大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

沐浴と理由

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とりあえずヤツキとアーネ、俺とシエルに分かれて俺達が川へ向かう。理由?臭せぇからだよ。言わせんな恥ずかしい。
ちなみにヤツキとアーネの二人になったのはヤツキから申し出されたから。別にいいけど。むしろシエル残せって言われたらどうしようかと思ったよ。絶対にアイツ、シエルに嫌われたからな。
「で?シエル、今頃ゼランバでアーネの家族と楽しく過ごしてるはずのお前らがなんでこんな東の隅っこの地獄に来たんだ?」
凍っていてもおかしくないほどに冷えた川の水を浴びつつそう聞く。おっと、傷口には触れないように慎重に…慎重に…痛ッッッてぇ!!
「………やなよかん、が、した、から?」
「嫌な予感だぁ?」
第六感シックスセンス?いや、たしかにシエルはそう言うのに優れているが、これはなんというか…もっと根拠があるような気がする。
『お前さんの根拠は?』
勘だけどな。
シャル、何か分かることあるか?
『んー……無いな。強いていうなら、魔族の超感覚が何度も突破される結界に警鐘を鳴らした、って所か。もっとも、それもハーフにどれぐらい残ってるのかは分からんが』
ふーむ、まぁ、そういうことにしておこう。
「で、嫌な予感したからそっちの方に来たって事か?」
なんつー危険な行動。あんまり褒められた事じゃないが…それで助かったんだ。あまり文句は言えない。
「………ん、ちがう」
しかしシエルの口からは否定の言葉が出てきた。
髪をよくよく洗いながら続きを促す。
「………やなよかん、したところ、おかあさん、の、ところだっ、た、から」
片言でそう言ったシエルの方を見てみると、じっとこちらを、目に涙を溜めて見ていた。
「あー、なんだ」
髪をできるだけ絞り、適当に水で軽く水洗いしただけの服をもう一度着直す。取りに帰れればいいのだが、そんな余裕はない。
「まぁ、助かったよ。お前達が来てなかったら多分、死んでたかもしれないしな」
『お前はこのモンスターパレードで何回死にかければ気が済むんだ』
ンなもん死ぬまでだろ。
「けど、無理してまで来なくていいぞ。お前には……なんつーかな、もっと楽しんでほしい」
「………?」
訳の分からないと言ったふうなシエルに、さらに言葉を重ねる。
「何年も何年もあんな地下牢に閉じ込められてたんだ。閉じ込められてた分まで楽しまねぇと…お前のための人生なんだぜ?お前が楽しまなくってどうするんだよ」
わざわざこんな大変なところに来る必要はない、ゼランバで楽しんでいてよかったんだぞ。そう言いたかったのだが……彼女はこう言った。
「………おかあさん、が、いなくちゃ、たのしく、ない」
……こういう時、なんて言えばいいんだ?
『さぁ?とりあえず早く戻った方がいいんじゃないかな?』
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