大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

動揺と報酬

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「………」
「どうした?疑うならお前の中の《亡霊》に聞けばいい」
「え、ちょっと待て、自分今混乱してる」
どういう事?ナナキはヤツキで、二人は先代の勇者で、その勇者は実はシャルで俺のサポートをずっとしていて?
「やっぱり私からは何も聞いていなかったか」
「どォ言うことだシャル!?」
『…………………どういうもこういうもない。そのままの意味だ。俺は確かに約五十年前に《勇者》として活動した。で、その後死んだ』
「記憶はそこで途切れてるのか?」
『いや、微かに残っているな。記憶があるのは断片的でノイズが走るような不完全なモノばっかりだが、まぁそれなりに』
「一番新しい記憶は?」
『ナナキって言う自分がここに戻ってきたお前を見た時の記憶、その周りの記憶が幾らかある程度だな』
「ほかの記憶は?」
『色々あるが、大したことないものばっかりだな。一つ一つ言っていくか?』
「………いや、いい。…マジか」
思わず天を仰いで溜息をつく。あぁ、星が綺麗だな。
「『マジだ』」
クソ、こんな所で息ぴったりかよ。
でも言われたら何となく納得した。多分漠然と分かるってことはそれなりにヒント(ボロとも言う)を落としていたのだろう。
「で?そんなことをまたどうして俺にぶっちゃけた?」
「何、深い意味は無いさ。強いていうなら……そうだな、お前への報酬か」
「あ?なんの報酬だよ」
「パレードの報酬に決まっているだろう。働いたならそれに見合った報酬を出す。それは当然の見返りだ」
あぁそうか、ヤツキは俺を身内と思っていないからそう思っているのか。
「別にそんなもの要らねぇんだがな。俺としちゃ単に自宅を守っただけのつもりだしな」
というかナナキに「手伝ってくれるかな?」と昔言われてからずっとやってる事だし。面倒な年一の行事みたいなものだ。昔は文句を言っていたかも知れないが、そんなこともう覚えてないし、今はもう慣れた。
「そうか。まぁ、それなら少し得をしたと思っておけ」
「それならそう思っておくが…」
おいシャル、なんで黙ってたんだよ。
『あ?決まってるだろ。ンな話小っ恥ずかしくて言えるか馬鹿。もう一度言うぞ?俺にもホムンクルス達の記憶が断片的とは言えあるんだ。ナナキの心もある程度分かってたんだよ。その上で死んだとなれば──正体を明かすのは流石に出来ないだろ』
…なるほど。
「なんだ?私の決定が不服か?」
「え?あ?いや、そっちじゃない。シャルに黙ってた理由を聞いてた」
「ほう、それは私も気になるな。私は何と言っていた?」
『なっ、お前らっ』
口角を釣り上げ、楽しみだと言わんばかりにヤツキがそう言う。
「簡単に言うと、恥ずかしくって黙ってたんだとよ」
「ははっ、なんだそれ。恥ずかしいからって。全く、私らしくないじゃないか」
しばらく思い出し笑いを繰り返すように笑っていたヤツキが、ふと真面目な顔になって俺の顔を見る。
「レィア。今からお前に二つのものをやる。一つは私の記憶を自由に使う権利だ。好きに見て構わない。もう一つは比翼剣、つらなりことわりの完全譲渡だ。いつまでも私が持っているべきじゃないしな。それに──」
ちらりと俺の奥を見透かすように視線をやる。
「もう一人の私は剣を譲る気はないようだしな」
その言葉にシャルは反応しない。どうやらヤツキにバラしたのが堪えて奥に引っ込んだらしい。
「レィア、もしも今私がいないなら、私に言っておいてくれ。『いつまでも独り占めするんじゃない』、とな」
丁度その時、視界の端が白く輝いた。
「…始まったか。話は明日だな。今はコレを見ておこうじゃないか」
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