大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

緋翼と偽魔族

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『……二分待ってください』
学校長がそう言ってメッセージが切れ、代わりに保険の先生が来て俺の足を手当する。ちなみに、足は見た限りだと何の不具合も無かった。
それが終わる頃に再度学校長からメッセージが。
『研究室の所長に確認してきました。貴方に掛かっているのは、相当強力な魔法のようです』
何でラピュセが?しかも魔法?俺に?
色々と思った事はあるが、まぁ一度黙って聞く。
『非常に特殊な条件を課す事で魔法の威力を上げる。それを何重にも掛けた物のようです。所長曰く「必殺の切り札」だそうで……下半身が動かない以外は問題ないのですね?』
「無ぇな。俺が気づいてる範囲で、だが」
特殊な条件ってのをある程度無視して発動するのがあの《抜剣》なのだろうか。切り札なら、折角だしもっと格好のいい名前でもつければいいのに。
いや、今はそういう事は置いといて。
「で、解除方法は?」
『術者が任意で解除するしか無いそうです』
「マジか。じゃあ今すぐルーシェを起こして……」
『いえそれが……《剣姫》の意識がまだ戻りません』
「チッ。仕方ねぇ。このままやるしか──ん」
ふと足が動いた。
「お?治っ──てねぇのか?」
再度動かそうとすると、微妙に反応が悪い。
「マスター、ラピュセ様からメッセージです」
「ん、分かった。繋いでくれ」
『聞こえるかしら?話は学校長から聞いたわ。想定外のことになったみたいね』
「全くな。で、今足が動いたのはラピュセのおかげか?」
『あら、話が早くて助かるわ。解除までは行かないにしても、緩和ぐらいは何とかね』
『戦えますか?《緋眼騎士》?』
「まぁギリギリじゃねぇかな。なんとかやれるぐらいだ」
動きは悪くなるが、これぐらいならよくある話だ。
『そう、良かったわ。でも術者のスタミナとかもあるから、多分十分ぐらいしか持たないわよ』
もしかして魔法に対して誰かが対抗して魔法を貼ってる状態?そんだけ剣の魔法が強いのか。
『それだけあれば充分でしょう?』
「勝手言いやがる。まぁいい、時間が勿体ない。早く始めてくれ」
『分かりました。それでは開始します』
直後、《剣姫》が来る時のように、俺の身体を黒い鎖が床へと縛り付け、同時に新しい武器が上から降ってきた。
「っぐ」
急に動かしたり無理に動かすと結構痛む感じか。なんつーか、物凄く大きなアザが痛む時のような。支障は無いっちゃ無いが、やっぱり少しキツい。
これアーネ相手にして生き残れるか?
そう思ったと同時に扉が開いた。
赤い髪に、男でもちょっと見ない程の長身。それでも女だとわかるメリハリのある体型。
本来なら杖を持つべき魔法使いでありながら、相も変わらず無手。いや、よく見れば腰にいつもの大振りの短剣が。
本気かぁ。まぁ、そりゃそうだわな。
そしてアーネの視線が、訓練所の真ん中にいる俺の所へ来て、ピタリと止まる。
それと同時に俺の拘束が砕け、アーネに向かって一気に距離を詰める。
彼女との戦闘で最も気をつけなければいけないのは間合い。そしてその次が時間。
魔法特有の広い範囲は最悪の場合、俺がアーネに触れるより先に消し炭にされる。
そして、一つの魔法に対処しているうちに二つの魔法を展開される程の、圧倒的な魔法展開の速さ。当然威力についても言うまでもない。
故に速攻。俺の足の動きは鈍いが、まだアーネは何も行動アクションを起こしていない。今のうちに──
距離を詰める間に拾った大斧の横薙ぎを、アーネは腰の短剣で鮮やかに受け流す。
しゃおんっ、と心地の良い音が辺りに響き、俺の力の向きを自然に流すように変えられる。
「ッ……!!」
握った感じ、斧の重さは二十キロを優に超えるだろう。加えて走った勢いも乗っていた。それを短剣で流すか。
『やるなぁ』
「火色の願いを謡いましょう──」
不味い。詠唱。
即座に右手を離し、ボディブロー。それを左手で受け流され、ならばと身体を捻って左手に握っていた斧をさらにもうひと回し。
一瞬だけ背を向けた瞬間に何かが爆ぜるが、学校長がそれを防いだらしく、俺にはノーダメージ。
「!」
構わず斧を下から上に薙ぎ払うが、これも短剣でいなされる。
「チッ!!」
ならばと伸びきった身体をそのまま思い切り引き戻し、次は真上から頭蓋をカチ割るような大上段の一撃。
しかし、それすらも軽快なしゃおんっ、という音ともに流される。
アーネは俺と渡り合う為にこの受け流しを身につけたと言う。本当にそうなら、彼女の想定している武器は本来銀剣。
二十キロ超の重量武器でさえと判断されるのか。
ならばこちらも手を変えよう。
流され、下へと向きを変えられた斧が床を割ると同時に、斧の勢いを利用して跳躍。さらに腕の力を最大限利用して、蹴りに繋げる。
それをアーネは僅かに身をかがめてひょいと回避。流石の動き。だが本命は蹴りではない。
「なっ!?」
痛みを我慢しつつ、蹴りを繰り出した足でアーネの頭を両側から挟む。咄嗟に頭の両側に腕を入れたらしく、頭を挟んだ感触ではない。お前本当に魔法使いか?
