大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

評価と意見

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「次は先輩に剣を抜かせます!絶対です!」
と言って出ていったセラに、「お疲れー」とヒラヒラ手を振って見送る。
一応勝ちはしたものの、結構な所まで追い詰められたので、今度セラに何か贈ってやるべきだろうか。などと思いつつ、首をさする。
ん…血は出てないか。少しヒリつくだけだな。
「で、どうだった。二人とも」
そう言うと、何かが俺の身体を包むような感覚。《臨界点》が障壁を拡張して、俺を内側に取り込んだらしい。ふむ、このタイプの障壁なら魔法返しは発動しないのか。
「初めてセラの戦闘を見ましたけれど…目で追うのがやっとですわ。およそ有り得ない方向にも跳べたり、蹴りに刃物がついていたり…」
「まぁ、お前が関わったのってほとんど関節ン所だもんな。仕込みは俺担当だったし」
アーネの評価はどちらかと言うと高評価か。
一方《臨界点》は。
「我輩の評価を端的に下すなら、十点中六点じゃ」
「理由は?」
「単純じゃ。弱い」
《臨界点》はそう切り捨てた。
「仕込みで意表を突くのは確かに有効じゃろうが、二度三度と戦うにつれて対応出来る範疇じゃ。じゃが、貴様がセラとの戦いを我輩に見せた理由は何となく分かった。あんなもの、ただ力が欲しいからと言って軽々しく手を出せる代物ではあるまい」
「その通り。よく分かってらっしゃる」
前にも言ったと思うが、セラの四肢の義肢は生身の身体と比べておよそ四倍の力が出る。するとまぁ、当然日常生活にも支障が出る。
加えて戦闘になるともっと酷い。全力を出そうとすれば、思っていた動きとまるで違う速度で身体が動く。左右で身体の重さが違う。
早く動けば動くほど、生身との差異が広がり、造られた手足が早まるのに対し、残った生身の身体がブレーキをかけ続ける。
全力で走り続けながらブレーキを踏み続ける身体が今のセラだ。
そんなもの、壊れて当然だ。
恐ろしい執念でしがみつきでもしない限り。
「じゃから最初に言ったような、手足の性能で周りが勘違いすると言った事はないじゃろう。我輩の思い違いじゃ。取り消そう」
少しでも戦うという事に身を置いているのなら、あの手足がどんなジャジャ馬か、すぐにわかるだろう。ましてやここは聖学。分からないような馬鹿は居ないだろう。
「構わんさ。スペックにだけ目を引かれるのは分からんでもない。まぁ、何でああなっても戦うのかは知らんがな」
「しかし、故にまだ発展途上じゃな。将来的に二つ名に成りうる可能性があるとしても、それはまだ今じゃないのう」
《臨界点》はそう評価した。
「とはいえ、マイの話によると、あの女は聖学に来てから手足を失って、それでも戦う事を選んだのじゃろう?貴様に贈られたあの手足に文句のひとつも言わずに。あの域まで使えるようになるには相当の経験が必要じゃし、折れぬ心も持ち合わせておりそうじゃ。今を逃したとて、そう遠くないうちに二つ名になってもおかしくは無いと思うんじゃがな」
「あぁ。俺も戦ってみて、少しあいつにゃ早いかも知らんと思った。だからあそこが引っかかるんだよな…」
「セラの言っていた、魔族を倒したという話ですの?」
「それだ」「そうじゃの」
俺と《臨界点》の声が重なり、どちらが喋るかで一瞬お見合い状態になる。
お先にどうぞと手のひらを向けると、素直に《臨界点》が喋り出した。
「あの女はほぼ単独で魔族を倒したと言っておったが、魔族はあの程度の力量で勝てる相手では無い。止めはセラではない別の者らしいが、その者とて片腕が無くなるような負傷をしたらしいではないか。セラが魔族のことに関して嘘をついておるとしか思えん」
「一応、ギミックを作った側から言うと、セラにゃ文字通り、一撃必殺の切り札がある。当たりゃ並の魔獣なら粉砕して原型を留めないし、魔族についても同様だろう。仮に耐えても瀕死になるのは間違いない」
「ほう。貴様との戦闘に使わなかったのはその威力を危惧してかのう?」
「いや、それもあるだろうが、使い捨てのギミックだからな。使えば多分左腕が消し飛ぶ」
そう言うと、アーネは思い出したらしい。
「あの頭がイカレているとしか思えないあれですわね。あの仕込みせいで左の配列に苦労した覚えがありますわ」
「そう、あれだ。しかもあの切り札はうっかり出ないように手順を踏んだロックをかけてある。咄嗟に即使えるものでもないし、射程がある武装でもない」
「射程はどのぐらいじゃ?」
「零距離…いや、動きを考えるとマイナス距離といっていいほど近づかなきゃならん。そのためのバネでもあるんだが…」
戦闘状態に入った魔族なら、緋眼と同等の能力を持つ。見切られて終わる可能性が大きい。
四肢が砕けたと言っていたので、切り札を使えた可能性は充分にあるが…さてどうか。
「まぁ、俺も今度、セラにもう少し聞いてみる事にする。じゃあな」
そう言って俺も訓練所を出る。
その日から数えて二日後、二つ名持ちが全員集まり、学校が始まるという日に生徒会から通達が入った。
通達は二つ。
セラ・フィクマは二つ名に足るか否か、二つ名持ちが判断しろという内容。
そしてもうひとつは、聖学祭に備えろという内容だった。
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