大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

気絶と門

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しまったな、しくじった。
薄れ行く意識の中、真っ先にそんな言葉が浮かんだ。
第九夜、油断していた訳ではないのだが、不意をつかれたと言うか隙をつかれたと言うか…まぁ、結果を言うなら、敵の攻撃をモロに受けた。 
足元を魔法か何かで編まれたらしい縄のようなもので思いっきり引っ張られ、バランスを崩したところをさいの魔獣に撥ねられた。
ボールのように吹き飛ばされ、何十本も生える木のどれかに叩きつけられて、
けどまぁ、不思議な話で未だに
多分、厳密に言うならこれは意識がないと言うより意識が肉体と離れている状態なのだろう。そんなことを冷静な頭が考えていた。
さて、意識があるというなら、今どこにいるのかを教えよう。
少し前に見た門の所だ。
自分の心の奥底にある、繊細で緻密な装飾を施された門。前に開けた拳一つ分の空間は未だ開いたまま。
だが──
「…?なんか模様とか変わってね?」
気のせい…だろうか。まぁいい。
これをもっと開けば、古い《勇者》達の記憶や、神の手によって変質させられた記憶も正常に戻るのだろう。
俺はそっと門に手を掛けた。
別にこの門を開いたからと言って何か特別な力が目覚めてパワーアップ、この魔獣の群れを今すぐ蹴散らせるような能力が手に入る訳では無い。
それにこの門は、シャルが俺に施した封印でもあるらしい。下手に解くと、押さえつけていたほかの《亡霊》が飛び出す。
それでも──何故だろう。
もっと開かねば、と。
そう思ってしまった。
意を決して門をさらに開こうと押した途端──押した力の分だけ引っ張り挙げられ、門は一ミリも動かない。
「馬鹿野郎、短期間に何度も門を開けるんじゃねぇ。壊れるだろうが」
若干イラついた声音で誰かがそう言う。
引っ張り挙げられた後、そのまま引き上げられ続け、強制的に水面へと向かわされる。
「…シャル?」
「お前の中にいる亡霊は俺だけだろう?他に誰がいるってんだ」
振り向いて顔を見ようと思ったが、水面から差し込む逆光で顔は全く見えなかった。
「…亡霊ってのは普通、どっちかって言うと水面から中へ引きずり込むもんじゃないのか?」
適当なことをうそぶくと、「馬鹿たれ」とゲンコツを振り下ろされた。この中でも痛みは感じるんだな。クソ痛ぇ。何か金属持ってやがるな。明らかに生身の拳じゃなかったぞ。
「あんなのと俺らを一緒にするんじゃねぇ。俺達は確かに亡霊を名乗っちゃいるが、魔獣の類いの奴らとは格が違う」
「ふーん。そうなのか」
適当に聞き流すと、もう一度拳を貰った。解せぬ。
「そら、現実水面が見えてきたぞ。さっさと戻ってこい。むしろ二度と来なくていいぞ」
俺が返事をする前に勢いよく押し出され、水面に顔を出し、意識が吹き返される。
その直前、すれ違う一瞬でシャルの顔を見ようとしたが、見えたのは赤い髪だけだった。
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