大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

第五夜と日没

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大分日が傾いてきた。そろそろ落ちるな。
ヤツキを起こそうかどうか迷った所で木の上からそのヤツキの声が聞こえた。
「そろそろ夜か?」
「あぁ。もうすぐ第五夜が始まるぞ。もう少しだけなら寝ててもいいが…」
「いや、いい。第五夜か……そろそろ本番だな」
「本番?」
オウム返しにそう聞くと、若干嫌そうに、けれど少しだけ嬉しそうな声音でヤツキが答える。
「ほら、第三夜ぐらいで私が言っただろう?後半になるにつれて質が上がっていくのは一気に仕留めるために云々みたいな話」
「あぁ、そう言えばしてたな。そんな話」
忘れてたわ。
「そう言えば、ってお前なぁ…」
そこでヤツキが糸を解ききった(あるいは解き斬った)らしく、「よっ」と軽く跳躍。
体重を感じさせない小さな着地音と共に俺の目の前に現れる。
「で、今日はちょうど五日目。折り返し地点だ」
「あぁ。後もうちょいだな。頑張ろうぜ」
「もちろん頑張るさ。いや、そうじゃなくてだな。そろそろ相手も本気でここらを潰しにかかるって話だよ」
ぐるりと腕を回し、怪我を負った腕の調子を確認するヤツキが軽くそんなことを言う。
「つまり、今までのは単なるアップだったって訳だな」
「いや、けど俺が森の出入口守ってた時は急に魔獣が強くなるなんてことはなかっ──」
「なるほど、つまり前の私は余程強かったらしいな。お前の所へ流す魔獣はかなり選別されてわざと逃されたヤツだろう。大方、毎年かなりギリギリ勝利していたんじゃないか?」
図星だった。
そうじゃん。よくよく考えれば、毎日魔獣と戦うような環境にずっといて、毎年ギリギリ生き残るようになるってのがおかしいんだよ。
「『え?今更気づいたのか?』」
「二人してそう言うんじゃねぇよ。息ピッタリで尚更腹立つわ」
っつーかシャルはなんで知ってるんだよ。
『最近やたらと回想してたから俺も見てた』
そーですか。
「二人して?あぁ、《亡霊》か?」
「え?あぁ。まぁな」
そうか、聞こえてないけど分かるのか。流石元勇者。話が早い。
「誰と話してたんだ?グレイヴか?オーメッツか?シャディか?」
「あー、いや、俺はどうも頭の容量的なモノがちょっと色々あってギリギリらしくてな。一人しかいない。他の《亡霊》達は封印状態になってる」
「ほう、珍しいな。で、誰と話してたんだ?」
「シャルって奴だ」
「────」
ヤツキが何か言いかけた瞬間、日が完全に落ちた。
「ほら、お前の言う本番だぞ」
冗談めかしてそういった途端、結界を破って現れたのは巨大なゴーレムだった。
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