大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

臨界点と考察

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『なぁシャル…』
『あ?なんだ?今代の』
血界の訓練が終わり、鎧をつけての体術、剣術もひと段落ついた。
戦技アーツはかなりスムーズに動かせるようになってきたが、連戦技アーツ・コネクトは発動すらしなかった。
こりゃ本格的にヤバい。身体が忘れている。
今は金剣を軽く訓練所の地面に突き刺して緩く両手を添えて休みながらシャルに話しかけている。
おっと、流石に顔の所は今要らないか。
少し意識すると、ヘルムの天辺から真っ二つに割れ、折りたたまれるようにして肩に収納されていった。
うむ、便利。だが、何箇所か稼働する際に動きにくかったりするからな…そろそろ一度、見直すか。
『…で、なんだ?』
おっと、忘れてた。
「《臨界点》が焼却炉に投げ込んでた液体、アレ本当に油?」
実は俺、この事がずっと気になっていた。
俺が見た感じ、《臨界点》はあの液体を中にぶちまけただけで、特に火を入れたりはしていない。
なのに、燃えるどころか爆発すらしていたのは一体どういう事か。
『A、あれは正真正銘の油で、何らかの方法で《臨界点》がお前に見えないように火を放り込んだ。
B、あれは油っぽい何かであって、試験管の外に出ると即座に燃え上がるシロモノだった。
さて、どっちが有り得そうだ?』
「そう言われるとB。だが、お前が見たものは?」
『見た限りは完全に油。Aだ』
割れたか。
俺とシャル、二人が同時に溜息をつく。
あれは恐らく《臨界点》が持つ戦法の一つなのだろう。
じゃなきゃ、あそこまでの火力を必要とする訳が無い。
カラクリはよく分からないが、焼却炉での火力を──直に見えた訳では無いが、一分もしないうちに立ち上る煙が消え、中を覗いてみると、そこには灰しか無かった──見た感じ、人にかければ、即座に骨だけになるほどの火力はありそうだった。
それを──ただ火をつけるだけに使える?
つまり、それを大量に所持していて、一つ程度なら使ってしまっても構わないという事。
あれを複数本?冗談じゃない。
仮に十本程度あの液体を持っているとするなら。
「使い方次第で多分…いや、確実に《逆鱗》だって落とせるぞ」
それも竜種ドラゴンの方だ。
『流石にそれは言い過ぎじゃねぇ?竜種ってのは最強種の一角だ。それがあのちっさい試験管十本程度で落とせるぅ?んな火力は…』
「あるだろ。たとえば、息吹ブレスを吐く瞬間に──」
口の中に放り込む、とかさ。
『………。』
「他にも考えれば、やり方はいくらでもあるんじゃね?…もっとも、あの液体が爆発する条件が他にあるなら話は別だ。油と反応して超火力を生み出す魔法とか、シャルしらねぇ?」
『俺は《勇者》だぞ?魔法について、せいぜい一般常識程度なら分かるが…それ以上わかると思うか?』
「だよなぁ…」
一般常識じゃない魔法、ねぇ…。
「あるいはスキル?」
『どんなスキルだ。あり得るとしたら、油とか液体を爆弾に変えるスキルか?』
「だとしたら火力が高すぎる気がするな」
基本的に、スキルの自由度が高ければ高いほど、そのスキルの効果が薄くなる…あるいはデメリットが存在する。
実際、俺のスキルは本当に自由自在に身体を操れるが、代わりに身体の強化…頑丈度合いなどはすべて髪に集約している。
文字通りの髪装甲となる。
そして、液体を爆弾に変えるスキルなどとなると、たったあれだけの量であそこまでの火力は再現できまい。
もしも何かで対峙する時があったら。
「…あれは危険だな…」
勝てるかどうか。
情報が足りない。
『なら、魔法とスキルの併用で──』
「いや、それなら火種を隠して入れる理由が──」
俺達の考察は、夜遅くまで続いた。
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