大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

着地と上層階

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言いたいことは山ほどある。後悔も数え切れないほど。
だが、今はまず着地。
既に下で《勇者》が慌てているのが見えるが、むしろ何もしてくれない方が助かる。
軽く空中で身を捻り、体勢を調整。そしてフリーになった髪を下へ集め、クッションに。それでも少し足りなかったので、身体を転がすようにして頭から着地。
「っ!ぐぅ……!」
それでも相当強い衝撃が走った。腹の傷が激しい自己主張をし、喉元まで何かがせり上がる。
「《産獣師》は!?」「大丈夫ですの!?」
二人の声が同時に掛けられ、せり上がった何かを飲み込み、歯を食いしばってひとまず立つ。
「貴方、お腹が……!」
「先に言う。《産獣師》は鳥に乗って上に逃げてった」
「逃したのか…!?三大魔候の中で最も弱い《産獣師》を、しかも霧も無かった状態で!千載一遇のチャンスだったろ!」
「……悪い。しくじった」
《産獣師》に重傷を負わせたのは間違いないが、それは大した問題ではない。
《産獣師》が生きているというその一点だけで、大きな大きな障害が一つ残っているのが確定している。
それにあの回復能力からして、そう時間を置かずに再度攻めてきてもおかしくない。そうなった時、今以上に警戒しているであろう《産獣師》を、魔獣の群れをかいくぐって殺し切るのはほぼ不可能と言っていいだろう。
「チッ、クソ。最悪だ。しかもこの塔を上る手段も無くなっちまった」
《勇者》が苛立ちを隠しもせずにそう言う。
「お前のスキルで登れねぇのか?ほら、瞬間移動の」
「俺のあれはそこまで自由度が高くない。それが出来てたなら、スキルで直に《産獣師》の背中に飛び乗ってたよ」
それもそうか──と思っていると、いつの間にかアーネに服を脱がされていた。
「……幸い、内臓はそこまで傷ついてませんわね。穴も思ったより小さいですし、何とかなりそうですわ」
と言って手をかざし、回復魔法で俺の穴を埋める。
十秒と経たないうちに傷が塞がり、あっさりとアーネが「終わりましたわよ」と言って手をどかす。
「助かった。ありがとう」
「あくまで穴を塞いだだけですわ。気をつけてくださいましね」
「……あぁ」
そう言って、再度上を見上げる。
さて。
「どうやって登るか」
今の戦闘で階段も床も、何もかもがぶち抜かれ、上へ登る事が非常に困難になっていた。
そして《魔王》の反応は上。何故か若干弱まっているような気がするが、《魔王》を察知している感覚も説明や表現が出来ないような類いなので、気の所為と言われればそれまでか。
「お兄ちゃんがさっきやったみたいに壁を蹴って登るのは」
「ありゃ今は無理。つかアーネがついてこれねぇだろ」
さてどうしたものか。最悪この塔を内側から切って倒してしまうという方法が無くはないが、それは最終手段にした──
「「『ッッッ!?』」」
それに反応したのは俺、《勇者》、シャルの三人。互いに何かを言うわけでもなく、同時に真上を見上げた。
「ど、どうしましたの……?」
「聞こえたか?」
「聞こえた」
俺の問いに、《勇者》がそう答えた。
「何の話ですの?」
「今、誰かが、ここより上ん所で塔をぶった切った」
「……はい?」
直後、がらがらと崩れ落ちる音が、上から聞こえてきた。
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