大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

第二夜と進行

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白剣で目の前の敵の首を掻き斬り、身体を翻らせて後ろの敵の胴を断つ。
横の敵の鼻っ面に肘を叩き込むと同時に鋭く尖らせて顔を破壊、足払いは鋭利な刃物となって足を切り落とす。
無数の触手が俺の身体に纏わりつこうとするが、それを二振りの剣が切り刻み、ぼとぼとと地面に落ちる。
白剣を正面の敵に投擲し、引き下がろうとする触手を空いた右手で鷲掴みにする。
血呪によって増幅された腕力で思いっきりこちらへと引っ張ると、何かが引き抜かれる感覚と共に一つ目の肉塊がこちらへ飛んできた。
戦技アーツ…《舞風まいかぜ》』
右上腕部に装着されていた黒剣を素早く握り、空中に浮いていた肉塊を八等分し、再び黒剣を収納、白剣を手繰り寄せる。
第二夜となっても魔獣達の勢いは衰えることは無く、無数の異形がこの森を攻めに来る。
ただ、数はほんの僅かに減っているようにも感じるが、代わりにほんの少しだけ質が上がっているようにも感じる。
それでもまぁ…誤差の範囲、大した問題ではないが。
問題はこちらの疲労が想像以上の速度で溜まっている事だ。マキナの重力魔法も今では要所要所でしか使っておらず、身を守るための鎧が身体を縛る鎖と大差なくなっている。それでも脱ぐ訳にはいかないのは披露の蓄積でそれなりに被弾しているからだ。もしも外した状態で一撃でも攻撃を貰えば──そう長くないうちに俺は死ぬだろう。
だがこのままでも正直キツい。森の出口の方を守っていた時は大体今の十分の一程度しか来なかったが…ナナキが戦っていた世界というのは…ここまで過酷だったのか。
それでも。
『第一血界《血鎖》展開!!』
右の手の甲から伸ばした鎖を大回りに振り回すと、辺り一帯の木ごと魔獣達を蹴散らす。
それでも結界の向こうから攻めてくる魔獣達は尽きることは無く、何十対もの光る目が暗闇の中からこちらを見つめ返している。
『底なしかよッ……!!』
『ついでに恐れもないから面倒だな。上一級の大規模魔法とかで一気に焼き払えたり出来たら楽なんだろうがなぁ…』
『ンなことしたら俺が大炎上するっての』
俺の魔力は血中に内包されている。魔法を使えば身体中の血が魔法になり、炎の魔法を使えば俺が燃え上がる。
そんな無駄な事を言い合っていたからだろうか。
一瞬の隙を突かれ、足元を遠距離から撃ち抜かれた。
幸い、《千変》のお陰で大した怪我などはないが──バランスを崩し、転倒した。
『ッッッ!?』
当然、魔獣達がそんな隙を逃すわけがない。
一気に群がり、俺を殺そうと襲いかかる。
『クソッ!テメェら!クソ、があああああああああああ!!』
『第三…いや、第五だ!早く!!』
『第五血界──』
「遅い」
ぞぶっ、と刃が肉を荒々しく斬る音が俺の頭上でした。
見る見るうちに俺の上にのしかかった魔獣達が死に、解体されていく。
「やぁ《勇者》、苦戦してるな。助太刀に来たぞ」
『や…ヤツキ!?お前森の出口の方は──』
「お前がここで全部仕留めちまってるんだよ。そのせいで私が暇で暇で仕方ない。だから出口に人形を四、五体配置して私が来た」
開いた口が塞がらないとはまさにこの事。もしもここが突破されたら、なんてことは一切考えず。
「ここで全部仕留めよう。立てるか?」
『…上等。やろうぜ』
少しだけ、勝てる気がしてきた。
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