟む
何かの時に…多分、アーネかユーリアに聞いたのだが魔法の逆探知と言うものがあるらしい。
技術としては初歩的な応用らしく、そこまで難しいものでは無いらしいのだが、この手を取るのはあまり得策じゃないのだそうだ。
理由は色々とある。俺がそもそも魔法を使う事に向いていない事だとか、燃費があまり良くないため、魔力が結構必要な事だとか、逆探知は割と良くあることのため、その対策がされている事もままあるからとか、その他色々と。
中でも一番大きいのは、
何が不味いって、そもそも逆探知ってのは如何に相手に気づかれないように、それでいて一方的に相手の裏を突けるかがキモだ。特に今回の場合、それが顕著だろう。
俺にメッセージを掛けてきた相手は一応リーザだった。
この時点で可能性としては二つ。
一つは本物のリーザが俺に誤ったメッセージを送ったという可能性。
これが本当に間違えて送ったものなのか、誰かに操られて送ったものか、それとも自らわざと誤ったメッセージを送ったのかは今は置いておく。
もう一つは、リーザに成りすました別人であると言う可能性。
この場合だと、特にヤバい。
俺が相手を疑っているということが向こうに一発でバレる。
そして先ほど二人にメッセージを送り、反応がなかったと言っていたが──その二人、つまりはアーネとクアイちゃんからの反応は一切無かった。
死んでいたらそもそもメッセージは発動しないし、死んでいる可能性は無いという点では安心したものの、逆に言えば死んでおらず、その上でメッセージに応えられない状況と言える。
何者かの襲撃を受けて気絶しているのか、それとも捕えられたのか。
タイマーを見る限り、時刻はそろそろ昼。まさか全員が未だに寝ている訳ではあるまい。
結界の中に入るにしても、まだ早すぎる。班全員が最低限ノルマをクリアするとして魔獣十体は必要だ。それも頭や重要部位を残す必要がある。
嫌な予感しかしない。
「マキナ、どうだ」
『もう少し・お待ちください』
マキナの中に入れてあった魔力のストックがどれだけあるか分からないが、かなりの速度で減っているであろうことがわかる。
逆探知は距離と経過時間に比例して消費魔力が増える。燃費が悪いのはこの辺りが原因だ。
加えてここは結界の外。どこまで遠くにいるか分からないと言うのに、相手にバレる逆探知を使った。
「全部注ぎ込んでも構わん、確実に補足しろ」
『了解しました』
そうしてどれほど時間が経ったか。
一分のようにも思えたし、十分、一時間のようにも思えた。
『補足しました』
「よくやった」
そう言うと同時に、マキナの姿が鎚に戻り、沈黙する。
素早く親指の腹を噛み切り、血を表面に塗り付けて魔力を補給させると、マキナが反応する。
『ここから先・直線距離で北東へ四十三キロです』
「四十三キロ…」
今から走るだけなら二時間から三時間…いや、道中に魔獣がいたり、そもそも直線で通れないような崖がある可能性もある。馬鹿正直にこの数字を信じるのは不味いか。
だが──それをねじ伏せる。
「第二血界──」
『馬鹿よせやめろ。マキナのストックもほぼ空で移動に血界を使ってたら、ここぞと言うタイミングで使えなくなるぞ』
「間に合わなくなるだろうが」
背中の《勇者紋》が一度脈打ち、身体強化の血界を──
「待て、貴様、今身体能力を上げる血界を使おうとしたな?」
「あ?確かにそうだが──」
「遠くの地まで急いでいかねばならぬのだな?そしてそれが必要なのだな?」
「必要だね。じゃなきゃ結界の中に帰らない」
そう言い放つと、少女は顎に手をやり、少し考えると、「よし」と何か決めたようだ。
少女の手が俺の額に触れ、一言。
「『祝福を授ける──』」
そう言った途端、身体が一段上の階段を登ったように軽くなる。
「これって──」
「貴様ら《勇者》の血界よりは効果が低いが、余の祝福強化である。早う行け」
「────。」
ぶっきらぼうにそう言う少女に一言、感謝の言葉をかけてから。
俺は走り始めた。
しおりを挟む

処理中です...