大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

告白と目標

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時間にしておよそ一時間程か。俺が話し、アーネが聞き返し、俺が秘密にしてきた勇者の事、亡霊の事、聖女の事、王の事、魔王の事、そしてシャルの事は伏せつつナナキの事を話した。また、話の関係上何度か引っかかる神についても、俺が答えられる範囲で答え、狭間の子に関しては名前を出さずに存在だけ軽く伝えた。
「──大体こんな感じだ」
「話は終わり、ですの?」
「…あぁ。俺の話はこれで終わりだ」
そう言って、どちらともなく口から出たのはため息。俺は緊張から、アーネは疲労からだろうか。
「貴方、こんなものを言われて信じるとお思いですの?」
「信じてもらえねぇと思ってるから言って無いのが半分。もう半分が、そもそもこの話がヒトに知られたら不味い類いの裏話だからってのだ」
「でしょうね。仮にユーリア辺りが聞いたら作家にでもなる事を薦めそうですわ」
再びため息。
「けれど、貴方は手の込んだ嘘を言うような人じゃ無いことを、私は知っていますわ」
「………あぁ」
ここまで来て、それでも俺の心の中にあるのは後悔。後悔…いや、後悔と言うより、本当に巻き込んでよかったのかという疑問のような感覚が近い。
ふとアーネが笑い声を上げ、「いいんですのよ」と言う。
「それで、貴方の目標はどこにありますの?」
「最終的な目標は魔族の神、我神を殺すことだ。それが俺の理想に一番近い…そのために、まずは神をその玉座から引きずり下ろす必要がある」
「この時点で荒唐無稽な話ですわよね。神を殺すだなんて」
「しなきゃ終わらねぇし、俺の代で終わらせる」
それで、と続ける。
「去年、進級試験で捕まった空中都市、覚えてるか?」
「……捕まったことは覚えてますわ」
「そうか。あれを墜す。それが最初で最大の必須項目だ」
魔族の数はそう多くない。だと言うのに、一度入ったあの都市はかなり賑わっていた。
ならばきっと、あの都市にほぼ全ての魔族がいると考えていいだろう。
いや、仮に生き残りがいても構わない。
神をここへ引きずり下ろすことさえ出来れば。
俺の刃が届く距離まで来れば。
「…その事、聖女様に話したんですの?」
「俺の身の上は話したが、このことはまだ話してない。落とす手段か…せめて乗り込む手段を見つけてからだな」
理屈は合ってるだろうし、落とせれば魔族へ大打撃が与えられる。それは間違いない。
だが、そもそも落とす手段がない。
あれは雲より高い位置にあり、空を見上げてもどういう理屈か影も形も見えない。そもそも外側からの攻撃手段となると、弓か魔法ぐらいしかないが、弓は届かない距離だろうし、魔法は魔族の方が上手。
──実を言うと、あの都市を落とすだけなら俺に考えがなくも無い。
それにしても問題はあり、絶対条件として俺があの空中都市に居ることが前提となる。
以前侵入出来たのは、とある親切なおっさんがいた事と、敢えて産獣師が俺を泳がせていたためである可能性が非常に高い。
だとすると、もう二度とあの方法で空中都市に行くことは出来ないだろう。
「…わかりましたわ。ならまず、当面はそこですわね」
「あぁ」
それに──この作戦を実行に移すなら、一番の障害は多分、聖女サマになる。
「それでは、おやすみなさいですわ」
「あぁ、おやすみ」
そう答えると、アーネが当たり前のように俺の頬へキスをして部屋を出る。
「…あいつ、もしかしてキス魔って奴なのか?」
ボソリと呟き、いつの間にか帰ってきていたマキナを軽く投げたりして弄びつつ、一人で考える。
キス云々のことではなく、今の時間で会話の事だ。
「あいつ…単語の意味は聞き返したが、全部聞こえてはいたんだよなぁ…」
普通のヒトならそもそもフィルターがかかって言葉が理解出来ないはず。俺ですら最初は単語が不鮮明になって聞こえなかったのに。
何故アーネはかかっていない?
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