大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

聖女と集団

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「…その集団ってのは王都にいるんじゃなかったのか?」
「ほとんどは王都にいるようですが、ほかの都市にもいる事が最近分かったのです。幸いと言っていいのか分かりませんが、地方にいる集団は王都の集団よりも幾らか戦力という意味では劣っているようです。私がここに来た理由は、聖女である私、フライナ・シグナリムの身柄を一時的に王都から離す事、もう一つはその集団を出来るだけ無力化…出来れば捕縛する事です」
「っつー事は今王都にアン…聖女サマがいないって事は」
「英雄五名と教会のごく一部の者だけ。あとはこの屋敷の者だけでしょうか」
…となるとここのメイドさんや執事さんに話が広まっているのは不味いかもしれなかったな。今更どうにもならんが…。
そう思っていると、どうやら顔に出ていたらしい。
アーネの父親がこう言った。
「もちろん、我が家からが出ることは無いと自信を持って断言しよう。使用人も含めてね」
「ありがとうございます」
聖女サマがそうお礼を言い、アーネの父親が頭を下げる。
「そういう訳で、英雄は全て私の影武者につけ、私のみがここに来させて貰ったのです」
「まぁ、一応わかったよ。……それなら俺達はここにいても?」
「もちろん構わないとも!ずっといても構わないさ」
「いや、流石にそれは…」
心が痛む。
「私の方の滞在も短ければ一週間、長くともひと月で王都に戻りますので、お願いします。滞在にかかった費用と報酬は後日教会からお支払い致します」
「………………ふぅ」
よかった…出て行かなくて良かったか。
シエルもここを気に入っていた様だし、俺もここをそれなりに気に入っている。アーネの顔に泥を塗ることも無かったようだ。
ほっと一息ついた時。
「それでは私達は失礼させてもらうよ。…あぁ、変装用のアイテムは聖女様のお部屋にある物でよかったでしょうか?」
「えぇ、はい。素晴らしいものを用意して下さって──」
何か向こうは話し合っているようだ。
が、こっちはそれどころじゃない。
と言うのも。
『なぁなぁなぁなぁ、俺が寝てる間に何があったんだ?教えてくんね?聖女が「影武者云々」って言ってた所からしか聞いてねぇんだよ。教えてくれよ。面白そうじゃん。あ、てか、体調大丈夫か?視覚と聴覚しかないから分かんねぇんだよ。倦怠感とかないか?あ、あと──』
頭の中で馬鹿が騒ぐから。
『オイコラ誰が馬鹿だ馬鹿』
「という訳で──」
え?なんか言ってた?聖女サマがこっちを見てる。
が、聖女サマが口を開く前に。
──ドタドタドタドタッ!!
「──ん?」
複数の足音が。
「まさか追手か!?アーネ、エルストイ、構えろ!」
すぐにそれに気づいたアーネの父親が二人にそう声をかけ、臨戦態勢をとる。
即座に広がる緊張感。
一応、俺も銀剣ぐらいならすぐに出せるよう、左手を胸元に突っ込んでおく。
そうしている間に足音はさらに大きくなり、遂に──!
「………おかあ、さんっ!!」
シエルが俺に飛びついてきた。
後ろにはそれを追いかけてきたらしいメイドさん達。
………。
…一気に気が抜けた。
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