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本編
巨体と攻防
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もしもシャルの言う通り、このギガースが《腐死者》によって呼び出されたものであるなら、このギガースに「後退」の文字は無い。
そしてまた《腐死者》の名のように、奴は対象が死んでから本領を発揮する。当然のようにこのギガースも死んでいるのだろう。
ならば当然「死」で止まる訳は無く、生命が本能的に忌避する苦痛などでも止まらない。
『対象の完全破壊。あるいは術者の討伐。それしか奴を止める手段はない』
「無茶苦茶言いやがるっ!」
大銀剣を振り回し、ギガースの拳を弾き流す。
血界を使えない現状、軌道を辛うじて逸らすぐらいが関の山。
先程のように自身の血を使えば発動出来なくもないが…周りに魔族しかいない以上、根本的に種族が違うので、いくら血海の相性が良くても自分の血に転用は出来ない。
そもそも血海は血界の為の能力なのでそういう用途で使うものでは無い。せめて模したヒトであれば出来ただろうが…
『魔族後ろ!』
「ッ!」
一瞬だけ振り返り、指先から先程同様圧縮した血を放つ。着弾した頃にはもう魔族の方を見ていないが、崩れ落ちた音は聞こえた。
視線を外し、振り返ったのは一秒にも満たない僅かな時間だったはずなのに、ギガースの拳はすぐ目の前に。
『一分です』
「ッラァ!!」
マキナの微かな声が聞こえた。
あと二分?身体が持たない。冗談じゃない。
ギガースの拳をまた何とか弾いた。しかし俺の身体は、長年使い込んでネジが緩んだ道具のようにガタガタ。もう何度あいつの攻撃に耐えられるか分からない。
一度は行ける。二度目もきっと何とか。だがそれ以降は──
「だと、してもッ!!」
奥歯を噛み締め、剣を構える。
「かかって来やがれジェルジネン!!」
『オオオオォォォオオオオォオオォオオオオォオオォォオオオオォォオオオォォォ!!』
まるでそれに呼応したように、一際大きくギガースが吼えた。
再度拳か。それとも口から魔砲でも吐くのか。そう身構えた瞬間、ギガースが跳んだ。
答えはもっとシンプル。そして絶望的。
「──ぁ」
理解した瞬間、そんな情けない声が口から漏れた。
超巨大な身体、質量、それらを生かしたダイビングプレス。その下に俺達以外の何者が大勢いたとしても、何ら一切躊躇のない行動。
広範囲を叩き潰し、問答無用で更地に変えるその行動に対抗できるのは小手先の技術等ではなく、純粋にもっと大きな力のみ。
今の俺に最も不足しているもの。
クソッタレ。死に方がこんな情けねぇとは思っても──
──いや。ならばいっそ、受けるのではなく攻めるべきか。
「まだ、足掻ける」
微塵も思ってなどないが、そう口に出した。
そう言った瞬間、カチリと首の裏にあるスイッチが入るような、あるいは歯車が強引に噛み合わされたような、奇妙な感覚に包まれた。
「っ」
即座に大銀剣を銀剣にシフト、同時に剣の側面をすり合わせ、紋様を輝かせる。
「《吼破》」
囁くように言って戦技を発動。と言っても射出はせず、静かに剣を解放するだけ。
ここまでの動作を一切の淀みなく、一瞬で行う。
誰かが何か言った気がしたが、その音も最早遠く、何も聞こえない。
息を吸って吐く音すら聞こえず、心音ですらあるはずなのに無い。聴覚は完全に消え、今はただ上から落ちてくる巨大なそれのみを見据える。
緋眼が今までに無いほど良く見え、位置が悪いと感覚的に感じ取り、二歩後ろに下がる。
ここでいい。ここがいい。
大して力も込めず、瞬きをするように、呼吸するように剣を抜く。
瞬間、ズッ──と。
薄暗い明け方のような刃が十メートル以上の刃渡りとなって現れる。
普通ならばそもそも抜く事すら不可能な長さの刃だが、不思議とこの時は何とも思わなかった。
ただでさえ風圧でも折れるような貧弱な刃、しかしこの瞬間だけは何とも思わず。