だが、そんなことはおくびにも出さず、頭を挟み上げながら、斧を掴んだ手をぐいん!と回す。
アーネの体重が幾つかは知らないが、マキナを装備した今ならこの体勢でも筋肉質な大男一人でも余裕で振り回せる。
悪く思うなよ、と思いつつ、回転させながらそのまま床に叩きつけようとして──足の方から熱を感じた。
「!?」
両手は塞いだはず。手のひらはこちらへ向けられない。ハッタリか。
ならこのまま叩きつけて終わりに──
『不味い!離せ!!』
「ッッ!?」
シャルに言われて即座に解放すると、アーネが宙へ放り出され、俺の視界に彼女の姿が映る。
見れば、宙に浮いた彼女の口元が赤く光っている。
さらに注視すれば、それは咥えられた先程の短剣だと気づく。あの僅かな時間で、頭を防がなければいけないが、手を塞がれる事も理解して、即座に短剣を咥えてそのまま魔法を発動したらしい。どんな反応だ。
そしてこの状況は非常に不味い。
詠唱が完了したアーネと、距離を取らされた俺。
ターンは俺の攻めから、アーネの攻めに変わる。
「《炎牙の刃フランベルジュ》」
ずんっ、とアーネの咥える短剣が赤く燃え上がり、その長さを彼女の身の丈と同じにする。
けどあの魔法、確か近距離用の魔法じゃあ……
「はぁッ!!」
「!!」
アーネが空中で炎剣を振り抜くと、刃が飛んだ。
高密度の炎の刃が、猛烈な勢いでこちらへ飛んでくる。
「マジかっ!?」
即座に斧を両手で掴み、放り投げて返そうとする直前、光の槍が一本、俺の真横から真っ直ぐに飛んで行った。
学校長が放った魔法は一直線にアーネの魔法とぶつかり、一方的に炎が押し勝つ。
「どんな威力だ!!」
小さく叫びながら遅れて斧を投擲。同時に前へ走り、落下予測地点まで距離を詰める。
が。
『おい上!』
言われて見ると、アーネがさらにもう一度剣を構えている。
そして当然、短剣は炎剣のまま。
「まさか」
炎牙の刃フランベルジュ》を再構築したには早すぎる。だとすると、答えは酷くシンプル。
『あれ連射効くんだな』
「ふざけんなよマジで!?」
こちとら足が悪いんだぞ!なのにあんな馬火力の魔法を連発されてたまるか!?
そう思った瞬間、後ろで大爆発が起きる。
『うわ、競り負けてる。まぁただの斧だしな』
物理的にカチ合えば押し返せるかと思ったが、どうもそれもダメらしい。これどうすんだよ。
「シールド!!」
そう言うと、マキナと学校長が同時に反応し、俺の左手にバックラーより一回り大きいぐらいの盾が出来る。その上から学校長が魔法でガチガチに防御を重ね、魔法に対しても物理に対しても強力な盾が出来た。
『それでどうすんだよ!?』
「こうすんだよ!!」
と言って降ってきた炎刃に盾を合わせ、流すようにして後ろに飛ばす。
炎刃は俺の後方に突き刺さり、爆炎を上げた。
『っ、わぁお』
元々俺がやってたのをアーネが見て、いつの間にか真似られてた技だし、俺が出来ない訳が無い。
俺も習得にはそれなりに時間を要したし、本当はそう簡単に真似られるような技では無いのだが。
まぁ、それはさておき、アレを凌ぐだけなら問題なく出来る。それより大きな問題は──
『あいつ飛んでねぇか?』
「飛んでる……っつーかゆっくり降りてんな」
空中で二発も炎刃を撃ったのに、まだ床に足を付けていない。
流石におかしいと思って緋眼を使ってみれば、背中の方から魔力が出ている。
何をどうしたらそうなるかは分からないが、あれでゆっくり降りているようだ。
『滞空中は狙えないか。かと言って降りるまで待ってたら詰み……どうすんだ』
降って来る炎刃を後ろに流しつつ、僅かに思考を巡らせる。
投擲は今やった。ダメ。飛べるか?んな訳。魔法は炎刃に負ける。なら。
「こっちから行くしかねぇだろ」
拾った丁度いい長さの剣を一本口元に持っていくと、マキナがそれを理解して咥える。
「飛べねぇなら跳ぶしかねぇだろ」
ほぼ上半身の動きのみで跳躍。そして手を伸ばした先に、都合よく光のブロックが発生する。
『はぁ?』
それを掴み、上へ。逆の手を伸ばすと、またブロックが発生するのでそれを昇る。
『馬鹿お前、そんな事すれば──』
轟、と炎刃が迫る。
まぁそうなるよな。
けど、それぐらい想定内。
左手の盾でそれを受け流し、何事も無かったかのように上へ。
