大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

移動と修練

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聖学祭の発表があってからおよそ五日後。聖学の生徒達は学校が用意した馬車に乗って王都に向かうことになった。移動におよそ二日かかるので、王都に着いたらすぐ準備って感じか。
今日までに色々と話すような出来事もあったのだが、ちょいとカット。軽く何があったかを言うと、例の石を研究室から回収。文句や説明を受けたり、勇者流の鍛錬で相当キツい目に遭ったり、普通の鍛錬でやり過ぎだとアーネや周り、夜中に訓練所で剣振ってたら疲れ果ててそのままそこで寝たり、最終的には学校側からキツく言われたり。
で、戦技アーツは形になったかどうかと言う話なのだが、そんな気配はまるで無い。鍛錬した時間自体は無駄ではなかったが、今やるべきではなかったのかもしれない。
『あー…元々、オリジナルの戦技アーツを数日で習得するって方が無茶苦茶なんだしよぉ…いくらお前がそういうのが得意だからっても限度があるだろ…』
と、俺同様に疲労の残るシャルが言う。とはいえ、まだ僅かにだが時間はある。鍛錬自体も戦技アーツには繋がらなくても、今の自分を磨いていくという意味では無駄ではない。それに、王都でも鍛錬は出来るし、馬車の中でも出来ない訳じゃない。というか、そちらが主になるだろう。後は剣が来るかどうかと言う点が一番不安だな。
さて、今回の行きは二つ名をまとめて乗せた馬車に乗る。
ちなみに、去年は二つ名を乗せた馬車が二つあり、派閥事に分かれていた。俺は去年ハブられてたから一般生徒と一緒に馬車に乗ってたが。
で、今年はユーリアもルーシェも派閥のことを気にしていないし、ルトのように別の馬車を用意する気もない。学校も余分に馬車を用意する力もないし、《雷光》は学校がそう決めたのならそれに従うし、《臨界点》はいつものようにそもそも居ないという状況なので、《臨界点》を覗いた四名の二つ名が一つの馬車に入れられた。
「おい《緋眼騎士》、大丈夫か?最近どうやら相当張り切っているようだったが。疲れが残ってるんじゃないか?」
《雷光》がそう声をかけてきた。
「あぁ?あぁ…まぁ。疲れてない訳じゃないが…大丈夫だ」
「本当か?当日に不調を起こしたりするなよ?」
「はは、そうだな…じゃあ悪いが、ちょいと寝させてもらう」
そう言うと、《雷光》は「そうするといい」と言うが、むしろシャルは『大丈夫なのか?』と心配してきた。
『寝るのか?休んだ方が…』
「いや、いい。やろう」
と小さく言って目を瞑り、すとんと夢に落ちる。
これは夢だ。そう明確に感じるというのは中々無いのだが、こと勇者に限って言えばそうでも無いようだ。
「全く、最強は目指さないんじゃなかったのか?」
寝たと感じた瞬間に目を開けると、今までいた二つ名持ち達は消え、代わりにいるのは俺が持っている金剣とそっくりな姿をした銀の大剣を持った軽装の女戦士。
だと言うのに、何故か鋼で出来た重装のフルフェイスマスクを被っているため、妙にアンバランスな上、容姿はおろか髪の色すら分からない。だが、その声は多少くぐもっていても、よく聞き馴染んなだ声だった。
「最強は別に目指してないさ。でも、守れるようになりたい」
「向こうが望んでないかもしれないのに?」
「だったら二人で立ち向かうさ。そんで二人で生き残れるようになる。そのための強さが欲しい」
孤高で孤独で孤絶した最強は要らない。
だから守れるだけの強さが欲しい。
「強欲だな。それでいて傲慢だ」
「やれって言われたことと別の事もする事が強欲で、自分の身の丈に合わないことをするのが傲慢ならそう呼べばいい。俺はそれが出来る《勇者》にヒトとして手を伸ばす」
そう言って銀剣を思い浮かべると、いつの間にかずっしりとした銀の双剣が握られる。
「なら、《勇者》としての現実を見せてやろう」
「もう千回は見たよ。でも俺は夢を見る」
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