大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

敵と理想 終

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追撃を失敗したとすぐに察知した敵がこちらへ、金剣の力を使って弾丸じみた勢いで突撃してくる。
『俺が驚いたのは、お前の動きが極々短時間で劇的と言っていい程に変わる事だ』
シャルがまた口を開く。
距離はまばたき一つをする間に食い潰され、即座に零となる。
横に大きく振りかぶられた金剣レプリカが俺の目の前にまで肉薄する。
『敵の動きを読み、即座にその手に慣れる』
しかし俺はその一撃を紙一重で回避、すれ違いざまに黒剣を叩き込む。
『慣れれば心に余裕が生まれる。余裕が生まれれば、動きに安定が生まれる。そしてその安定が、あるのか無いのかわからないような僅かな隙、それを突けるようになる』
──手応えあり。
飛び散る赤色の体液、そしてナナキの腕に酷似した形のミラーゴーストの一部が宙を舞う。
本体から切り離されたそれはすぐに形を失い、白い塊となって力なく床に落ちる。
飛んだ左腕が握っていた剣は白剣、厄介な金剣の方が残ったか。
『いくらスキルの恩恵があろうと、それが出来るのは紛れもなくお前の才能だ。俺が保証しよう』
敵は苦痛に顔を歪めることすらなく、それどころか距離を詰めつつさらに第二撃。
下から上へ打ち上げるような軌道を描いて振り抜かれるそれを、身体を全力で反らして服を一枚切り裂かせつつ回避。代わりに仰け反った身体が元に戻る時の勢いを利用して叩きつけるような一撃を返す。
敵は片腕。真上からの一撃は金剣で打ち返すが──隠れたもう一撃には気づかなかったらしい。
真下から顎を割るようなそれに気づいたのは、当たる寸前になってから。
だと言うのに回避行動を取り、避け切る敵。
僅かに身体をずらし、耳元を掠めるだけに終わる。
そして即座に相手が片腕のみで金剣を翻らせ、袈裟斬りの一撃を放つ。
しかし互いの距離が近すぎる。これでは金剣の攻撃力が充分には伝わらないだろう。
それでも致命傷にはなるだろうが。
『相変わらず化物みたいな反応速度だなッ!!』
しかしそれは──俺が読んでいた。
戦技アーツ
上に伸びた剣を逆手に握り、逆の手を手前に引き絞る。
撃つのは密着状態でも放てる、狼の牙。
「《討狼とうろう》!!」
銀灰色の輝きが走り、敵の右肩、左腰を俺の黒剣が完全に貫通。敵の剣を強制的に止める。
そこから繋げて──
連戦技アーツ・コネクト
《討狼》の輝きが消える前に戦技アーツを発動。
一度止まった燕は、すれ違いつつ空を舞いに飛び上がる。
「《翠燕すいえん》!!」
鮮やかな翠へと生まれ変わった戦技アーツが下から上、あるいは上から下に駆け抜けた。
半瞬の後、抵抗感が消え、剣が自由となる。
敵の身体はほぼ縦に三分割。右肩は皮一枚繋がっているだけ。左肩の方は下から突き刺して上へと抜けたため、扇のように左肩が横に開いていた。
この身体では流石に剣は振れまい。
俺がそう判断し、さらに踏み込んだと同時に。
するとボロボロの身体を顧みず、敵も踏み込んで来る──ことは無く、むしろ身を翻して逃げる。
予想外の行動に一瞬怯むが、目を細めて一言呟く。
「やっぱりお前は偽物だよ」
黒剣を構える。型はなんでもいい。構えること自体がこの戦技アーツの発動条件の一つだ。
そのまま思い切り前へ跳躍。慌てて走ったためにかろうじて繋がっていた身体を完全に落とした敵に肉薄する。
「もしも本物のナナキなら──俺の喉笛を嚙み切りにかかってるよ」
戦技アーツ──
「《終々》」
その戦技アーツが発動すると同時に、何十何百もの剣戟に刻まれたような傷を受けた敵が姿を崩し、細切れになったミラーゴーストの死体のみが残る。
「ふぅ──」
あぁ、こんなのと二度と戦いたくないな。いろんな意味で。
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