ならばと次は俺の左腕が塞がった時に放って来るが、即座に右手と左手を入れ替え、左手で流す。それではと手が届かない足の方を狙うが、身体を思い切り「く」の字に折り曲げて回避。
『曲芸みてぇだな』
ミスったら最低でも半身が吹っ飛ぶけどな。
アーネのあの炎刃はどうも撃つのにそれなりの間隔を要するらしい。大体の間隔としては三秒ぐらい?思ったより余裕で登れそうだ。
「よし、行くか」
もう後二、三回で届く。そのぐらいの位置まで来て、思い切り身体を振って、一息にその距離を詰める。
これで俺の間合いに──
「あ?」
追いついた、そう思った瞬間、アーネが滑空を解除。
自由落下を始めると同時に、地面に背を向け、俺を上にしたその状態で炎刃を構える。
「《炎牙の刃フランベルジュ極大強化リインフォース》」
アーネがそう唱えた瞬間、炎の刃が一瞬膨れ上がり、ギュッと縮むように形を戻した。
あ、これクッソヤバい奴だ。
先程までとは明らかに違う、『ドンッ!!』という音と共にそれは放たれる。
俺は咄嗟に左の盾で受けて流そうとして、盾が触れた瞬間に熱が爆発に変わったのを感じる。
「あ」
爆音と衝撃。後から遅れて熱いと言う感覚。
「ッッッッッッ!?」
『大丈夫か!?』
「意識は、ある」
やられた。触れたら爆発するようにもできたのか。
『腕は繋がってるが……』
繋がってるだけだな。焦げて折れて使い物にならねぇや。
何とか身を起こすと、即座に俺の真横を赤い火球が通り過ぎていく。
『あっぶな!?』
「っぐ……!!」
巻き上がる爆風。煽られてすっ転ぶ俺。
そのまま鼻っ面を床にぶつけそうになって、慌てて踏ん張る。
しくじったな。アーネに時間を与えすぎた。学校長に見られているので血界は使えない。金剣銀剣も当然使えない上に、使えば俺と一発でバレる始眼も使えないどころか、戦技アーツすら今は撃てない。勝つ見込みは非常に少ないと言えるだろう。
でもそれを理由に引くのは面白くない。
身体は動く。まだ右腕も残っているし、両足も動かせる。
なら、一撃ぐらいは行けるだろう。
近くにあったハルバードを引っこ抜き、ただただ全力で走る。
『大丈夫なのか!?』
大丈夫な訳あるか。足の感覚無くなるぐらい痛いわ。
だが、俺の走った後に遅れて火球が当たっている。少しでも止まれば、アーネの追撃に当たって一発アウトだ。
彼女の方を見ると、本人は魔法を撃たず、彼女の周りに赤い魔法陣がこちらをじっと狙っているのが見える。
自動追尾と自動射撃。アーネの場合は完全に術式に任せているので、本人はフリーになる。
つまり、彼女自身はじっくりと魔法に専念出来る訳だ。
早く止めなくては、これ以上何をされるか分からない。
だが、アーネに近づけば近づくほどに火球の速度と精度は上がる。
対するこちらは俺の眼と足で回避を刻み、学校長の出した光の盾がアーネの火球を弾く。
もうあと一歩で俺の間合い。
そう思った瞬間、アーネが目を見開き、超密度の火球を床へと叩きつける。
「《ストライク・ブレイズ》」
瞬間、炎で編まれた魔法陣が発生し、それが即座に直径三メートル程……否、五メートル程にまで大きくなる。
前より大きい。用途不明の近距離用魔法。一度見たが、結局何がどうなっているのかは分からなかった。
だが踏み込むしかない。
「ッッ!!」
踏み込んだ瞬間わかる。熱い。熱された鉄板の上のような熱さ。だがそれだけのはずがない。
よく分からないが、先に俺が一撃入れれば──
ハルバードを鋭く突くと、アーネがそれを短く戻った短剣で容易く流す。
その瞬間、ハルバードに赤い亀裂のようなものが入り、割れ折れる。
「なんっ……!?」
「ふっ……!!」
さらにアーネが踏み込み、拳が届きそうな程近くまで接近。
「はぁっ!!」
俺の胴を狙った短剣の攻撃。だがそれを俺は空いた右手で受け流し──手甲が真っ赤になり、爆散した。
「!?」
何が──
理解するより先に、アーネが爆発で仰け反った俺の身体を押し倒し、馬乗りになって俺の胸に手を当てる。
「これで私の勝ち、ですわね?レィア?」
「あ……?お前なんで──」
そう言ったと同時に、訓練所に「そこまでッ!!」という声が響いた。
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