大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

剣と能力

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足を止めて頭を下げた俺に対し、《神剣》はしばらく無言で歩みを進める。
二、三、四、五歩程か。進んだ後、急に足を止めた。
「レィア君、それは無理な話じゃ」
《神剣》が振り返ってそう言う。
「儂と君との剣はまるで動きが違う。基礎の動きも、何を目的とした剣なのかも。今から儂の剣を学び直すというのも選択としては悪くは無い。じゃが、それは回り道じゃ」
《神剣》に追いつこうと俺が歩き始めると、《神剣》も再び歩き始める。
「勿論、剣を学ぶという点においては有意義じゃ。成長も感じられる。昨日より今日が、今日より明日が強い自分を認識出来るじゃろう。回り道をして得た技が使えんとはまるで思わん。そうして吸収した事を自分の中で組み換え、再構築し、新しい技へと昇華させる。そういつ天才もおるが、それとて長い時間を要する。君が目標に掲げる時間から見ると、到底間に合わん」
「やってみなくちゃ分からねぇだろ。きっと俺に剣の才能は無い。だが、この能力スキルがある。爺さんの剣を物にしてみせる」
そう言うと、《神剣》はしばらく黙って、溜息をついた。
「……あぁレィア君。すまん。儂は一つ、君に嘘をついた」
「?」
「儂の剣技は、そもそも根本に儂のスキルを軸にしてある。そこから長い年月をかけて経験した剣技を儂が扱いやすいように変えた《神剣》独自の剣じゃ──つまり、如何に器用な君と言っても、儂の剣を学んでもただの遠回り。その上、儂の能力が無ければ大して使い物にならん。立ち回りすら役立つとは言い難いじゃろう。儂の剣を学ぶという事はそういう事で、君にとっては効率が悪い。有意義とは決して言えんじゃろう」
「スキル…もしかして爺さんの能力って絶対切断系か?」
《神剣》のまともな戦闘を見たのは恐らくこれが初めて。去年の聖学祭では早々にドロップアウトしたので、ロクに見ていなかった気がする。
立ち回りにすら影響するスキルであるなら、一番最初に思い浮かぶのが常時発動型。加えて、剣も抜かずに相手を斬る事が出来ていた。普通に考えるならスキルで斬っている。それも魔術の発動すら斬ったという事は、恐らく概念にまで届いている切断系。
そう思って聞いたのだが、ヴァルクスは首を横に振って否定する。
「それならば恐ろしく斬れ味のいい武器を探せば、もしかしたら多少はマシだったかもしれんな」
少しだけ振り返り、ヴァルクスが自身の目の下をトントン、と叩く。
「《トキノメ》。儂はそう呼んどる。この目にはな、あらゆるものの寿命が見えるんじゃよ。儂はその寿命を切り落としておるだけじゃ」
「寿命…?」
「うむ。儂には当たり前に見えとる物で、説明するのは難しいんじゃがな。これを斬ればぷっつりと逝く。そういうのが見えるんじゃよ。そしてそういうものは、得てして非常に脆い」
そう言ってヴァルクスが小石を拾い、宙にそれを放り投げ、手で払うように小石に触れると、小石が二つに割れて地に落ちる。
これを斬ればぷっつりと逝く。
それはつまり、何を斬れば致命傷を与えられるかが全て見えているという事。加えて先の戦闘では魔術も切った。不可視の概念にすら寿命を見出し、切り捨てることが出来る目。
もしかして。
この老人は、生まれてからこの時まで、ずっと《始眼》が発動したような状態で生きてきたのか。
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