大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

暗闇と凶弾

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「ところでヤツキ、少しばかり気になってたんだが」
「何だ?」
タッ、と地面を蹴って跳躍、俺の背丈より大きなトカゲの首のあたりに飛び乗る。
そのまま右腕に装着されている黒剣で喉を掻き切るようにして腕を引くと、黒剣は硬い鱗を引っ掻きながらもその下の柔い肉を切り裂く事に成功する。
しかし動脈を裂くまでには至らない。
俺を振り落とそうとトカゲが身体をよじったところで──下からヤツキが俺の裂いた箇所を正確に抉る。
ゴパッ、と一度に大量の血液が首から溢れ、トカゲはふらついた後、すぐに動かなくなる。
「サンキュ、助かった…ところで魔獣達コイツら、段々強くなってねぇ?」
「あぁ、そんな事か。もちろん。強くなるに決まっているだろう」
なんで決まってんだよ。
「単純に考えてだな、万全の相手に最大戦力をぶつけるよりも、疲弊させきったところで最大戦力をぶつけた方が勝率が高いと思わないか?」
「…また顔に出てたか?」
「私からするとな。普通なら分からないかもしれないが…まぁ、私だしな」
どういう意味だ。スキルか?流石に関係ないと思うが……
「伏せろ」
「いや、心配いらん」
既にシャルが教えてくれた。
左の黒剣を逆手に握り、無防備な俺の後ろから襲いかかる魔獣の腕を無造作に刎ねる。
そのまま後ろに振り返り、人形の魔獣の心臓に当たる部分に白剣を根元まで突き立てる。
力なく俺にもたれかかろうとする逆の手を払い除け、肩に足を当てて勢いよく白剣を引き抜く。
「人形…足りるか?今何体残ってるかわかるか?」
「いや…集めてみないと分からないが、今は当然そんなこと出来ないからな。少なくとも半分は壊れただろうな」
まだ三夜目だというのに、そこまで人形が減ってしまったか…モンスターパレードが終わる頃には全ての人形が壊れるか、残っているにしても一つか…二つか……
そんなことを考えていると、俺の頭上でぱん、と空気が割れるような音がした。
次いで真っ赤な血が降ってきて、俺はそれを慌てて避ける。
「ボサッとするな。死ぬぞ?」
「あ?あぁ、悪い悪い」
そう言った途端、嫌な気配が身体を包む。
この感覚は──遠距離攻撃!?
殺気の方向へ向くと、細長い筒を背中から生やしたカメレオンのような魔獣が筒の先を──銃口を俺達の方へ向けていた。
「伏せろ!!」
「は?伏せたら次の攻撃避けれな──」
大きな犬の鋭い咆哮のような音が暗闇の森に木霊する。
──間に合え!!
極限まで窮まった集中力が、世界の速度を落とす。
修復中だった銀盾を解放し、構えるが──完全には防げない。
ガガァン!!と尋常ではない衝撃が走り、銀盾黒剣の効果で重くなっているはずの俺の身体が軽く吹き飛ばされる。
「ぐっ!?」
結果、弾丸はあらぬ方向へ飛ぶ。
俺は即座に次弾を装填しているカメレオン目掛けて血鎖を伸ばして叩き潰したところで後ろを振り返る。
「だから伏せろって言っただ……ろ?」
「悪い。しくじった」
黒の長剣を握っているヤツキの左肩。
そこが抉れ、血が流れ始めていた。
「切った破片までは避けきれなかった」
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