大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

確認と休息

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鼓膜が破けんばかりの歓声、フィールドに立ち残る一人の人影、未だ冷めやらぬ興奮の熱気。
そしてそれに分け入るようにして鳴る放送音。
《ピンポンパンポーン》
《全てのチケットが切られた事を確認しました。以上で二つ名争奪戦を終幕とします。現時点で二つ名持ち候補である生徒は《死神》リザ・クロヴェール、《剣姫》ルルシェル・ガウヴラン、《貴刃》ユーリア・グランデンジークです》
学校長の冷静な声が放送から伝わり、俺もようやく終わったのだと実感する。
《また、今回最後まで勝ち残った先程の三名は明日の朝八時までなら二つ名の変更を許可します。それとは別件で同人物は朝八時までに、学長室へ来るようにしてください》
《ピンポンパンポーン》
………。
『マスター・メッセージです』
「生徒会か?」
『はい』
…全く。
「繋げ────よぉ。生徒会の誰だ?」
『お疲れ様です。無事閉幕ですね』
あぁ、副会長か。
「初めてだが何とかなるもんだな。俺も一安心だ。要件は?」
『《貴刃》の件、分かっていますか?』
「…分かってるよ。しっかり覚えてる」
そうだ。
今回の二つ名争奪戦は特殊ルール。
今現在残っている二つ名候補はまだ『候補』だ。
さらに候補者達は現役の二つ名持ちと戦い、認めさせなければならない。
「一応確認だが、二つ名持ちにする基準はこっちで決めていいんだよな?」
『はい。ただし、誰もが認めるような基準である事が前提ですが。無条件で認めるような内容は無理です』
知ってたよ畜生。
ついでに言うと、俺が手を抜くのもすぐに見抜かれそうだ。
『明日の八時、学校長先生から候補者達への説明がされます』
「いつやる?」
『あなたの場合ですと、《貴刃》が万全の体調になってから……そうですね、今救護班から連絡がありましたが、丸一日で完治する程度の様なので、明後日の夕方頃になるでしょう』
「わかった。他に何か連絡は?」
『ありません。それでは失礼します』
────。
よし。
とりあえず、救護班の魔法を受けて回復したユーリアを迎えに行くとしよう。
他の生徒は既にほとんど訓練所から出、各々自由寮へと帰っていったのだろう、訓練所の中には俺の他に何人か生徒がちらほらと残る程度だ。
「ようユーリア。元気か?」
「やぁレィア。元気に見えるか?」
顔を顰めながら身体を起こすユーリアに手を差し出し、引っ張り上げる。
「肋を二本と内臓をいくつか痛めていたらしい。明日は午前の訓練を休めと言われたよ」
午前…?あぁ、ユーリアは旧クラスだから俺達と授業が逆なのか。
「あぁ、そんなことだろうと思ったよ」
「どうだった?」
「あ?」
唐突にユーリアがそんな事を俺に聞く。
「私の剣は合格か?私としては精一杯頑張ったのだが…」
「不合格だ」
そんなモン即答するに決まってる。
「動きも鈍いし戦技アーツも出ない、手数も少ないし組み合わせはワンパターン。出来としちゃクソみたいなもんだ」
「く…くそか…」
「けどな」
ひょいとユーリアをおんぶし、歩き始める。
…こっそり髪を使っているのは秘密だ。
「お、おい…!」
「怪我人は黙って背負われてろ。──けどな、お前らしい剣だったぞ。少なくとも、俺の剣じゃあなかった」
「そうか…そうか!!」
嬉しそうで何よりだ。
叶わないと知りながら、その気持ちが少しでも長く続くように、なんて願っていた。
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