大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
896 / 2,022
本編

夕刻と涙

しおりを挟む
夕方、日が落ちる少し前に上の方で物音がした。
「『ん?』」
「………おかあさん、どうした、の?」
下の階で俺とシエル、二人でゆっくりしていたらゴソゴトと音がした……気がする。
「いや…シエル、ヤツキがどこ行ったか知らないか?」
そう聞いてみるが、シエルは首を横に振る。一応聞くが、シャルも知らないよな?
『知らん。家の中にいないのか?』
いないと思う。昼に少し昼寝してたら姿が消えてたからどこに行ったか見当もつかないしな。
まぁ仕方ない、ヤツキがいないなら俺が代わりに見に行こう。
「シエル、ちょっとここで待っててくれ。アーネの様子を見てくる」
「………ん」
年季の入ったソファの傍に立てかけてあった松葉杖を手に取り、少しふらつきながら階段を昇る。
ちょうど階段を昇りきったところで、微かに軋むようにして鳴る蝶番の音。
ドアノブに寄りかかるようにしてアーネが部屋から出てきたところだった。
「ようアーネ。いい夢見れたか?」
「あの……その……私、途中で記憶が……もしかして……」
か細い声でアーネが恐る恐ると言ったふうに唇を震わせる。
「あん?あぁ、魔法撃って気絶してたな。大方、魔力が枯渇したせいだろ」
「私は──」
アーネが身を乗り出して、必死になって言葉を続ける。
「私は、貴方の役に立ちましたの?」
「は?何言ってんだお前?」
『おまっ』
しまった。アーネの問いかけの意味が分からず、思わず真顔でそう返してしまった。
『あーほら、アーネ泣きかけてるじゃねぇか』
何でだよ。
あの魔法が一撃で黒竜を仕留めてくれたお陰で、短期決戦となった。
もしアーネがいなければ、ジリ貧になった俺達はあのままやられていただろうし、それより前に他の魔獣に攻められて突破されていただろう。
『素直にそれを言っちまえばいいんじゃないか?』
それでいいのか?思った事をそのまま言うだけで。
『いいから早く行け。ホントに泣くぞこいつ』
「えーあー、うん、助かったよ。ありがとな」 
「本当、ですの?」
「あぁもちろん。お前がいなきゃ死んでたかもな」
………………………………………………これでいいのか?なんか微妙な無言の時間が生まれてるんだが。
『目の端に涙溜まってんな。顔が白から赤に変わっていってんな。そっと手を口元に持っていって──』
泣く直前じゃねぇか!!だークソ!!俺は泣く女が苦手だってのに!
『まぁ、女とはそれなりに普通に接してたけどな。何でだ?』
ナナキは俺の前じゃ絶対に泣かなかったから、そっちについての免疫がついてないんだよ!
とか何とか言ってる間に、アーネの目からボロボロと涙が零れる。
「良かった──」
「…アーネ?」
「私も、貴方の力になれて、本当に…本当に良かったですわ…」
大粒の涙を流すアーネ。そんな彼女に何か声をかけようとして──アーネの腹の虫が、その存在を主張した。
「…………………………あー、飯食う?」
「…………………………はいですの」
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

種族統合 ~宝玉編~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:481

まほカン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:32

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:94

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:666

処理中です...