大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

疲労と夢

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とりあえずミラーゴーストとの戦闘が終わったので、外で待っていた先生を呼び、その事を報告。
で、何か言われる前に速攻で逃げた。壁やら何やらを後日この事をかなりしつこく聞かれるかもしれないが、そんな事、今は知ったこっちゃない。
とにかく疲れたのだ。身体も心も。
身体は元から。今日は何故だか疲れていた。加えてあの苛烈な戦闘。疲弊しない訳がない。心は──やはり偽物と分かっていても、ナナキじゃないと分かっていても、その姿をした相手を殺したという、なんとも形容しがたいその気持ち悪さから。
先に帰されていたらしいアーネ達が、部屋に帰ってきた俺を迎えた瞬間、その疲労が一気に吹き出したらしい。
「よかったですわ、貴方があそこまで必死だったことなんて滅多に──」
どこかホッとした表情のアーネとシエルが俺出迎えてくれた、そう認識した頃には俺の意識は闇色の沼に飲み込まれるようにして落ちていった。
そして見るのは、三回連続して見ることとなった例の夢。
元研究室らしいそこは、一目見ただけでは昨晩見た研究室とは分からなかった。
昨晩見た研究室にはこれでもかとあった物が撤去され、ただの真っ白──と、言うにはやや薄汚れた部屋だけが残っていたからだ。
部屋に残っているのは数枚の書類が乗った机と、それと一組らしい椅子、そしてそれに深く腰掛けている白衣の誰か。背中を向けている上、そもそも顔が認識出来ないため、誰かはわからないが恐らく──
『──主任』
俺が振り返ると、今さっき部屋に入ってきたらしい白衣の人物。
『■■■か』
ここ三日で聞きなれた男の声。やはり主任と呼ばれていた人物らしい。
『その、私…なんて言ったらいいか……』
『いや、特になにか言わなくていい。やはりやるべきでは無かったのかもしれないな』
顔を見ることの出来ない男が、それでも薄く笑ったのが分かった。
それも力なく。
『■■■も■■も■■■■も■■■■も、良くやってくれた。もちろん君もな、■■■』
椅子から立ち上がり、書類に手を触れる主任。
『しかし実験は失敗した。君は職を失い、彼らは命を失い、私は優秀な研究者兼術者を危険な事を承知で失わせた大罪人として、明後日に処刑される』
『しかし結果は出』
『あんな物が?将来は大術者、あるいは天才研究者として名を連ねていてもおかしくは無かった若者を、過去にそれなりの実績があっただけの老いぼれが使い潰して、ようやく出来た物があんな物で満足できるか!!』
突如激昴した主任が机を蹴飛ばし、書類を周りに撒き散らす。本人が言うような老人にはとても思えない。
『私が長年かけた研究も、信頼も、時間も金も命も将来ある若者も!!何もかも失った!!挙げ句の果てには、出来損ないのあれを処分させる力さえ!!私にはもう何も残らなかった──』
ポタリと地面に落ちたのは涙だろうか。そう思った途端、俺はまた闇の中に放り込まれた。
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