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本編
夜と人探し
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日もすっかり落ち、気温もぐっと下がる夜。今晩は特に冷え込む。
未だヤツキは帰ってきていない。
「……流石に不味いな。どれ」
そう呟いて、座っていた部屋のベッドから立ち上がり、脇に立てかけてあった松葉杖を掴んで部屋から出ていく。その際、昨晩の失敗を思い出し、ドアのそばにかけてあったコートを掴んで出ていく。
ちなみに、足が治ってないのは単純にアーネの回復力も魔力もまだ足りないから。俺の回復力も結構少なめだから、回復魔法も今使えないし。
「あら、どこへ行くんですの?」
玄関のドアノブに手をかけたところで、ちょうど広間の方からアーネが顔を出して聞いてきた。
「え?あぁ、ちょっと夜風に当たってくる」
「そうですの。足もまだ治ってないですし、外もかなり寒いですし風も強いですわ。あまり長いこと外に出てはいけませんわよ」
「はいはい。それより、お前も早めに休めよ。お前は俺やシエルと比べると幾らか身体が弱いみたいだし」
「…私は標準ですわよ」
アーネが拗ねるようにそう言う。
ちなみにシエルは「………つかれた」と言って先に寝ている。俺の部屋で。
『…何でアーネに嘘をついたんだ?』
別に嘘は言ってないぜ。夜風に当たるついでにヤツキを探してくる。それだけだ。
ガチャリとドアノブが鳴って玄関が開く。途端に冷たい風が顔を舐め、息を白く染める。
「寒っ」
コートの襟を立て、風を少しでも遮ろうとするが、正直あまり意味は無い気がする。
『俺に感覚がなくて良かったよ。見てるだけで寒そうだ』
あークソ、鼻が真っ赤になってる気がする。鼻水が出そうだ。
『お前の場合はその長すぎる髪を巻いた方がよっぽど防寒出来そうだな』
そうする。それでも寒いものは寒いがな。
「……さて。おーい、ヤツキ!いるかー!?」
家から少し離れ、結界の方へと歩きながらそこそこ大きな声で叫んでみるが、返事はない。
「…どうするかね。シャル、どこか心当たりないか?」
『無い。そもそも、俺はホムンクルスとしての記憶はほとんど無いからな?多分ナナキの記憶を継いだお前の方が覚えていると思うぞ?』
ふーん。《勇者》時代の頃は?
『そっちの記憶はあるが、こんなトンデモな森は見たことないしな……だって数日で木が生えるんだろ?どうなってんだよ』
そうか。ならとりあえず、このまま結界の方に行くかね。
『理由は?』
俺が昼間気になったのと同じ理由だな。ここに住んでる以上、ヤツキもどうにかしたいと思っているはずだしな。
『じゃあそっちに行くか』
「だな」
「呼んだか?」
「『のォぅわっ!?』」
方針が決まった途端、ひょいと隣の木の裏から唐突にヤツキが現れた。
「…どうした?」
「…いや、帰りが遅かったから探しに来た。もう戻るだろ?」
「なんだ、そんな事か。もちろん戻──」
ヤツキが不自然に言葉を切る。
「まだどこか行く必要があるのか?」
「いや、ない。家に戻ろう。ただし、このまま地下室に、だ」
未だヤツキは帰ってきていない。
「……流石に不味いな。どれ」
そう呟いて、座っていた部屋のベッドから立ち上がり、脇に立てかけてあった松葉杖を掴んで部屋から出ていく。その際、昨晩の失敗を思い出し、ドアのそばにかけてあったコートを掴んで出ていく。
ちなみに、足が治ってないのは単純にアーネの回復力も魔力もまだ足りないから。俺の回復力も結構少なめだから、回復魔法も今使えないし。
「あら、どこへ行くんですの?」
玄関のドアノブに手をかけたところで、ちょうど広間の方からアーネが顔を出して聞いてきた。
「え?あぁ、ちょっと夜風に当たってくる」
「そうですの。足もまだ治ってないですし、外もかなり寒いですし風も強いですわ。あまり長いこと外に出てはいけませんわよ」
「はいはい。それより、お前も早めに休めよ。お前は俺やシエルと比べると幾らか身体が弱いみたいだし」
「…私は標準ですわよ」
アーネが拗ねるようにそう言う。
ちなみにシエルは「………つかれた」と言って先に寝ている。俺の部屋で。
『…何でアーネに嘘をついたんだ?』
別に嘘は言ってないぜ。夜風に当たるついでにヤツキを探してくる。それだけだ。
ガチャリとドアノブが鳴って玄関が開く。途端に冷たい風が顔を舐め、息を白く染める。
「寒っ」
コートの襟を立て、風を少しでも遮ろうとするが、正直あまり意味は無い気がする。
『俺に感覚がなくて良かったよ。見てるだけで寒そうだ』
あークソ、鼻が真っ赤になってる気がする。鼻水が出そうだ。
『お前の場合はその長すぎる髪を巻いた方がよっぽど防寒出来そうだな』
そうする。それでも寒いものは寒いがな。
「……さて。おーい、ヤツキ!いるかー!?」
家から少し離れ、結界の方へと歩きながらそこそこ大きな声で叫んでみるが、返事はない。
「…どうするかね。シャル、どこか心当たりないか?」
『無い。そもそも、俺はホムンクルスとしての記憶はほとんど無いからな?多分ナナキの記憶を継いだお前の方が覚えていると思うぞ?』
ふーん。《勇者》時代の頃は?
『そっちの記憶はあるが、こんなトンデモな森は見たことないしな……だって数日で木が生えるんだろ?どうなってんだよ』
そうか。ならとりあえず、このまま結界の方に行くかね。
『理由は?』
俺が昼間気になったのと同じ理由だな。ここに住んでる以上、ヤツキもどうにかしたいと思っているはずだしな。
『じゃあそっちに行くか』
「だな」
「呼んだか?」
「『のォぅわっ!?』」
方針が決まった途端、ひょいと隣の木の裏から唐突にヤツキが現れた。
「…どうした?」
「…いや、帰りが遅かったから探しに来た。もう戻るだろ?」
「なんだ、そんな事か。もちろん戻──」
ヤツキが不自然に言葉を切る。
「まだどこか行く必要があるのか?」
「いや、ない。家に戻ろう。ただし、このまま地下室に、だ」
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