大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

意識と傷

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二回。とりあえず俺がすぐに思い出せる、アーネが俺の血を取り込んだ回数はそれだ。
一度目は俺が初めて《勇者》の力を使った時。
二度目は特級魔法で夢の中に入る時に魔力の緊急補充用として。
と言っても、二度目の時は一応加工してはあったので厳密には違うかもしれない。だが一度目の時は間違いなく俺の「血」を流し込んだ。
量はどれぐらいだったか覚えていないが、ごく少量だった記憶もない。それなりに入れたはずだ。
それでもあの時はアーネに何の異常も無かった。だから大丈夫。俺も大丈夫。まるで意味がわからない理屈を自身に言い聞かせ、ゆっくりと血を循環させる。
少しずつだが確実に俺の方へと流れ込んでくる《腐死者》の呪い。それに比例して身体の不調は増していく。
俺の身体の中で少なからず呪いは消されていっているはずなのに、まだまだアーネの身体から呪いが流し込まれてくる。
そしてアーネも良くなった感じはしない。未だに額から大粒の汗を流し、苦しそうに歯を食いしばる。
いや、ある種当然か。アーネの中では今、俺の血と、《腐死者》の呪いという2種類の毒が噛み合っている状態。俺が呪いをこちらに流しているとはいえ、相当な苦痛だろう。
それに、もしこの呪いを消せたとしても、後に残るのは俺の血。《勇者》の血だ。それがどこまで彼女に影響を及ぼすか……
「っ…」
不味い、身体の感覚が曖昧になってきた。頭痛も痛すぎてもう訳が分からないし、暑いのか寒いのか、息が出来ているかすら分からない。
でも指先の僅かな部分、ここだけは繋がっていると確信できる。
それだけに縋りついて、ただ一心に血を巡らせる。
どれぐらいやったか分からない。多分意識を失っていたか、限りなくそれに近い状態だったのだろう。意識が戻った時には、相当身体はマシになっていた。
「あー……」
閉じていた目を開くと、アーネの大きな胸が目に入った。
それがゆっくりと上下しているのを見て、ひとまず安心する。
まだ繋がったままだった指を脇から抜き、傷を塞ぐ。当然アーネの方も軽く縫う。
立ち上がろうとして、くらりと立ちくらみを起こしてたたらを踏む。血が足りない。あるいは呪いがまだ残っているのだろうか。それともあるいはまた別の影響か。
気分は相当悪いし、全身を強い疲労感が包む。しかも妙に身体に力が入らない。ずっと頭痛が続いていたからか、まだ頭がぼんやりとする。
けど、さっきまでよりかはずっとマシ。アーネも随分と楽そうに寝息を立てている。
軽く頬に触れると、若干体温は高め。もしかしたら俺と似たような感じかもしれない。
「《勇者》、助かった。ここから一旦離れ──」
「やっと終わったか。長かったな、お兄ちゃん」
そこに築き上げられていたのは、無数の焼死体。
そのどれもが弱点を一撃で貫かれており、その後自分で発火したのだとすぐに分かった。
だがその数。数十体分の死体では到底足りない。百に届きかけているのではなかろうか。
「……どれだけかかった?」
「さぁ?一時間かかってないぐらいじゃねぇかな。相当かかってたぜ」
そう言ってくるりとこちらの方を向いた《勇者》。
「っ」
その身体は、無事な箇所を見つける方が困難な程傷にまみれていた。
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