大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,561 / 2,022
本編

祭りと酒

しおりを挟む
「で、こうなる訳か」
はぁ、と溜息。
夜は深まり、祭りの喧騒に呑まれた広場は食えや飲めや、歌えや踊れの大騒ぎ。出し物や曲芸が始まり、どこからでも楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
のだが。
「学ばなかったのかねぇ」
「なぁーにがですのぉ?」
「いんや、なんでもねぇ。止めても聞かねぇしな」
目の前でかっぱかっぱと酒の入ったジョッキを次々空けながら飯を食っていくアーネ。去年も聖女サマも似たような感じだったなと思いつつ、早くも介抱の事を考える。
去年みたいにそのうち酔いつぶれるだろうから、それを適当に掴んで帰るか。身体に明らか悪い飲み食いしてるが、鉄の胃袋を持ってんだし、鋼の肝臓も持ってんだろ。
それにまぁ、飯食ってる時のこいつが一番こいつらしいし、楽しそうだ。
「あ、あのぅ…」
「………。」
「あの、あなたです。いいですか?」
肩を叩かれ、そこでようやく気付く。
「ああん?」
聞き覚えのない声だったので呼ばれていた事に気づかなかった。何事かと振り返ると、糸目の男がそこに立っていた。
「なんだアンタ」
言ってから、胸元に教会のシンボルが入ったペンダントを確認する。教会の関係者か?
「いえ、お連れさんが非常に勢いのある食事をしていたので…」
「…アンタも食う?」
「そうではなく…その、不躾ながら身体は大丈夫なのかと」
なんだコイツ。なんで他人の身体に気遣ってんだ?
「いやまぁ、確かにそう言うスキルじゃないし、体質でもないだろうが…特に普段は酒なんて飲まねぇしな」
「でしたら、これをどうぞお使いください」
と言って渡されたのは、なんとも質の悪い紙。ひっくり返してみると、そこには魔法陣が書いてある。
「なんだこれ」
「使い捨てですが解毒の魔導具です。酔い醒ましに使えますよ」
「ほー。便利なもんだな。いいのか?こんなもん貰って」
解毒…魔法は現象を起こすものだから、この場合は解毒作用のある肝臓を活性化させる魔導具だろうか。
「ええ。構いません。ただ、二枚目以降は…」
「やれないって?」
「いえ、お布施を…」
「商売か。あぁなるほど…そりゃ需要あるわな」
そう言うと、男は苦笑する。
「何をするにもお金は要るので…そちらの一枚は差し上げます。ケイナズ様の家には色々とお世話になりましたので…」
「ふーん…もう一枚貰っていいか?金は払う」
そう言うと、男は僅かに笑んで解毒の紙を手渡す。こちらにもボロボロの紙に魔法陣が書いてある。
「お釣りは出せないので丁度でお願いします。銅貨…」
「サンキュー。んじゃこれお代」
と言って男の言葉を遮り、金貨を一枚渡す。
「…お釣りは出せないと言ったはずですが」
「生憎俺も手持ちが無くてな。金貨これで勘弁してくれ。代わりに釣りは要らん」
「しかし…」
「俺の気が変わらんうちに行け。こっちは今、デートで忙しいんだ」
そう言うと、男は少々混乱したように俺とアーネを何度か見比べ、もう一度俺に視線を戻す。
「えっと…失礼ですがその、好奇心で聞くのですが、同性愛の…」
「俺は男だ。本気でその金取り上げんぞ」
本当に失礼な事聞いてきやがったなこいつ。
しおりを挟む

処理中です...