大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

報告と招集

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その日のアーネは少し体調が悪いように……いや、というより、いつもより少しばかり元気が無いように思えた。
「どうした?」
「いえ、なんでもないですわ」
というやり取りを二、三度繰り返し、昼頃だろうか。
「ちょっと行くところがあるので、先に昼食に行ってくださいまし」
と言ってふらりと部屋を出て行き、この時になってやっと、元気がなかったのではなく、悩んでいたのだと気づいた。
『……珍しいな』
「珍しいなんてもんじゃねぇだろ。三度の飯が何より好きなアーネだぞ?飯より優先することなんてそうねぇぞ」
そう無いというか、俺がパッと思いつく限りだと無い。強いて言うなら、体調が本当に優れない時や、眠気が食欲を上回った時のような、本能的な理由ぐらいか。
一体何があったのかと軽く考えてみると、思い当たる節がひとつあった。
「あー、そういやあったな、ネズミ探し」
『あぁ……裏切り者の件か。見つかったのか?』
「ぐらいじゃねぇか?つっても、俺も内容とかは全然聞いてねぇんだけどな」
興味が無かった訳では無い。むしろ充分にあったと言える。
だが、アーネが俺に内容を言わないということは、何かしら理由があるのだろう。そう思って黙っていた。
「ま、万が一何かあれば俺にも話が届くだろうさ」
そう言っていると、マキナがメッセージが来たことを告げる。
「な?」
相手を聞くとアーネではなく学校長。どうやら当たりらしい。繋げるよう指示し、とりあえず当たり障りなく「なんだ」と聞く。
『至急学長室まで来てください』
それだけ言うと、メッセージは向こうからブツリと切れた。
『よっぽど焦ってるらしいな』
「あるいは、盗聴されるとまずいからか」
何にせよ、学校長がたったこれだけのためだけにメッセージを飛ばしたという事が事態の重大さを感じさせる。
「しゃーねぇ、昼飯は俺も後回しだな」
『後でアーネと一緒に食え』
言われずともそうするつもりだ。
ともかく寮を駆け抜け、学校の学長室に一直線に向かう。今回の威力は最小限。しかし見た目は派手に、飛び蹴りでノックと入室を同時にこなしながら入る。
「っとぉ。俺、参上……あれ、アーネは?」
「……《緋翼》は今出てます。じき戻るでしょう」
「って事は、やっぱり当たりか?」
「充分に判断が下せるだけの材料は揃った。それだけです」
固いねぇ。思わず肩を竦めると、ノック音が三度した。
「どうぞ」
「失礼します。遅れてしまい申し訳ありません」
と言って入ってきたのは《雷光》。彼女は彼女で俺を見て軽くぎょっとし、俺は俺で彼女の姿を見て少しだけ眉間に皺を寄せる。
前に見た時より明らかに疲労が顔に出ている。やつれている──とまではまだ言わないが、それに近いだろう。
「まだ引きずってんのか」
「ん、《緋眼騎士》、今何か言ったか?少し気が抜けていた」
「いや、なんにも言ってねぇよ」
そう誤魔化す。
「そんで?アーネは今どこに?」
「捕獲しに行ってもらっています。例の生徒──いえ、裏切り者を」
学校長は当たり前のようにそうハッキリと言った。
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