大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

名持ちと激突14

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「何?四貴族がどんな奴らか、と?」
「あぁ。そういや全員は知らなかったなと思ってな」
そう聞いたのはつい先日。馬車に揺られて王都に来る最中の話だった。
「ふぅむ、それはつまり種族的な面か?」
「そうだな。耳長種エルフなら多少知ってるだろ?」
「いやまぁ、確かに知っているが。全部言うのか?」
「全部は…とりあえずいい。まだ会ったことのない獣人種ビーストマン巨人種ジャイアントだけで充分だ。他はまた今度で」
「なら、まずは獣人種ビーストマンから行こうか。彼らの本家はバルドバルという名を名乗っていてな。固有魔法は──」
──あぁそうだった、思い出した。
獣人種ビーストマンの固有魔法、《その身体、剛にして獣ビーストシフト》か」
獣人種ビーストマンは他種族と違い、生まれ落ちた時から固有魔法が身についている。
つまり、全ての獣人種ビーストマンが固有魔法を持ち、それを呼吸の如く当たり前のように利用すると言う。
そしてその固有魔法、《ビーストシフト》の能力は非常に単純。
自身を獣の姿へと変貌させる能力。今まさに目の前で起こっていることがそれだ。
曰く、見た目は獣であるが故にヒトより力がある。
曰く、中身はヒトであるが故に獣より知恵がある。
そして何より厄介なのが、この姿では剣も魔法も使えないが、代わりに魔力を消費して肉体を一時的に強化できる点。
「彼らは非常に戦闘向きの種族でな。仲間に居ると心強い。昔、私の家に猫になる下級貴族の獣人種ビーストマンがいたのだが、その者も強かった。それになによりその猫が可愛くてなぁ…当人は当時四十程の男だったのだが」
とはユーリアのセリフ。
「猫は猫でも虎は可愛いとは言えねぇなぁ…!」
ガァン!と金属の剣とただの牙が交差する。
「いや無理っ」
瞬間後ろに飛び下がる。腕力的に絶対勝てない。受け流しても隙が生まれるレベルの威力。それにこちらは手負いで、あちらはほぼ無傷。
猛獣らしい唸り声を上げて再度飛びかかってくる白虎。その跳躍のみで床に深い爪痕を残し、一瞬で距離を詰めて俺の喉笛に喰らいつこうとする。
「クッソ!」
身体を捻って双剣をもって全力の受け流し。身体のどこかにまた肋が刺さったのか、内臓が変に捩れたのか、痛みが走るがそれどころでは無い。
これをミスれば死ぬッ!!
飛び散るぬるい唾、生臭い息。もし万全の状態であれば、そのまま口を裂くことも出来ただろうが、踏ん張りが効かない。受け流すので精一杯。
少しずつマキナが俺の身体に戻って来ているのは分かるのだが、余程酷い破壊のされ方をしたらしく、粒のようなマキナがいつの間にか俺の身体に張り付き、部位を形成していると言った状況。
この調子だと、恐らくあと一分程度は戻り切らない。
落ち着け、冷静になれ。まだ捌ける。
爪を逸らして牙を避け、後ろ足を弾いた直後に尾の追撃。
押されいる。見た目はジリ貧。だが、少しずつマキナが増え、余裕が生まれ始める。
次は前足の爪──が。
突然伸びた。
「ッ!?」
『な!?』
大きなナイフとして見ていた間合いが、突如長剣のような長さへと変貌。流石にこれは咄嗟に対処出来ない。
ユーリアは身体能力の強化と言わず、肉体の強化と言っていたが。そういう事か。
回避…いや、もう振ってる。無理。なら防御を──
そう思った瞬間、突如視界が遮られる。
「「!?」」
凄まじい音と共に爪がそれにぶつかり、白虎が後ろに飛びずさる。いや、と言うよりも…吹き飛ばされたのだろうか。
そして同時に目の前の影がさらに体積を増す。
一瞬何が起きたか把握出来なかったが、すぐに理解した。
『大変お待たせしました』
「いや、よくやった」
マキナが俺の飛ばした煌覇の先、鞘であり盾でもある部分を持って来たのだ。
「来い。やるぞ」
『了解しました』
ここからが今の《緋眼騎士》の全力だ。
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