大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

油断と死者

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「──あ?」
自分で切り刻んで、バラバラと降ってくるギガースの欠片を見てからそんな間抜けな声が出た。
出来ると思っていなかった、あるいはそうなるとは思っていなかった。
死ぬ間際の足掻き、鼬の最後っ屁、その程度のつもりで剣を抜いた。その程度のつもりだったのにこうなるとは。
いや、そう思ってる場合じゃねぇ。
刃こぼれひとつしていなかった黒剣をへし折って納刀し、上から降ってくる肉片からアーネを守るために走る。
いくらギガースを刻んだからと言って、上から膨大な質量が降ってきている事に変わりはない。
このままでは上から降ってくる肉片達に当たり前のように押しつぶされる。
だがこのサイズなら、そこまで無理なく弾き落とせる。
「オオッ!!」
再度黒剣にロックを掛けて銀剣に。そのまま双剣状態でアーネの近くで肉片を叩き落とし続ける。
これで最後。なんとか乗り切った。
「──そういう瞬間こそ弱点になる。そう思わぬか?」
ズ──と。
暗がりから急に現れるように奴は出た。
捻くれた長い杖、黒いフード付きのローブ、そしてどの魔族よりも長く生きてきた事を伺わせる深い赤の瞳。
「《腐死者》──」
『ジェルジネンッッッ!!』
《腐死者》の周りから突然伸びてきた十本指の手を斬り捨て、即座に遠くへ蹴飛ばす。一瞬でも反応が遅れれば頭蓋骨を握り潰されていただろう。
「また会ったな、《勇者》レィアよ」
《腐死者》がそう言った瞬間、彼の周りの地面がさらにボコボコと泡立つ。
「──では、手始めに死ね」
「断る!」
地面から一斉に伸びてきた手。それらは全て何かしらの死者の手。
あるものは腐り指がない。あるものは蛆が湧き直視に耐えない。あるものはそもそも手が半分ぐらいしか残っていない。
そんな不完全な腕が無数に伸び、俺へ向かって伸びてくる。
一つ一つは大した脅威ではない。握力などは凄まじく、一度捕まれば骨折は当然。さらにくい込んだ指先から腐食が始まるような手だが、動きは比較的見やすい。
だがそれが十や二十では効かない数飛んでくるのだ。それのどれか一つにでも掴まれば致命傷となりうる。
「──どこまで凌げる?」
「全部に決まってるだろ」
《腐死者》の扱う手は通常の魔法と違い、斬れば、あるいは壁などにぶつかれば消えるような代物ではない。あくまであの手は実際に存在する死体から作ったもの。それを魔法などに組み込んでいるので、斬れば消えるなどという事は無い。
仮に手を両断すれば、その割れたままこちらに突っ込んでくる。かと言って弾いたところで再度突っ込んでくるだけ。
ならばどうするか。
「《吼破》」
銀剣の側面をまた擦り合わせ、黒剣を抜刀。目にも止まらない速さで風と共に手を真っ二つに斬る。
「なんだ《勇者》、知らんのか?我のこれは──」
そこで《腐死者》の言葉が止まった。
「成程、切断の極たる武装か。………あぁ、思い出した。何年前だったか、昔居た機人が切り札として作り上げた兵器があったな。その所有権はヒトに回っていたか」
両断した手、それは動くことなく、ただ地面に鈍い音を立てて落ちた。
やはり行ける。黒剣なら魔法でも斬れる。
「──面倒だな。それと我との相性は極めて悪い」
これなら──やれる。
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