大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

訓練所と睡眠

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「遅かったな」
「わ、悪いな…ちょっと振り切るのに時間がかかった…」
さっきのメッセージから二十分後。ようやくユーリアが訓練所前まで来た。
「うまく逃げきれたか?良くやったな」
「あぁ、スキルを使って全力でな」
ユーリアのスキルを知らない相手に使えばそりゃあ確実に逃げ切れるわな。クールタイムが来る前に全力で走ってやり過ごしたか。
「ところで俺、ここの鍵持ってないけど大丈夫なのか?」
「あぁ問題ない。私が開ける」
そう言ってユーリアが取り出したのは……
「おい待てお馬鹿さん」
「ん?なんだ?」
「なんでほっそい針金取り出してんだ。それ明らかに鍵じゃねぇだろ」
しかしユーリアは俺の言葉を無視、そのまま針金二本を鍵穴に突っ込み、カチャカチャと弄り始める。
五秒とかからず鍵が開く音がし、扉が開く。
「さ、行こうか」
「……鍵はどうした」
「ん?借りてないぞ?借りれる訳がないだろ」
『ほら今代の。こいつが借りちゃ、結局《犬》の面子が立たないだろ。だから…』
あぁ、そういう事?にしてもピッキングとは…魔法的なロックも無視して開けるって怖いな…前に十五号室でやられたけど。
そんな事をぼんやり思いつつ、ルトの訓練所に入るとすぐにユーリアが鍵を閉め直す。
「…よっぽどだな」
「やたらと張り付かれているんだ。お陰で昨晩は彼女に追い回される悪夢を見たよ。寝不足の身体で追いかけっこは流石に堪える…」
重症じゃねーか。
「大丈夫か?暫く休んでろ。俺はひとりで練習してるから」
「………悪いな。十分だけ休ませてくれ」
ユーリアが僅かに逡巡するが、少しだけ休むようだ。
壁にもたれかかり、ズルリと滑るように座り込み、そのまま寝てしまった。よっぽど疲れてたんだろう。
寝息が何度か静かに広い訓練所に響き、確実にユーリアが寝ている事を確認した後、金剣を取り出して声を出す。
「シャル」
『あん?』
「眼ってまだ治ってないんだよな?」
『あぁ。ずっと緋眼が発動しっぱなしだ』
「そうか…」
休みが明けて、誰か俺にその事を聞いてくるかと思ったが、誰も何も言わないので何人かに聞いてみると、戦闘時にいつも目が赤くなるからみんな見慣れたんだとか。不審がられなくて良かった。
だが、俺自身は緋眼を使っているという意識はない。そして意識して緋眼を使うと──視界が赤く染まる。
来た、いつもの緋眼だ。しかし──その質が、前までの比では無い。
「視る」ということに特化した紅い目が映す世界は、プクナイムでニケと戦った時のあれに近い。ただ、その時よりも見える情報は多いが。
「よし、次は──」
完全に馴染みきった金剣を軽くくるりと回してみる。うん、いい調子だ。
「試し斬りだな」
俺はそう呟いて、虚空を切り裂いた。
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