大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

灰と勇気

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訳の分からない問題を必死になって埋めるという作業を一時間×三回繰り返した後、それぞれがクラスから出ていく中、一つの真っ白な燃えカスが机を一つ占領していた。
「うあ……もーだめ、もーむり…」
まぁ、俺なんだが。
辛うじて魔獣の事は書けるか?とか思ったが、大鬼オーガに効く魔法とかなんだそれ、知るか。頭カチ割れば死ぬわ。
つまりはそれなりに書けなかった訳だが。他の礼儀作法や、集団戦法もほとんど分からなかった。
ナイフとフォークなんかいらねぇよ。最悪手づかみで食うから。
集団で戦う時、絶対にしちゃいけない事?死ぬことじゃね?
そんな机の上で燃えカスになりかけている俺を、誰かが上から覗き込んだ。
「ん?」
「やぁ」
視線を上に上げると、美しい金色の髪が視界に入った。
「なんだ、誰かと思えばリーザか」
「むぅ、その反応、酷くない?」
「裏切り者にくれてやる反応としちゃ上等だろ」
「あれは仕方ないでしょー?」
身体を起こして周りを見渡す。
他は誰もいないようで、アーネやシエルすら帰ったようだ。まぁ、合鍵あるから構わんのだが。
「んで、何用?」
長時間座っていた事で疲れた腰を捻り、ゴキゴキと鳴らしながらそう聞く。
「うん?別に。ちょっとお願いがあってさ」
「ほほぅ?体質治してやった上、訓練もつけてやった俺様にまだ何かお願いがあると?言ってみろよ」
「う」
そう言ってリーザは黙り込む。
そろそろ昼時。机の上で灰になっていても腹は減るモンで、つまりは早くオバチャンの飯を食いたいのだが。
「…なんだ?特にないなら俺は帰るぞ。またどうせ明日もあるだろ?」
椅子を引き、立ち上がって──後ろから抱き締められた。
「…なんだ?」
「ゴメン、今すぐ勇気が欲しいんだ」
細く、捻り出したような声。
「んなモン、俺がやれるモンじゃねぇよ。勇気ってのは本人が欲しい時に無くて、気づいた時にはあるモンなんだから」
「…そっか」
背中にくっついていた人の暖かさが離れる。
「何がしたかったんだ?」
そう言いながら振り返ると。
頬に何かが触れた。
至近距離にはリーザの金色の髪と、閉じられたまぶた。ナナキが死んで以来、久しく感じていなかったこの感触は──。
「ありがと。勇気貰えたよ。これはそのお礼」
「あぁそうかい、それなら何よりだ」
そう言ってそのまま教室を出、そのまま食堂へと足を向ける。
『……………レーーーイーーーアーーー?』
唐突に頭の中で響く、いつもよりやけに低い声。
どうした?シャル?
『どーしてキスなんて貰ったのーーーーー?』
…なんかやたらと絡むな。
『いーからはーやーくー!』
別にキスの一つや二つ、貰った所で特に深い意味も無いだろ。
『………へ?ちょっと待って。キスの意味って知ってる?』
あん?親愛の証、だろ?ナナキが言ってた。
『…………えー、あー、うーん。そっかー、そうだよねぇー』
どうした?
『……いや、何でもない。けどそっかー。そっかー……』
…訳分からん。
頭の中でそんな会話をしつつ、俺達は食堂へと足を向けた。
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