大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

本編

名持ちと激突13

隙を狙うなどと言っていたが、そんな生温い考え方では攻め切られて先にこっちが持たない。
奴の肉体スペックは恐らく、素のルト先輩の一回りかそれより少し下ぐらい。控えめに言って超人クラスだろう。絶対に相手したくない類いなのだが、文句も言ってられない。
今の俺が出し惜しみなく、全力でぶつかって勝てるかどうかと言った相手。せめてどちらか一方でよかったから元の剣が使えれば良かったんだが。
『あの戦技アーツは結局モノになったのか？』
「まだ。下手したら遠のくな」
「何を言ってるんだい？」
白虎の急接近。しかしそれぐらいは読んでる。
「大したことじゃねぇ。切り札をいつ切ろうかって話をちょいとな」
互いに大剣を振り回し合い、激しい音と火花が散る。
マキナでも相殺しきれないレベルの重い衝撃が肘へ抜けていき、少々顔を顰める。
「僕を相手にそんな余裕が？」
「あるように見えるか？った!?」
いかん、変な角度で身体捻らされた。肋がどっかに刺さったか。
「顔が見えないからどうにも。話せるぐらいは余裕あるみたいだけど」
「そうか。こんな顔だよ」
一瞬だけヘルムを解除し、せり上がってきた血を勢いよく白虎に吹きかける。
「っ!?」
不意打ちの目潰し。それも俺の血だ。雑なコントロールだが、積極的に目に染みるように意識しつつ、剣を構える。
「《煌覇》ッ!!」
先程のクロコダイルの時と違う、本物の痛みが身体を僅かに鈍らせるが、この程度ならまだ死にはしない。
勢いよく振り抜いた剣が一瞬だけ無防備になった白虎に当たり、そしてそのまま場外へと吹き飛ばす。
だが。
「野郎…」
俺の戦技アーツ発動の声に反応して即座に斜め後ろに回避しやがった。当たりはしたが、直撃はしなかったのでそこまでのダメージは期待できない。
しかし場外には押し出せた。カウントも始まってる。ならば追撃で場外勝ちを取る。
「マキナ、分離」
『了解しました』
煌覇を放った直後にそう言うと、マキナが全て解除され、代わりに俺の鎧装備状態とそっくり同じ姿のカラッポのマキナが現れる。
『大丈夫なのか？』
「当たらなけりゃいいんだよ」
この重量なら剣を振り回すのにマキナは要らない。ならばいっそマキナを解除し、二手に分かれて攻める。
ただし、マキナ自体は多少戦えるとはいえ戦技アーツも使えないし、武器も自身の体積を使って作る切れない剣のみ。それでも重力魔法等を駆使すれば重量はあるので、当たれば文字通り相当な打撃になるはず。
とはいえマキナはあくまでフェイク。なので時間差をつけて俺が双剣で仕留める。
「行け」
マキナの手には先程まで握られていたレプリカの大剣とそっくり同じ見た目の大剣。それが壁まで飛んだ白虎の方へ突っ込み、一拍遅れて俺も駆け出す。
白虎が起き上がり、前を見た瞬間に目に入るのは白銀の鎧。
「ッ──!!」
しかし白虎は即座にマキナの腕を取って地面に叩きつけようとする。復帰に余裕があるのだろうか。
それが俺だったら多少は有効だっただろうが、相手は俺を模したマキナ。
ぽろっ、と。
掴まれた腕が外れ、マキナが片腕だけで大剣を振り抜いた。
「な──」
防御を固めるが、直撃は必至。重い大剣が白虎の身体を強かに打ち、さらに壁を押し付ける。これは俺要らないか。フィールドから出ない方がいいな。
カウントは残り一秒。復帰はもう不可の──
『避けろッ!!』
「ッ!?」
シャルの声に身体が勝手に反応し、全力で真横に飛んでいた。
結果的に、何かを見たり考えたりするよりも先に起こされた行動は、俺の命を救う。
真横を白い何かが凄まじい勢いで通り抜け、耳を鋭い何かが掠めて血が吹き上がる。
「ッ!!」
だがそれぐらいで済むなら安い。耳の止血を意識しつつ立ち上がると、そこには白い毛並みと黒の縦線が幾つも入った大きな獣が低い唸り声を上げていた。
「………虎？」
白い虎。状況と彼の名前からして間違いなく、リオード・バルドバル本人だろう。
そして今頃になってこの姿と状況から気づく。
「バルドバル!?」
知り合いという訳でも何でもない。単純に有名だから故に知っている苗字。
四方を統治する貴族がひとつ、獣人種ビーストマン。
その苗字がバルドバルである事を。