大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

準備とメッセージ

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確かに去年はこの時期に二つ名争奪戦をやった記憶が何となくある。
だが今年はやらないだろうと俺は踏んでいた。
理由は簡単。魔族の襲撃による生徒の減少。これに尽きる。
それに俺の所に連絡も入ってなかった。候補をどうするかなんて話もなかったし。
ハテナを飛ばしまくった上で一度風呂から上がると、マキナからメッセージがあったと報告。
相手を聞くと生徒会かららしく、この辺で何となく察しが着いた。
つまり俺が聖学を出てる間に高速で話が進んだのか。で、俺とユーリアは結果的にハブられたと。
ンなことあるか?普通。と思いつつこちらからメッセージを飛ばし返す。
すると、案の定その通りだったようだ。今年の候補は一人、アーネのみ。
そして候補の確定は現二つ名持ちの多数決。俺とユーリアが居ない間、他の二つ名持ちに先に聞いたところ、全員が許可を出したのでそのまま俺達に何か聞く前に確定したのだとか。
「はーぁ…アホくせぇ」
生徒会は時間がなかったら云々と言い訳をしていたが、決定までの流れと通知の速度がやたらと早い。前もって準備していたと考えるのが妥当か。それに、仮に時間がなかった云々を信じるにしても普通に考えりゃ一日ちょい待てば俺もユーリアも普通に参加出来た話だろうに。
いやまぁ、結果は変わらなかったにしろ、こんなモヤモヤすることもなかっただろう。
とは言え過ぎたことは仕方ない。それに俺もアーネが二つ名持ちの候補に選ばれるのは賛成だし。むしろこうなるのは遅かったとも思う。
今回候補に選ばれた要因は今までの積み重ねもあるだろうが、先日のエキシビションマッチが決め手となったらしい。そりゃあんな派手な勝ち方すりゃな。
仮の二つ名は《緋焔ひえん》だそうで。
確かに炎を操り、その中で軽やかに舞う姿は非常に彼女らしいと言える。もっとも本人は少々微妙な顔をしていたが。
「ま、名前は後で自分で変えられるから、今は勝つ事だけ考えとけ」
風呂から上がったアーネにそう言うと、
「もちろんですわ。勝ち残って、必ず貴方に並んでみせますの」
と意気込んでいた。
そんな訳で急遽ブチこまれた二つ名争奪戦は用意と一般生徒への通知も含めて明後日から開始らしい。
また、今年は候補の数と生徒の数が極めて少ないため、開催日は一日のみ。そしてアーネは第一訓練所でずっと待ちかまえる形になるそうだ。
俺の所にも後で色々な準備のためにメッセージが押し寄せてくるだろう。
だがもう今日は疲れた。寝る。身体の熱を冷まし、少し早めに就寝。アーネも一緒に寝た。
────その深夜。マキナが音もなく俺の頬を叩いて起こした。
「何だ」
アーネを起こさないよう、極限まで小さく声を絞って話す。
マキナが右耳にぺたりと張り付き、同様に音が聞こえないよう俺に囁く。
『近距離メッセージ。特殊術式の使用が確認されたので緊急と判断して起こしました。フライナ・シグナリム様です』
「フライナ…?聖女サマがなんでこのタイミングで?」
音を立てないよう細心の注意を払いながらそっと起きてベッドから降りようとする。腕を掴まれていたが、それを気づかれないようそっと少しづつ離していく。
しかし、そうこうしながら聖女サマを待たせるのも悪いと判断して、アーネの腕を解きつつ繋がせる。
『こんばんはレィアさん。夜分遅くにすみません』
「構わんさ。よっぽどの事があったんだろ?」
よし、解けた。いつもの黒コートを羽織って、窓から人気のない屋上を目指す。
『はい。先日メッセージで受け取った、結界外への聖西学合同の生徒奪還作戦の件についてなのですが──』
俺が豹と話をしたその数時間後、俺は聖女サマにこの件を報告した。
理由は単純。少しでも戦力が欲しかったからだ。
聖女も一応神の作った特殊ユニット。先日の襲撃の件とシエルが出ていった事、そして豹との会話で得た情報が揃えば何が起こっているか把握するのは出来るだろう。
だからこそ、この作戦は絶対に成功させなくてはならない。そうなれば聖女もある程度札は切ってくれるはず。具体的に言えば、今聖学にいる英雄の一人ぐらいなら貸してくれる。
そう踏んだのだが。
「──そうか」
『はい。申し訳ありません…』
屋上に着く頃には話は大体終わった。
どうも英雄はこれ以上動かせないらしい。加えて今聖学にいるオーリアンも防衛の事を考えると絶対に外せないとの事。
『ですのでそちらでどうにか頑張って──ひゃっ!?』
「ん?どうした」
明らかに聖女と何か言い争う声がした。メッセージは術者の声ぐらいしか拾わないので、何に対して言っているのか分からないが──
『わかりました!わかりましたから!レィアさん、話が少し変わりました。一人だけ送れます』
「本当か!?助かる。だが英雄でも無いのなら死人を増やすだけみたいなものだが…」
『その点は大丈夫かと。寧ろほとんどの英雄に勝つ事すら容易でしょう』
そんな奴が教会にいたのか?英雄以外の武力は持たないはずなんだが。
「それならいいが。しかしそんなのがいたのか?」
『えぇ。こちらで保護していた《巫女》…いえ、もう一人の《勇者》が行くと言っています』
「…あ?」
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