大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

名持ちと激突10

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「ん」
『どうした』
痛みそのものは大した痛みではない。せいぜいが針にチクリと刺された程度。
だがこの場において、痛みが発生するということ自体がそもそも有り得ない状況。
身体を捻ったりと言った痛みでもないし、そもそもそんなミスを犯すわけが無い。
そんな疑問が一瞬だけ動きを鈍らせ、突如その痛みが身体を駆け巡る。
「!?」
『どうした!?』
鋭い剣で脇腹から横に一直線に斬られたような、冷たい痛み。
それが身体を蝕むように広がった。
突然の事に身体が引き攣り、手元が狂い、足元が縺れる。
その瞬間、クロコダイルが俺の顔にフルスイングでハンマーを叩き込む。
先程まで、クロコダイルのハンマーは俺の防御を抜けないとかなんだとか言っていたが、それはあくまである程度反応して、防御していた時の話。
流石にこちらが無防備な時に渾身の一撃を見舞われれば、マキナも割れて俺の額から血が出る。
「チッ!」
それでも相当軽い。せいぜいが目の上を軽く切った程度。痛みもほとんどない軽傷。
マキナも即座に割れた箇所を埋め、元の姿に戻っている。俺もマキナもなにも問題は無い。
そのはずなのに。
「ッガ!?」
『おい!どうしたレィア!?』
痛む。痛むのだ。頭が割れそうな程に傷が痛む。
じくじくとした痛みが際立ち、傷口の僅かなささくれ立ちにも神経が反応する。流れる血ですら熱く感じ、鼓動に合わせてそれらがより一層痛みを主張する。
なんだこれ。毒か?
二発目を叩き込もうとするクロコダイルに、カウンターで大剣を腹に叩き込み返す。手応えは真芯を捉えた。
もしも本物の銀剣なら胴が真っ二つになっていただろうが、レプリカは旧銀剣同様大剣は鞘。再びクロコダイルが場外まで吹っ飛ばされる。
「痛てぇ。脇腹から一直線に横、あと頭」
そう話すのですら辛い。発した音が頭蓋を通って目の上の傷に響く。呼吸で吸った空気ですら鼻をふるわせて痛みに響くというのに。
『あぁん?脇腹から一直線に?なんともねぇぞ。あと頭のってさっきのか?血はもう止まりかけてるが』
なんだと?
しかし痛みは留まる所を知らず、どんどんと増していく。痛覚を切ってもそれは変わらず、ただただ痛みが身体の中で反響し続ける。
って事は原因はお前か。
魔法の可能性は無いだろう。意識が無くなっても持続する魔法など、余程の手間をかけなければ魔族ぐらいしか出来ない。
ならば答えは一つしかない。
「クロコダイルのスキルかこれ」
『何…?』
反応するのはなんだ?痛みでとっ散らかる思考を無理矢理まとめようとするが、起き上がったクロコダイルが再び俺へ吶喊。考えるのはシャルに任せる。
全身を襲う激痛に苛まれつつも、辛うじて防御ぐらいなら出来る。とはいえ、剣の表面をノコギリが滑るだけでも傷に響く。観客の歓声すらガンガンと傷口を殴られている気分になる。
『身体が痛む?お前の状態は身体を二分する痛みと額…?ユーリアもスキルを食らっていた可能性は…そう言えば奴は何故か魔法が…魔力が散らされていたのでは無く、単に集中出来なかった?』
「チィィィ!!」
握る大剣が重い。振り回される遠心力が辛い。僅かに擦れる鎧の肌触りが不快。
でもだからどうした。
「フンッ!!」
真正面からハンマーを受け止め、鍔迫り合いに持ち込んで僅かに時間を稼ぐ。
「シャル、傷は浅いんだな」
『無いようなもんだ』
「了解」
ならばと覚悟を決める。
痛いだけなら死にはしない。痛みで死ぬのではなく、傷で死ぬのだ。痛みはそれに付随するエフェクトのようなもの。
ねじ伏せてやる。
身体が悲鳴を上げようと構わない。
俺自身が耐えれば問題は無いのだ。
受け流し、すれ違いざまに蹴りを叩き込んで距離をとる。
すぐに体勢を立て直し、こちらに突っ込んでくるクロコダイルだが、こちらも準備は終えている。
『そうか、分かった。奴の能力が』
「ブチ抜け大銀剣」
大剣を担ぎあげ、大地を踏みしめる。
剣身は俺の目よりも赤く、紅く、深紅く燃え上がる。
突っ込んで来たクロコダイルに対し、俺は剣を振り抜いた。
「《煌覇》!!」
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