大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

広間と齟齬

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「着きました。こちらの広間です」
モーリスさんが示す先には結構重厚な扉が。
「ありがと。中にはアーネの父親さんだけ?」
「私の口からは申し上げられません」
「そ。…シエルが起きたら待つように言っといてくれる?あと、もし何かあっても絶対にシエルとあらそわないでね。死にかねないから」
「……わかりました」
その返事を聞いてから扉を押し開ける。
重そうな扉は音もなく開いた。
「やぁおはよう。体調はどうだい?」
「すこぶる好調だよ。昨日の夜よりずっといい」
部屋の中には俺以外に五人。
アーネとその両親と兄、そして聖女サマ。
それなりに大きな長方形のテーブルに全員が座っており、俺の前にも椅子があるが、座る気は起きない。
表情はこころなしかやや強ばっており、アーネとその兄がそれなりの武装をしていた。
──最悪、力づくで縛る気か?
まぁ、よっぽどのことがない限りそれに逆らう気はないが。
「あー、悪いがアーネの父親さん、腹芸とか前置きとかって苦手なんだ。…えーっと、とりあえず出て行けばいいのか?」
ひとまずはそれだろうか。
危険人物…ついでに家の玄関をぶち壊した張本人だ。
警備兵を呼ばれなかっただけ幸運だと言えるだろう。
すると、彼はさらに顔を顰めた。
「あぁいや、これ以上迷惑掛けるつもりがないだけなんだ。ドアぶち壊した客人なんて追っ払いたくて仕方ないだろ?荷物は一時間もかからずにまとめ終わるから、少し待ってて欲しい。…あぁ、シエルがまだ寝てるから、あの子が起き次第すぐに出てくよ。あと、玄関も弁償する。代金を教えてくれれば、多分すぐに払えるよ。もちろんこの家に聖女サマが来てることも言わないから安心して──」
「…ちょっと待ちたまえ、何を言っているんだ?」
………は?
「何って…玄関ぶっ壊した謝罪して、すいませんでしたすぐ出ていきます、って話?」
そう言うと、さらに顔を顰めた。
…いや、これはもしかして…。
「何故恩人を家から追い出さなければならないのかな?私はむしろ感謝しているのだがね?」
そうアーネの父親。
「…あー、えー、うん?」
…もしかして、致命的な齟齬が発生している?
「………昨日、俺が不時着した時の話、誰か教えてくれる?」
俺の記憶──というかほぼ印象だが──では確か…。
──玄関ドアを壊して落下、響き渡る悲鳴、最後に聖女サマの後ろ姿。
そんな感じ?
…確実に破壊神だ。
「それは私から話しましょう」
聖女サマが優雅に立ち上がり、真っ直ぐ俺の目を見てそう言った。
「まずはお礼を。あなたのお陰で助かりました」
……ダメだ、ますます分からん。
ひとまず、話を聞こうか。
椅子を勧められたので、それに従い座った。
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