大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

血と炎

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「クソ痛ぇ……」
皮膚も肉も引き剥がれ、血塗れになった両手を、アーネの手が少しずつ癒していく。
「我慢しなさいな。もう少しで治りますわ」
そういう間にも、血は乾いて肉と肉がくっつき合う。一分程で傷はひとまず良くなるだろう。
「……身体、大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫ですわ。魔法も先程見たでしょう?」
「見たどころじゃねぇな。身をもって体験したよ」
魔力はほとんど無くなっていたはず。俺の血が入ったから多少なりとも回復はしただろうが、それだって決して多い訳では無いはず。
それに魔力の話以上に、根本的な問題がある。
「だが、お前の身体には《勇者》の血は有毒……そこまで行かないにしろ、無害じゃないはずだ」
そのはず。なのに彼女は平気な顔をして魔法を撃ち、俺の手を治している。
「私、聖学に来た時は属性を二種類使っていたの、覚えてますの?」
「あ?あぁ、炎と氷だな。本当に最初の最初の時ぐらいだが。すぐに氷を使わなくなったよな」
「今はもう私にひとつしか属性が残っていないんですけれど……何故、氷の属性を失ったか分かってますの?」
「何故って……さぁ?」
俺の認識としては、いつの間にか氷を見なくなった。そのぐらいだ。正直言っていつ頃から使わなくなったかすらよく覚えていない。
アーネが俺の手から自身の手を除けたので見てみると、手の傷が相当マシになっていた。完治には程遠いが、これならまだ剣を握れるだろう。
「紅の森で初めて魔族に会って、私が貴方に口付けをされたあの時、貴方の魔力が私の魔力を染めたんですわよ。氷の属性を塗りつぶして、全てを炎の一色に塗り染めたんですわ」
口付け?なんの事だと思って記憶を振り返ると、昏睡状態だったアーネに魔力を流し込んだ時の事を指しているのだと気づいた。
「……もしかしてアーネって二属性使わなくなったんじゃなくて」
「使えなくなったんですわ。貴方の属性のせいで」
……今思い返せば、あの時一緒にいたクードラル先生は何らかの魔法を使って、透明に限りなく近い魔力を与えていたような気がするような……あれが所謂無色の魔力って奴なんだろうか。
そして、そう言う処置をきちんとしなかった場合はアーネのように属性が変わったり無くなったりするんだろう。
「先に言いますけれど、謝らなくていいですからね?別に後悔も恨みもありませんもの。今は」
「ぐぅ……で、その話、俺の血とどう関係あるんだ?」
「結論を急くなら、貴方の血、有害か無害かで言うなら有害ですわ。こと私以外にとっては、ですけれど」
そう言って指をくるりと円を描くように回す。
そこに灯るのは赤い炎。しかしそれはすぐに色を変え、白い炎へと変わりきった。
「私が元々持っていた属性は炎と氷、けれどそれを炎一色にした貴方の血。その属性に名を名付けるなら──白炎でしょうかしら。ただの炎よりずっと純粋で危ない炎。その属性が今、私の身体を駆け巡ってますわ」
「また属性が変わったのか……?大丈夫…なんだよな?」
「普通なら外的要因で属性が変わるなんて耐えきれないでしょうね。ましてやこんな強烈な属性は尚更。けれど、私はもう一度経験してますし、属性もかなり近かった。それが幸運でしたわ。変化と言えば、それぐらいですわね」
そう言って、アーネは灯した炎にふっ、と息を吐きかけて消す。
「つまるところ──簡単に言えば、私の魔法の威力が増した以外に変化は特に無いですわ」
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