大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

勇者と産獣師8

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俺がやっていた事は非常にシンプル。
《産獣師》が急降下してくる度に、髪を数本ずつ抜いて彼女に引っ掛けていっただけ。
それを今、《産獣師》がしならせて放とうとした右手の中指、それとそこから伸びる刃に巻いて動きを固定した。
初動を完全に封じられたバネでは鋼糸よりも頑丈な俺の髪を斬ることが出来ず、《産獣師》はそれに一瞬の隙を晒した。
その一瞬を待っていた。
髪に意識を集中し、大展開。広がる髪から逃れようと、即座に後ろに《産獣師》が飛ぼうとするが、俺の髪の方が早い。
僅かに引っ掛けた髪が、飛び下がろうとする《産獣師》と俺の距離を絶対に離さない命綱となる。
そして、一本が届くなら二本が届く。二本が届くなら十本──いや、何本でも届く。
「おおおッッ!!」
髪を手繰り寄せてぐんと近づき、《産獣師》の右腕を掴む。彼女は慌てて俺を壁に叩きつけようとするが、既に俺はそこから移動していて、もう居ない。
髪をアンカーとして決して離さず、《産獣師》が腕を振ろうとした瞬間に軽く跳躍してその空間に留まる。
そして捻られた身体、その背面にある翼に手を伸ばし髪を引っ掛け、身体を引き上げる。
「!?」
完璧な背後。《産獣師》の背中に乗りながら、翼を掴んだ手を一気に捻りあげる。
「フンッ!!」
「──!!」
バキバキッ、と枯れ木のような音を立て、翼がへし折れ、同時に高度が落ち始める。
「ダメ押しにもう一回!!」
もう片方の翼も掴み、捻りあげようとした所で、身体に痺れと痛みが走る。
「ッ!」
落ちそうになるが、すんでのところで踏みとどまってそちらを睨む。
『靄!』
という事は魔獣の吐息ブレス。先程より幾分威力が低いのは、万が一自分に当たった時のことを考えてか。
代わりにブレスの装填速度はかなり早い。それに俺に対応されないよう、何度も放たれるブレスの方向は全てバラバラ。
だが、この程度では止まらない。
一度掴んだこのチャンス、ここで離すようでは《勇者》など名乗っていられない。
雷撃で痺れきった身体を無理矢理コントロールし、全体重を掛けて捩じ切る。
「オオオオオオオオオ!!」
声を上げて翼を捻り、そして翼がへし折れる。
接合部である肩甲骨の辺りから血が吹き出し、隙間から白い骨がちらちらと見える。
だがまだ足りない。さらに雄叫びを上げら力を加える。
折るのでは足りない。
「オオオオォオォッ!!」
その竜の翼を、今、完全に引きちぎり、もぎ取った。
さらに骨の見えるその翼の根元で、折ったもう片方の翼をえぐり切るように擦り付け、切り離す。
ぶちっ、と肉が千切れ、遂に《産獣師》の背中から翼が切り離され、そのまま投げ捨てられる。それで初めて完全に浮力を失ったのだろう。
今まで緩やかに落ちていた《産獣師》が、突然真っ逆さまに落ち、その身体に髪を引っ掛けている俺も一緒に真下へと落ちていった。
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