大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
671 / 2,022
本編

拳と戦技

しおりを挟む
「おい貴様!!何者だ!」
場外からそんな声が俺へとかけられる。
しかし気にしない。今注視すべきは内側に残った二人のみ。
しかしその二人も唐突に起こった事態を飲み込めていないようで、俺の挑発もほとんど意味を成していなかった。
仕方ないので、近くにいた男の胸ぐらを掴んでこちらへと引き寄せる。
「ぅえっ?」
銀剣は地面に突き刺し、銀鎧に覆われた右拳を握りしめる。
それだけで男は何が起きるか分かったらしい。
「え──やめっ」
鋭く息を吐くと同時に左手を引き寄せ、同時に右拳を顎めがけて振り抜く。
拳に鈍い衝撃、しかし反動で身体が痛むことは無い。
「がっ……ぐ…」
さらに追撃。
左拳でアッパーカット、浮いた身体の胸に正拳突き、離れかけた身体を両手で掴み、続いて頭突き、再び浮いた瞬間に両手を離し──渾身の一撃を放つ。
『──ッ!!』
白い尾を引きながら繰り出される拳は相手の鳩尾へと突き刺さり、赤いものが混じった胃液を吐き散らしながら一人目と同じ末路を辿る。
もう一人の襲撃者はその場で凍りつき、首を今しがた吹き飛んだばかりの男の方へと向けたまま動かない。
ゆっくりと歩きながらそいつ──こっちは女──の肩をトントン、と。
極めて穏やかに叩く。
「ひっ……!!」
反応は劇的だった。
反狂乱になった女は、持っていた片手斧を滅茶苦茶に振り回し、俺を滅多打ちにする。
しかし──俺にはちょっとした衝撃しか通っていない。もちろん刃は一切通っておらず、既に負っている怪我に響くこともない。
流石ベル、いい仕事をしたな。
やけに冷静になりつつ、銀剣を地面から引き抜く。
それをそっと肩に担ぐと、この闇夜の中で目を焼くような赤を宿した光を発する。
「お願い…!やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!!」
戦技アーツの前兆を見るや否や、それまでの攻撃に俺とは違う紫の光が宿される。
ここまで狂乱しつつも、戦技アーツの名前を言わずに発動できるというのは、余程練習したのだろうが──浅い。
威力としては低い。低すぎる。
事実、彼女の攻撃は《千変》の守りを貫通できないでいる。
戦技アーツってのはこうやって撃つんだよ』
そんな俺の呟きは、しかし金属と金属が削り合う音によって掻き消された。
『────ッ!!』
名を呼ばずに《破断》を発動。その瞬間、俺の銀剣は女の片手斧をいとも容易く弾き、左の肩口から右の腰まで一気に赤い線を残す。
《破断》の衝撃で気絶した女が崩れ落ち、地面に倒れ伏す──直前にその身体を蹴り飛ばして場外へ弾き出す。
どよどよザワザワと蠢く外野。
さぁ、かかってこい──。
全部返り討ちにしてやる。
俺は背中を伝う熱を感じつつ、再び挑発した。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...