大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

慣れと疲労

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空が白け始めた。
それでも魔獣の進行は止まることなく、暴力的な数で圧殺してくる。
身体を覆う鎧は輝きを失い、代わりに血と砂埃に塗れて薄汚れ、あちこちへこみや歪みが見て取れる。
中の俺の外傷は比較的少なく、剣を振るうには問題ないのだが、それ以外はかなりギリギリだ。
口の中は渇き、汗は滝の如く身体を滑り落ちる。
酸素が欲しい。そう思って大きく口を開けると、それに合わせて鎧のヘルムの口元も大きく開く。
一瞬の空白──乱戦の中、本来ならその半分も有り得ない時間の隙間。それは驕り、傲慢、挑発、そう取られるような行動。
しかし俺の場合はそうではない。
「──ふゥ…」
今この時も振り下ろされる拳を、尾を、前足を。
全て避けつつ、その上での一息。
これは驕りでも傲慢でも挑発でも無い。
「うん、これだけやってりゃ、一通りの魔獣は倒したか……いい事を教えてやるよ」
ただ純粋な、相手に対しての優越であり、絶対的な余裕である。
極度の疲労で空腹すら感じていないが、それでも俺は髪の中から握り拳より少し小さい大きさの芋を取り出し、口の中に押し込む。
ただでさえ少ない水分が根こそぎ持っていかれるが仕方ない。
「お前らの攻撃は大体慣れた」
仕方ないから、右の白剣を目の前の猿型魔獣へと投擲、心臓を正確に貫いた後、空いた右手を後頭部へとやり、髪の中に紛れた水筒を取り出し、喉を鳴らして飲む。
首を狙った蝙蝠型魔獣が俺へ突撃してくるが、俺はそれを左の黒剣で両断。さらに翻し、横に薙いで半透明になって俺に近づいていたカメレオン型魔獣を斬り捨てる。
「~~~~ッ!あー!!美味かった!!」
残り半分程残った水筒を再び髪の中にしまい、元から白剣と俺の手首に括りつけてあった髪を引っ張る。
髪に引っ張られた白剣は勢いよく俺の方へと飛んでくる最中、俺は少し横に髪を振る。それだけで白剣が回転、密集していた魔獣達の身体を切り裂きながら俺の手元に戻ってくる。
ヘルムを戻し、再び剣を構える。
怒り狂い、興奮した獣達は俺へと次々襲いかかる。
その脇を滑るように避け、斬り、躱し、貫き、カウンター気味に絶つ。
ばしゃり、と臭い返り血を浴びても俺は止まらない。
訳の分からない怨嗟の声を聞いても俺は止まらない。
周りを醜い顔の化物共に囲まれても俺は止まらない。
ただひたすらに剣を振り、次々と狩り殺していく。
最小の動きで最大の効果を出し続け、次々と屍の山を築く。
それでも俺だって無敵な訳では無い。
身体に溜まった疲労は無視出来ない。このままでは遠くない未来、俺の身体が限界を迎える。
──どうする?
そう思った瞬間だった。 
朝日が昇り、陽の光が森に差し込むと同時にひび割れ、砕けた結界が唐突に修復され始める。
それは見る見るうちに結界の穴を塞ぎ始め、人ひとりがギリギリ通れるかどうかという程の小さな穴だけを残して塞いでしまう。
何が起きたかは分からないが…とにかく!!
『チャンス!!』
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