大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

行きと回想

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広い広い荒野、そのど真ん中でいい大きさの岩を発見した俺は、その上に腰掛けて自分の中にいる《亡霊》に軽く愚痴を漏らす。
「クソ寒い…雪は降らんよな?」
『知らん。俺が生きていた頃なら十二月と言えば雪の季節だ。むしろこれまでほとんど降っていない事に違和感しかない』
「…ふーん」
そう言えば、俺の雪の記憶なんて数えるぐらいしかないな。せいぜい、息が白くなる程度…ナナキからもらった記憶では外に積もる雪なんて良くあったな。俺はそんなの体験したことないけど。
『それより、間に合うのか?』
「あ?学校にか?」
『あぁ、あと一日だろ?影も形も見えないんだが』
うーん…そうなんだよなぁ…
やっぱり、まだ本調子じゃない身体を気にして、休み休み来てたからスピードが落ちたな。
『その癖魔獣と戦う時は全力だよな。負傷とか気にせず』
「…まぁ、そんなの気にしてやられたら元も子もないからな」
数日前、森で倒した魔獣を思い出してそう口にする。
特に危なげなく倒すことが出来たし、ヤツキもいたからまぁ余裕だった。ヤツキから引き継いでから、金剣銀剣も今まで以上の性能になった…というか手にしっくりくるというか、口では形容しにくいのだが、「ようやく俺のものになった」という感じがする。
お陰で、少しばかり負傷した身体でも難なくやってこれた。一つ言うことがあるとすれば、未だ亀裂が治ってないという事だろうか。…治るよな?これ。治らなくてこういう意匠とかそういう事、ない…よな?
「…けど、なんか違和感あったんだよな…」
『違和感んんんんんんん?』
「あぁ、なんつーか、全体的に脆かったって言うか敵が弱かった気がするんだよなぁ…」
これは金剣銀剣は関係ないと思われる。《千変》を腕に纏って殴っても同じ印象を受けたからだ。
『そうか?魔獣っつってもそんなもんじゃないのか?』
「お前な、亀の魔獣の甲羅を《千変》を着けてるからって貫けるのって異常だろ。普通に考えて」
確かに硬かった。硬かったが──逆に言うならその程度。壊せるか壊せないかで言うなら壊せるし、貫けるか貫けないかなら貫ける。
普通に考えて、亀の魔獣、その甲羅ならまずまず破壊は不可能だろうに…
「考えてても仕方ない、か?」
『まぁ、原因が分からなきゃな。ほら、休憩はもういいだろ』
「え?あぁ。仕方ない、そろそろ行くと──おっ?」
『お』
俺とシャルが声を上げた理由は、結構な速度で走る馬車を発見したから。
こんな所を走る馬車なんてそうそうあるわけもなく、走る方角からしてほぼ間違いなく聖学行きの馬車。加えてどこかで見たことある馬車の意匠…間違いない。とんだ偶然もあったものだ。
「マキナ、アーネとメッセージを繋げてくれ。今すぐにだ」
『了解しました』
僅かなノイズ音の後、メッセージが通じる。
「よぉアーネ、せっかくだし乗っけてくんね?」
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