大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

義肢使いと銀鎧 終

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ギッ──と。
僅かに軋むような音がした気がした。
来るか。
そう思った直後、轟音と共にセラの姿が加速する。
気持ちユーリアの時に見せた加速より早いか。調整を施したのにこの速度という事は、自分でいくつかリミッターを外していたか。
だがこの程度なら。
この程度なら余裕で対応出来る。
《緋眼騎士》たる所以の眼を輝かせ、こちらへ落ちてくる動きを見切る。
左の足を頭部まで大きく開き、かつ回転しながら落下してくるセラ。
セラの足に仕込んだ刃は右足は脛の側に、左足は腿の側に存在している。さしずめ、今の踵落としは死神の鎌と言ったところか。
目にも止まらぬ速さで落下し、相手の身体を縦に切り裂く一撃。
成程、これは回避が難しく、防御もまた同様に難しいだろう。
「せああああああ!!」
裂帛の声。渾身の一撃。作った俺だから分かる。あの一撃は、竜と成ったルト先輩の硬い鱗ですら容易に切り裂き、肉を削ぎ、骨を絶つ。当たり所さえ選べるのなら、文字通りの必殺技となるだろう。
だからこそ、俺もそれに応じなければならない。
予備動作は既に済んでいる。身体に纏う燐光がその証。
その戦技アーツに名は無く、故に平凡。
しかし、それ故に不変シンプルにして確実な結果を残す。
言ってしまえば蹴って殴るだけのその技。
落ちてきた──否、堕ちて来た死神の鎌に対するは、ただただ純粋なその脚と拳。
それが今、交錯した。
先に動いたのは俺。緋眼による予測で足が落ちる場所、間合いを把握し、ステップしながら戦技アーツを放った。
ただただ横に蹴り抜くだけのそれは、戦技アーツの始動。威力が最も高くなるタイミングと、セラが落ちてくるであろうタイミングを完全に読んだ上での回避不可の初動。
回転しているとはいえ、真横からの攻撃は防ぎようもないと読んでの行動。
それがセラに読まれているとはこの時、まるで考えていなかった。
セラは俺が横にステップを踏んだ瞬間、右手の斧を展開、同時に振り下ろし、強引に加速した。
ほんの僅かな加速。そして回転は乱れ、半回転程ズレるが、足を曲げて着地する事でそれを微調整。
予測より早い着地。時間にしてコンマ五秒か。
しかし、完璧に合わせていたからこそ、そのコンマ五秒は絶対に間に合わない。
「ッ!」
ガチン、と今の勢いでバネが再装填され、さらに舟でも漕ぐようにして、槍が軋むことも厭わず、強引に身体の向きを俺に合わせて直角に曲げる。
俺の戦技アーツと、セラの蹴りが凄まじい音を立ててぶつかった。
しかし蹴りそのものの威力は俺が圧倒的に高い。そもそもセラの体勢は最悪と言っていいだろう。いくら四肢の力が増そうと、それが発揮出来ない体勢である以上、威力はロクにない。
だが、それを無理矢理埋める仕込みギミックを俺は仕込んだ。
ガギィン!!と、およそ蹴りとは思えないような金属の悲鳴が響く。
いまさっき装填し直された足のバネ。それを俺の足に直接叩き込み、蹴りを相殺するのではなく下から上へ当てるように撃ち、一方的に打ち勝って見せた。
「ぐっ!」
衝撃に吹き飛ばされ、さらに戦技アーツの強制中断で身体が僅かに固まる。時間にしておよそ二秒。
二秒もあればセラが体勢を立て直すことも容易。しかし距離が離された以上、逆に言えばそこまでしか出来ないだろう。一瞬、流れを持っていかれはしたが、まだ持ち直せ──
そう思っていた直後、俺の首が掴まれた。
「ッ!?」
そういやあったな。そんでもって、セラの要望で作った。
手足のリーチを伸すギミック。
セラの方を向くと、右手首から先が消失しており、代わりに細い管が俺の首元まで伸びている。直接視認して確認は出来ないが、その腕力を持ってして確実に喉へ食らいついているのは分かる。
指ががっちりと喉を掴み、ギシギシと締まってくる。
不味い、腕力的にセラには絶対勝てない。これじゃ対処の仕様が…ッ!
そしてその管がピン!と張った。
一気に巻き上げられ、俺の身体が地面を滑るように引き寄せられる。
「!」
「はあっ!!」
気合いの一撃。セラの左手が振り上げられ、そして──
『いやはや、まさか…危なかった。本当に危なかった』
「っ……!?」
ギシリ、と。
セラが拳を振り上げたまま、完全に動きを止める。
俺がゆっくりと立ち上がると、鎧の後頭部からするすると白銀の髪が流れ落ち、そして途中から花のように広がって開く。
『もしも引き寄せられずに、あのまま締め上げられていたら…俺は抵抗も出来ずに落ちていただろう。判断を誤ったな』
髪の射程はおおよそ三メートル半。そしてセラの腕の射程は五メートルを超える。単純な話、リーチ的に届かないのだ。
そして最早懐かしいものとなった古い型の鎧を一度見下ろし、腕を組んでセラを見る。
『まさかなぁ。こんだけの髪を使わんと動きを縛れんとはな』
俺の髪の実に九割。ほぼ全てを使ってセラの身体を縛り上げ、動きを封じた。
セラの身体は今、完全に俺の髪で封殺されている状況にある。
『もう一回聞く。降参は?』
そう聞くと、セラは少し身動ぎしてから「降参です」と悔しそうに言った。
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