大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

勇者と神剣

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一定のリズムで身体が揺れる。
とん、とん、とん、とん、と、心地よい間隔で身体が揺れる。風の当たる向きと音の方向から、誰かに運ばれているらしい。先程の間隔と同じタイミングで腹に負荷がかかるので、担がれているようだ。
「む、起きたか」
という声はすぐ側から聞こえた。これは英雄の声。
「安心せい、周りに敵はおらん。もう少し寝るか?」
「いや──いい。ありがとう。ヴァルクスの爺さん」
「ほっほ、礼には及ばんよ」
するりと降り、バランスを若干崩してつんのめって、髪を手の代わりに着く。
「大丈夫か?」
「……問題ない。そういやそうだったな」
視界がやたら悪いと思っていたら、右目がないんだった。距離感をつかみ損ねた。
何となく右目に手をやると、布の感触。包帯か何かが巻いてあるようだ。
「来る時は馬がおったんじゃが、急ぎ過ぎてしまったようでな。道中で脚を折ってしまったんじゃよ。悪いが歩いて帰るぞ」
「え、あぁ。分かった」
と言っても、相当長い間寝ていたらしく、既に結界はすぐ近く。一時間と掛からずに着くだろう。
アーネ達と西学達は後ろで固まってヴァルクスの後を着いてくる。そう離れていないので、余程のことがない限りヴァルクスの反応が間に合わないということはあるまい。ちなみに、《勇者》はまだチィズの出したムキムキの人型に背負われたまま寝てる。
でも何でわざわざあんな位置にいるんだ。
「アンタの隣、いていいか?」
「ん?おぉ、別に構わんぞ。他の子らは危ないから下がらせたが、君は大丈夫そうじゃしな」
「危ない……?」
「何、こっちの話じゃよ。念には念をという意味もある。基本は問題ないから安心せい」
そんな説明をされても、正直あまり安心は出来ないんだが。
まぁ、一応問題ないと言われているので、隣に並んで歩く。
「……《魔王》が目覚めた」
「ほう」
「言い訳はしない。俺の力が及ばなかったせいだ」
「そうか」
そう言ってヴァルクスは黙る。俺も黙る。必然的に、無言がそこに重く大きく横たわる。
それに耐えきれず、俺が先に口を開いた。
「あー……何か言わないのか?」
「何かとはなんじゃ?言って欲しいのか?」
「別にそういう訳じゃないが……俺の生まれとか聞いてんだろ?」
「一応、全て聖女様から聞いておる。《英雄》の中でも儂ぐらいじゃがな。それがどうかしたのか?」
「………!」
俺がやらなきゃダメだっただろ。そう言おうとしてその行動にどれだけの意味があるかと考え、再度押し黙る。
やらなきゃダメだったが、出来なかった。
「それで、どうするんじゃ?」
先に口を開いたのは《神剣》だった。
「どうする…って?」
「そのままの意味じゃ。君が《魔王》の目覚めを阻止するという任務を失敗したのは分かった。余程の一大事なのも分かった。それで、その後、君はどうするつもりじゃ?」
どうする。その意味がわからない。
「どうって……」
「もっと簡単に聞いてやろうか?君は《魔王》に、魔族に負けたままでいいのか?」
「良かねぇよ」
「ならどうするんじゃ?今のままだと何も変わらんぞ?」
強くなる。その一言を言う事が出来れば、どれだけ楽だったか。
その一言がどれだけ難しいかを知っているからこそ俺は口を閉じ、そして開いた。
「強くなる」
「出来もしないことを言うのは、言い返せずに適当な事を言う餓鬼と同じじゃぞ?」
「いや、強くなる。俺はアンタさえ超えて強くなって、《魔王》を倒して神を殺す」
「ほう?」
《神剣》がこちらを向いた。
「その眼……そうか、いい目をしておる。儂が幼かった時、二度その眼を見た事がある。彼女と同じ、強い者の目じゃ」
そう言ってヴァルクスは俺の頭をくしゃくしゃと掻き回すように撫でる。
「頑張れよ若人。どれだけ経とうと、いずれ儂を抜かしてみせよ」
その手を俺はつかみ返した。
「悪いなヴァルクスの爺さん。どれだけ経とうと、なんて悠長にやってたら聖女アイツが死ぬ。今すぐにでも強くならなきゃいけないんだ」
だから。
俺は頭を下げた。
「頼む。俺にアンタの技を教えてくれ」
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