数十回、あるいは数百回だろうか。
いずれにしろ、俺は宙に浮いたギガースを、この僅かな瞬間でただの肉片になるまで切り刻んだ。
そしてまた《腐死者》の名のように、奴は対象が死んでから本領を発揮する。当然のようにこのギガースも死んでいるのだろう。
ならば当然「死」で止まる訳は無く、生命が本能的に忌避する苦痛などでも止まらない。
『対象の完全破壊。あるいは術者の討伐。それしか奴を止める手段はない』
「無茶苦茶言いやがるっ!」
大銀剣を振り回し、ギガースの拳を弾き流す。
血界を使えない現状、軌道を辛うじて逸らすぐらいが関の山。
先程のように自身の血を使えば発動出来なくもないが…周りに魔族しかいない以上、根本的に種族が違うので、いくら血海の相性が良くても自分の血に転用は出来ない。
そもそも血海は血界の為の能力なのでそういう用途で使うものでは無い。せめて模したヒトであれば出来ただろうが…
『魔族後ろ!』
「ッ!」
一瞬だけ振り返り、指先から先程同様圧縮した血を放つ。着弾した頃にはもう魔族の方を見ていないが、崩れ落ちた音は聞こえた。
視線を外し、振り返ったのは一秒にも満たない僅かな時間だったはずなのに、ギガースの拳はすぐ目の前に。
『一分です』
「ッラァ!!」
マキナの微かな声が聞こえた。
あと二分?身体が持たない。冗談じゃない。
ギガースの拳をまた何とか弾いた。しかし俺の身体は、長年使い込んでネジが緩んだ道具のようにガタガタ。もう何度あいつの攻撃に耐えられるか分からない。
一度は行ける。二度目もきっと何とか。だがそれ以降は──
「だと、してもッ!!」
奥歯を噛み締め、剣を構える。
「かかって来やがれジェルジネン!!」
『オオオオォォォオオオオォオオォオオオオォオオォォオオオオォォオオオォォォ!!』
まるでそれに呼応したように、一際大きくギガースが吼えた。
再度拳か。それとも口から魔砲でも吐くのか。そう身構えた瞬間、ギガースが跳んだ。
答えはもっとシンプル。そして絶望的。
「──ぁ」
理解した瞬間、そんな情けない声が口から漏れた。
超巨大な身体、質量、それらを生かしたダイビングプレス。その下に俺達以外の何者が大勢いたとしても、何ら一切躊躇のない行動。
広範囲を叩き潰し、問答無用で更地に変えるその行動に対抗できるのは小手先の技術等ではなく、純粋にもっと大きな力のみ。
今の俺に最も不足しているもの。
クソッタレ。死に方がこんな情けねぇとは思っても──
──いや。ならばいっそ、受けるのではなく攻めるべきか。
「まだ、足掻ける」
微塵も思ってなどないが、そう口に出した。
そう言った瞬間、カチリと首の裏にあるスイッチが入るような、あるいは歯車が強引に噛み合わされたような、奇妙な感覚に包まれた。
「っ」
即座に大銀剣を銀剣にシフト、同時に剣の側面をすり合わせ、紋様を輝かせる。
「《吼破》」
囁くように言って戦技を発動。と言っても射出はせず、静かに剣を解放するだけ。
ここまでの動作を一切の淀みなく、一瞬で行う。
誰かが何か言った気がしたが、その音も最早遠く、何も聞こえない。
息を吸って吐く音すら聞こえず、心音ですらあるはずなのに無い。聴覚は完全に消え、今はただ上から落ちてくる巨大なそれのみを見据える。
緋眼が今までに無いほど良く見え、位置が悪いと感覚的に感じ取り、二歩後ろに下がる。
ここでいい。ここがいい。
大して力も込めず、瞬きをするように、呼吸するように剣を抜く。
瞬間、ズッ──と。
薄暗い明け方のような刃が十メートル以上の刃渡りとなって現れる。
普通ならばそもそも抜く事すら不可能な長さの刃だが、不思議とこの時は何とも思わなかった。
ただでさえ風圧でも折れるような貧弱な刃、しかしこの瞬間だけは何とも思わず。
数十回、あるいは数百回だろうか。
いずれにしろ、俺は宙に浮いたギガースを、この僅かな瞬間でただの肉片になるまで切り刻んだ。
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